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2018年5月28日月曜日

「ソーセージ&ビール フェスティバル」(JR津田沼駅前)に参加してみた-ストーリーで町おこし


 「ソーセージ&ビール フェスティバル」(津田沼駅前)に立ち寄りで参加、現在売り出し中の「習志野ソーセージ」を千葉県の地ビールである安房ビールの黒で味わう。 

この「習志野ソーセージ」は、第一次大戦中の青島(チンタオ)攻略戦で戦争捕虜となったドイツ人兵士から伝授されたレシピにもとづくのだとか。習志野には陸軍基地があり、基地内に設置された「俘虜収容所」に収容されたドイツ人兵士のなかにはソーセージ職人もいたのだという。その味を現代に再現したものだそうだ。


    

グリルしたソーセージからは熱々の肉汁が飛び出してきて旨い。 当然のことながらビールにはよくあう。

「安房ビール」は、房総半島の南房総市にある地ビールの醸造所がつくっているもの。黒ビールしか残ってなかったが、ドイツ風のドゥンケルで味は良し。選択は正解であったといえよう。



 「地ビール×ご当地ソーセージ」の組み合わせは、村おこしならぬ、町おこしか。

日本の地方は、もっとドイツのように地方色を前面に打ち出したらいい。金太郎飴のように全国チェーン店ばかりが増え続けている現在の日本は、救いようがないほどに画一化が進んでしまっている。こうした状況へのアンチテーゼとして、土地にまつわるストーリーを掘り起こしてどんどん推進すべきだ。

キーワードは、その土地にまつわるストーリーである。「習志野ソーセージ」の場合は、第一次世界大戦のドイツ人捕虜だ。どんな地域でも、それなりのストーリーが発見できるはずだ。ぜひ掘り起こしてみて欲しい。







<関連サイト>

ソーセージ&ビール フェスティバル(習志野ソーセージ公式ブログ)

「安房ビール」(公式サイト)


(2023年12月16日 情報追加)



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ドイツの「ビール純粋令」(1516年4月23日発布)から本日で500年

タイのあれこれ(5)-ドイツ風ビアガーデン

「ラオス・フェスティバル2014」 (東京・代々木公園)にいってきた(2014年5月24日)
・・ラオスのソーセージは旨い!

「タイガー・ビア」で乾杯!!

ミャンマー再遊記 (4) ミャンマー・ビアとトロピカルフルーツなどなど

『ベルギービール大全』(三輪一記 / 石黒謙吾、アートン、2006) を眺めて知る、ベルギービールの多様で豊穣な世界

(2018年6月15日 情報追加)



(2017年5月18日発売の拙著です)




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2018年4月18日水曜日

書評『戦争を始めるのは誰か ー 歴史修正主義の真実』(渡辺惣樹、文春新書、2017)- サブタイトルから受ける印象で敬遠せずにぜひ読むべき真っ当な内容の現代史


買ったまま積ん読にしていた『戦争を始めるのは誰か-歴史修正主義の真実-』(渡辺惣樹、文春新書、2017)を読んだ。読みながら思ったが、この本は読む価値が大いにある。 

「歴史修正主義」とか「真実」なんてコトバが表題にあるだけで胡散臭い感じがプンプンして敬遠したくなるのが正直なところだが、虚心坦懐にこの本を読んでみると、意外と(?)きわめて真っ当な内容であることに気づく。 

著者のいう「歴史修正主義」とは、世間一般で使用されている否定的ニュアンスのものとは違う「米英両国の外交に過ちはなかったのか、あったとすれば何が問題だったのか、それを真摯に探ろうとする歴史観」のことだ。

具体的には、第二次世界大戦の米英を中心とした「連合国」の立場を正当化するために、事実関係を都合良く取捨選択してつくられたストーリーに異議申し立てをする立場のことだ。端的にいえば、日本を戦争に追いやった日本嫌いで中国好きのフランクリン・D・ルーズベルト(FDR)の真相を明らかにし、日米戦争が本来は不必要な戦いであったことを明らかにすることにある。

著者は、けっして 「枢軸国」のドイツや日本が正しかったのだと主張しているわけではないヒトラーやスターリンが正しかったのだなどと主張しているわけではない。あくまでも虚心坦懐に事実関係を検証していく立場である。この点は強調しておく必要がある。 

帯のオモテには、「チャーチルとルーズベルトがいなければ第二次世界大戦は起こらなかった!」とある。 この本を読むと、とくにフランクリン・D・ルーズベルト(略してFDR)が諸悪の根源であったことが納得される。ニューディール政策の失敗を糊塗するため戦争による景気刺激を欲しており、欧州の戦争への介入機会を探っていたことは、日本人の常識とすべきだろう。

欧州問題にはかかわらないというワシントン以来の国是である「孤立主義」から逸脱し、「介入主義」を推進した張本人がFDRであり、そしてその先行者がおなじく民主党の第一次世界大戦への米国の介入を推進したウッドロウ・ウィルソンであることがよくわかる。 日本では理想主義者として礼賛されがちな二人だが、ともにプロテスタント牧師の子ども、善悪で白黒をつけたがる独善的思想の持ち主で、ともに人種差別主義者であった。

チャーチルについては、つい最近も2017年に英国で製作された『ウィンストン・チャーチル』という映画が日本公開されており、関心が再び高まっているものと思う。大恐慌(1929年)で大きな借金を抱えることになったことは映画にも出てくるが、ナチスが台頭したことが、反ナチス・反ドイツを主張していたチャーチルを政治の表舞台に「復活」させたことも事実である。チャーチルもまたFDRと同様、「好戦的」であったことは否定できない事実だ。 



日本で使用されている「世界史の教科書」で教えられてきた「米国政府の基本見解に基づく公式見解」とは違うかもしれないが、あくまでもドイツのポーランド侵攻(1938年)の時点で、第二次世界大戦の根本原因が何であったかを探った内容の本である。じっさい読んでみての感想は、かなりの程度、納得のいくものであった。 

世の中の出来事というものは、後付けの理屈で整理されるほど簡単な図式で割り切れるものではない。複雑な要素がからみあっているのであり、その時、その時の指導者たちの思惑が、意志決定の正しさや間違いも含めて複雑にからみあって、「流れ」が出来上がっていくものだ。 

この本が出版されたのは2017年1月で、その当時のわたくしは拙著『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』の執筆に専念しており、この本を読むヒマはなかった。 だが、本書で展開されている基本的な見解にかんしては著者の渡辺氏とは共有しているものが多々あることがわかって、大いに心強い思いをしている。(上掲の写真の、帯のウラに記された箇条書きの文言を参照)。 

単行本のようにボリュームも内容もある本だが、関心のある人にはぜひ読むことを勧めたい。






目 次     
はじめに 
第1章 第一次世界大戦の真実 
第2章 第一次世界大戦後の歴史解釈に勝利した歴史修正主義 
第3章 ドイツ再建とアメリカ国際法務事務所の台頭 
第4章 ルーズベルト政権の誕生と対ソ宥和外交の始まり 
第5章 イギリスの思惑とヒトラー 
第6章 ヒトラーの攻勢とルーズベルト、チェンバレン、そしてチャーチル 
第7章 ヒトラーのギャンブル
おわりに
人名索引


著者プロフィール    
渡辺惣樹(わたなべ・そうき)
日米近現代史研究家。1954年生まれ。静岡県下田市出身。東京大学経済学部卒業。カナダ・バンクーバー在住。英米史料をもとに開国以降の日米関係を新たな視点から研究。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)





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2017年5月19日に5年ぶりに新著を出版します-『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』(佐藤けんいち、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017)

「第一次世界大戦」の勃発(1914年7月28日)から100年-この「世界大戦」でグローバル規模のシステミック・リスクが顕在化

「サラエボ事件」(1914年6月28日)から100年-この事件をきっかけに未曾有の「世界大戦」が欧州を激変させることになった

『「経済人」の終わり』(ドラッカー、原著 1939)は、「近代」の行き詰まりが生み出した「全体主義の起源」を「社会生態学」の立場から分析した社会科学の古典

書評 『未完のファシズム-「持たざる国」日本の運命-』(片山杜秀、新潮選書、2012)-陸軍軍人たちの合理的思考が行き着いた先の「逆説」とは

映画 『ヒトラーに屈しなかった国王』(2016年、ノルウェー)を見てきた(2017年12月22日)-立憲君主制のあるべき姿を身をもって示した国王の苦悩と決断の3日間

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書評 『マンガ 最終戦争論-石原莞爾と宮沢賢治-』 (江川達也、PHPコミックス、2012)-元数学教師のマンガ家が描く二人の日蓮主義者の東北人を主人公にした日本近代史

「Dデイ」(1944年6月6日)から70年-『史上最大の作戦』であった「ノルマンディ上陸作戦」


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2016年10月24日月曜日

映画『奇蹟がくれた数式』(英国、2015年)を見にいってきた(2016年10月23日)― 天才数学者ラマヌジャンもまた夭折した「神に愛された天才」



映画『奇蹟がくれた数式』(英国、2015年)を見にいってきた(2016年10月23日)。

ヒンドゥー教の神に愛されたインド人天才数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの短い生涯を描いたヒューマンドラマ。第一次世界大戦を挟んだ時期の英国とその植民地であったインドに生きた二人の数学者の「友情」がテーマである。

英国人とインド人。いまでこそ対等の関係であるが、100年前の第一次世界大戦の時期はそうではなかった。衰退傾向にあったとはいえ大英帝国、第一次世界大戦後の「民族自決」の流れのなかで独立志向を高めていったインド。

帝国と植民地という真逆の関係。ケンブリッジ大学教授と、無名で学歴もないインド人の若者という真逆の関係。信仰にかんしては無神論者と熱烈なヒンドゥー教信者という真逆の関係。そんな真逆の関係でありながら、英国人の天才数学者と無名の天才インド人を結びつけたのは、ただ一つ、「数学愛」であった。




英語のオリジナル・タイトルは、The Man Who Knew Infinity(無限を知っていた男)「無限∞」を知っていた男とは、この映画主人公、夭折の天才ラマヌジャンのことである。

この英語のタイトルに注目する必要がある。「無限を知った男」(The Man Who Got to Know Infinity)ではない、「無限を知っていた男」(The Man Who Knew Infinity)なのである。「無限」につづく「素数」のなかで生きていた人なのである。

熱烈なヒンドゥー教信者であったラマヌジャンにとって、「無限」とは当然のことながら神が創ったものである。だから、ラマヌジャンが「発見」した数多くの公式は、彼みずから編み出したものではなく、神に教えられたものなのだという発言につながるのだ。これは嘘偽りのない発言だと受け取るべきだろう。

「神に愛された者は若死にする」というフレーズがあるが、天才数学者ラマヌジャンもまたそうだったのだろうか。

もちろんラマヌジャンが短命に終わった理由はいくつでもならべることができる。

―  出身地の南インドのマドラス(・・現在のチェンナイ)と英国の気候風土の違い。
―  バラモンの家系に生まれたためにベジタリアンであったものの当時の英国では菜食主義にかんする理解が一般的に乏しかったこと。
―  結核に感染していたがベジタリアンのため十分な栄養が取れなかったこと。
―  無理解な英国人社会のなかでのマイノリティとしての苦痛。
―  第一次世界大戦の最中であり、故郷に残してきた妻と再会できなかったことによる孤独。
などなど。




だが、100年かかって、現在ようやっとラマヌジャンの公式の証明が進みつつあるという事実が示すように、あまりにも時代の先をいっている内容であったことに、夭折の理由があったような気もする。数学者のコミュニティ内部での無理解にもとづく癒やされることのない孤独感。

天啓によって数学の公式を知ったラマヌジャン自身の認識においては、熱烈に神を信仰していた彼は、また同時に神の加護にもとにあったというものだったのではないだろうか。日本人の天才数学者・岡潔(おか・きよし)もまた、晩年は熱烈な念仏信者となっていたことを想起する。

天才の脳内の仕組みは、正直いってよくわからない。数学の天才も、宗教の天才もまた、常人の理解を超えた存在である。だから、「神に愛された天才は若死にする」といっても、かならずしも的外れな指摘とは言えないのではないか。

いまから100年前の話だが感動的な内容の映画である。そしてこの映画をみたあとは、天才数学者ラマヌジャンが生きた存在として、映画を見た人の脳内に生き続けることになるであろう。


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<関連サイト>

映画 『奇蹟がくれた数式』 公式サイト(日本公開版)

The Man Who Knew Infinity – Official Trailer

現代の数学者を悩ませ続ける「100年前の数学の魔術師」シュリニヴァーサ・ラマヌジャン(WIRED.jp、2016年10月21日)



<ブログ内関連記事>

最近ふたたび復活した世界的大数学者・岡潔(おか・きよし)を文庫本で読んで、数学について考えてみる


数学関連

「オックスフォード白熱教室」 (NHK・Eテレ)が面白い!-楽しみながら公開講座で数学を学んでみよう

月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号の 「特集 そして、「理系」が世界を支配する。」は必読!-数学を中心とした「文理融合」の時代なのだ

資本主義のオルタナティブ (3) -『完全なる証明-100万ドルを拒否した天才数学者-』(マーシャ・ガッセン、青木 薫訳、文藝春秋、2009) の主人公であるユダヤ系ロシア人数学者ペレリマン

映画 『イミテーション・ゲーム』(英国・米国、2014年)をみてきた(2015年3月14日)- 天才数学者チューリングの生涯をドイツの暗号機エニグマ解読を軸に描いたヒューマンドラマ


ケンブリッジ大学

日本語の本で知る英国の名門大学 "オックス・ブリッジ" (Ox-bridge)

書評 『イギリスの大学・ニッポンの大学-カレッジ、チュートリアル、エリート教育-(グローバル化時代の大学論 ②)』(苅谷剛彦、中公新書ラクレ、2012)-東大の "ベストティーチャー" がオックスフォード大学で体験し、思考した大学改革のゆくえ

書評 『名門大学スキャンダル史-あぶない教授たちの素顔-』(海野弘、平凡社新書、2010)-奇人変人の巣窟である大学を人物エピソードで描いた英米名門大学史


インド関連

書評 『インドの科学者-頭脳大国への道-(岩波科学ライブラリー)』(三上喜貴、岩波書店、2009)-インド人科学者はなぜ優秀なのか?-歴史的経緯とその理由をさぐる
・・「著者は、とくに知識層としてのバラモン階級がヒンドゥー教徒としての「心の内なる規制」が足かせになっていたことを、実例をもって指摘している。 同時に、宗教上の理由から行われてきた詠唱(チャンティング:chanting)がインド人科学者たちの論理的能力のバックボーンにあることも著者は指摘している。詠唱によって、まとまった長い文章を記憶する訓練。 そして、サンスクリット語の論理的厳密性が、現在でもインド人科学者たちの論理的思考能力の支えになっている」

・・ガンディーもまた英国で学んだ人。英国で法曹資格を取得した弁護士で、英国滞在中に神智学との接触でみずからのルーツであるヒンドゥー教に覚醒

(2026年1月25日 情報追加)


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2015年9月12日土曜日

書評『毒ガス開発の父ハーバー  愛国心を裏切られた科学者』(宮田親平、朝日選書、2007)ー 平時には「窒素空中固定法」で、戦時には「毒ガス」開発で「祖国」ドイツに貢献したユダヤ系科学者の栄光と悲劇

(第一次大戦中、軍服姿の科学者ハーバー)


1914年に始まった第一次世界大戦は、じつに過酷で悲惨な戦争であった。その大半が塹壕での膠着戦であり、対峙する双方がさまざまな新兵器を導入して突破口を開こうと試みた。戦車や航空機、それに毒ガスである。その結果、人類史上で未曾有の戦死者がでたのである。

ドイツが全面的に導入したのが毒ガスである。最初に使用したのはフランスだといわれているが、全面的に導入したのはドイツである。ドイツは当時はすでに科学、とくに化学(ケミカル)の分野では世界最先端の技術と量産能力を有し、化学工業の分野では世界をリードしていた。

その毒ガス開発の指揮を軍内でとったのが、本書の主人公フリッツ・ハーバー(1868~1934)という化学者であった。大戦後の世界一周旅行の際、日本では「毒ガス博士」として紹介されたという。本人もその周囲も、毒ガス開発の責任者であったことは、なんら恥ずべきことではなかったというのが驚きだ。サリンがじっさいにテロとして使用されて以降の日本人には、想像しがたいことである。

しかも、「毒ガス博士」のハーバーはノーベル化学賞の受賞者(!)なのである。それも、大戦後の1918年のことである。大戦中の毒ガス使用の件もあり、ドイツは世界の科学界からは締め出されていたなかでのことである。敗戦国となって混乱していたドイツへの間接的支援の意図がノーベル財団にはあったらしい。

もちろん、受賞理由は毒ガスではなかった。大戦前に発見し技術として確立した「窒素空中固定法」がその対象である。ハーバー=ボッシュ法ともいわれるが、この技術の確立によって、ドイツのみならず、世界の食糧問題は根本的に解決されたといっても過言ではない。植物の生育に不可欠な窒素を、無限に存在する空気から取り出すことに成功したのである。もしこの技術がなかったら、現在のような人口爆発は支え切れなかったはずだ。

ハーバー・ボッシュ法と呼ばれているのは、理論と技術の発明者のハーバーと量産化を実現した化学メーカーBASFのボッシュの両者がかかわっているからだ。技術に重点がおかれた科学理論がノーベル賞受賞の対象となったことは興味深い。そもそもノーベル自身、ダイナマイトで財を成した企業家である。

ハーバーが実現した「窒素空中固定法」と「毒ガス」開発。まったく相反するかに見えるこの二つの開発は、化学という共通項だけではなく、「人道的」という共通項もある。すくなくとも開発当事者のハーバー自身にはその認識があった。毒ガスは、戦争を早期終結させるための「人道的な兵器」として開発されたからである。原爆開発を主導した米国と同じロジックである。だが、毒ガスは戦争の早期終結にはつながらなかった。

ちなみに、のちの独裁者ヒトラーは、この戦争に勇敢な一兵士として戦っていたが、最終段階で敵による毒ガス攻撃を受け負傷し、病院内でドイツの敗戦を知ることになった。


ユダヤ系ドイツ人としての生涯

「毒ガス博士」フリッツ・ハーバーはユダヤ系であった。近代ドイツにおいてユダヤ系市民として生きるということが意味したものを考えると、ハーバーの生涯には栄光と悲劇がともに存在することを知ることになる。

まずは個人的な面にかんしては、自身もユダヤ系で化学者であった妻クララは、夫の毒ガス開発に反対し、世界ではじめて実戦に使われた1915年に自殺している。おなじくユダヤ系の友人アインシュタインからは、「君は傑出した科学的才能を大量殺戮のために使っている」と言われていた。

傑出した業績を残し、化学王国ドイツに多大なる貢献をしたハーバーだが、その晩年はナチスのユダヤ人排除政策によって、名誉あるカイザー・ヴィルヘルム研究所の所長から追われることになる。第一次大戦では、毒ガス兵器開発によって軍人として国家に多大なる貢献をしたにもかかわらず・・・。

さらにいえば、没後のことであるが、みずから開発した農薬の殺虫剤チクロンBが、ナチスの絶滅収容所において同胞のユダヤ人の命を抹殺することに使用されるとは、よもや想像だにしなかったであろう。

豊かな人文的教養に支えられて話題も豊富、エネルギッシュで勤勉、しかも天才肌でありながら、組織化能力が高くリーダーシップを発揮した実務的な側面ももっていた科学者ハーバーは、近代ドイツの「同化ユダヤ人」の一典型でもあった。

19世紀になってから「解放」されたユダヤ人は、社会的な成功を求めて積極的にドイツ文化に同化を図り、なかには世俗的な成功をつかみとるためにキリスト教に改宗した「改宗ユダヤ人」もでている。革命家のカール・マルクスや、その同時代の詩人ハイネ、哲学者のフッサールやジンメルなど多数にのぼる。マルクスの場合は、弁護士であった父親がすでに改宗していた。

近代国家ドイツ、その中核にあったプロイセン王国は、フリードリヒ大王が亡命フランス人プロテスタントであったユグノーやユダヤ人などに寛容であったが、統一後のドイツ全体でみれば、ユダヤ人にはかならずしも完全に門戸が開かれていなかった。実力がものをいう科学界もまた例外ではなかった

ハーバーもまた、成功した商人父親の意思に反して「改宗ユダヤ人」となったが、それにもかかわらず、挫折につぐ挫折の20歳代を送っている。

そんな人生前半期の体験が、過剰なまでに愛国心を発揮し、「祖国」ドイツの運命にコミットさせたのであろう。その意味では、過剰適応は成功を生み出した反面、裏切られたときのショックはとてつもなく大きかったに違いない。


日本とのかかわりなど

日本との密接な関係についても本書には詳しく書かれている。

星製薬設立者の星一(ほし・はじめ)とのあいだに密接な協力関係が築かれたことである。日本側は星一、ドイツ側はハーバーが窓口となって、第一次大戦敗戦後の混乱するドイツの科学界再興に奔走している。成功した起業家であった星一は、資金面で全面的に協力していた。

資金調達もそのテーマのひとつであった世界一周旅行の途上で日本に立ち寄っており、星一を仲介して日本陸軍とも関係をもったらしい。毒ガス開発への協力がテーマではなかったかと著者は推測しているが、この点はもっと研究されてしかるべきテーマである。ちなみに通常兵器にかんしては、ドイツ国防軍は秘密裏にソ連と密接な関係を構築している。

基本的にハーバーの生涯を淡々と叙述しているが、近代ドイツを生きた天才科学者の生涯に、近代ドイツの運命とドイツ系ユダヤ人の運命を重ね合わせながら読むと、さまざまな感慨を感じることになるだろう。さらにいえば、日本とドイツ、日本とユダヤ人の関係についても。

米国による原爆開発にもユダヤ系科学者が多数かかわっているが、ドイツによる毒ガス開発もまたそうであった。科学者と愛国心いう大きなテーマは、ユダヤ人科学者にとっては実存そのものにかかわる問題であったことをアタマのなかに入れておきたい。


 (画像をクリック!

目 次

プロローグ
1. 生い立ち
2. 挫折と苦闘の日々
3. 陽の当たる場所へ
4. 空中窒素固定法の成功
5. 家庭崩壊の兆し
6. 毒ガス戦の先頭に立つ
7. 死の抗議と第二のロマンス
8. 敗戦と逃亡
9. ノーベル賞、星基金、チクロンB
10. 海水から金を採取せよ
11. 日本訪問
12. 報酬は国外追放
13. 最愛の国家に裏切られて
エピローグ
あとがき
参考・引用文献


著者プロフィール

宮田親平(みやた・しんぺい)
1931年東京生まれ。東京大学医学部薬学科卒業。文藝春秋入社。雑誌編集者などを経て、現在フリーの医・科学ジャーナリスト。著書に、 『「科学者の楽園」をつくった男-大河内正敏と理化学研究所-』(河出文庫)など多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)。



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書評 『「科学者の楽園」をつくった男-大河内正敏と理化学研究所-』(宮田親平、河出文庫、2014)-理研はかつて「科学者の楽園」と呼ばれていたのだが・・

自動小銃AK47の発明者カラシニコフ死す-「ソ連史」そのもののような開発者の人生と「製品」、そしてその「拡散」がもたらした負の側面
・・カラシニコフもまた祖国の勝利のために開発に専心したのであったが、その結果は兵器の大量拡散となってしまった。正義感の行方とは

書評 『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く-』(青木冨貴子、新潮文庫、2008 単行本初版 2005)-米ソ両大国も絡まった "知られざる激しい情報戦" を解読するノンフィクション
・・ドイツだけでなく日本もまた


「窒素空中固定法」の革命的な意義

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ノーベル賞

朗報! 2014年度のノーベル物理学賞は青色発光ダイオード開発の中村博士ほか日本人3人に決定!(2014年10月7日)

書評 『「大発見」の思考法-iPS細胞 vs. 素粒子-』(山中伸弥 / 益川敏英、文春新書、2011)-人生には何一つムダなことなどない!


ユダヤ系ドイツ人にとってのドイツ

書評 『対話の哲学-ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜-』(村岡晋一、講談社選書メチエ、2008)-生きることの意味を明らかにする、常識に基づく「対話の哲学」
・・「18世紀の啓蒙の時代に「解放」され、19世紀には西洋社会に「同化」したはずだと思っていたドイツのユダヤ人、しかし彼らは根強く社会に存在する「反ユダヤ主義」のなか、「同化」によるアイデンティティ喪失の道ではなく、自らの内なるユダヤ性探求の方向に向かい出す。」  ⇒ ハーバーとの違い

『蛇儀礼』 (アビ・ヴァールブルク、三島憲一訳、岩波文庫、2008)-北米大陸の原住民が伝える蛇儀礼に歴史の古層をさぐるヒントをつかむ
・・「西欧人でありながらユダヤ人であることに悩みつづけた著者は、ハンブルクの著名な銀行家ヴァールブルク家の長男に生まれながら家督相続を拒否し、さらにはユダヤ教からも遠ざかるのですが、いくら自分の意識のなかでユダヤ性を遠ざけても、自分を見る周囲の目にはユダヤ人でしかないという矛盾を感ぜずにはいられないのでした。こうした自己認識と他者認識のズレが繊細な精神をもつ著者を、最終的に精神の病に追い込んだ」 ⇒ ハーバーとの違い

(2015年9月20日、11月15日・18日 情報追加)



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2014年11月29日土曜日

書評『1914年 ー 100年前から今を考える』(海野弘、平凡社新書、2014)ー「センチュリー」(=100年)の最初の「デケイド」(=10年)をハード・ソフトの両面から振り返る


ことし2014年は、第一次世界大戦が勃発してから百年。さまざまな機会に振り返りが行われているが、一般的な日本人が想像する以上に、第一次世界大戦が時代の「大転換」になったことは、あらためて強調しておきたい。1914年当時は「第一次」でなく、人類がはじめて体験した「世界大戦」であったのである。

この本は、文化史から出発して百冊以上の本を出してきた博識の著者が、1914年に始まる「センチュリー」(=100年)の最初の「デケイド」(=10年)を振り返ったものだ。1914年についてのみ書かれた本ではない。

新書本なので、深く突っ込んだ議論がなされているわけではないが、1914年が大転換点になったことをさまざまな側面から見るオムニバス方式の内容だ。

二部構成で、前半は政治経済と軍事、情報といったハードな側面後半は、文化というソフトな側面から。1914年からの最初の10年について要領よく知りたい人は、前者はコンパクトにまとまっているので、これを読むだけで十分だろう。

ただし事実誤認と思われるような点や、参照や依拠している文献の問題点を感じざるをえない箇所が散見される。治安維持法関連の項目など、最新の研究成果を踏まえているとは言い難い。日本関連のことにかんしては、一言でいえば史観が古くさいのだ。

第一次世界大戦については、2014年には、あらたに何冊も出版されているので、別の本を読むことを薦めたい。これらについては後日このブログでも取り上げる予定だ。

むしろ、後半の文化面こそ著者本来の関心分野であるだけに、モダン・アートにかんする章など面白いものもある。ただし、総花的で薄い記述に終わっているという印象は免れえない。ラフスケッチといった印象である。

細かい事実関係の誤りなどに目をつむれば、1914年前後がいかに、大転換期になったかの概観をつかむことは可能だろう。


「100年単位」をタイムスパンとすることの意味と限界

著者も書いているように、10年はデケイド(・・著者はディケイドと書いているが間違い。英語の発音としては「デケイド」でなくてはならない)、30年は世代(=ジェネレーション)、100年(=センチュリー)は3世代強となる。

人間の一生は通常100年を越えることがないので、自分が体験していないことはイマジネーションの限界を超えている。最近よく思うのだが、30年前のことですら、ほとんど覚えていない。遠い国の話のような気もするくらいだ。自分とは関係ないような気さえする。

だから100年前のことが、かえってあたらしく感じられるのだ。自分が体験していないからこそ新鮮なのである。

だが、100年単位でみることは重要だが、わたしは、いまを考えるにあたっては、100年単位というよりも500年単位でみたほうがより正確だと考えている。現在は100年前と似ているというよりも、16~17世紀に似ていると考えるべきなのだ、と。

歴史を考えるに当たって、どの程度のタイムスケールで考えるかという問題なのだ。

出版社がつけた帯には、「歴史は再び繰り返されるのか」というキャッチコピー書いてあるが、これは愚問というべきだろう。著者もまた同様の感想を書いているが、歴史そのものは繰り返されることはない。似たようなパターンは出現しても、内容は同一ではない

歴史は短期・中期・長期でみるべきだと強調したのは、20世紀最大の歴史家フェルナン・ブローデルである。この見方は経済学を,学んだ者であれば違和感はないだろう。景気循環にかんするジュグラーの波やコンドラチェフの波など聞いたことがあるはずだ。

その意味では、100年前を振り返ることの意味はあるが、あくまでも限定された意味であると捉えるべきなのだ。100年は長期だが、さらなる長期の300年あるいは500年で見ないと見えてこないものがある現在はその500年周期の移行期と考えるべきなのだ。

したがって、本書は軽い読み物として、ざっと読み飛ばす程度でちょうどよいのである。


目 次 

プロローグ

第1章 第一次世界大戦はいかに起こったか
第2章 ヴェルサイユ条約の責任
第3章 国家の秘密と情報戦
第4章 日本と第一次世界大戦-シベリア出兵

第5章 少女趣味の時代-宝塚少女歌劇の誕生
第6章 ジェンダーとセックス-女性の出発
第7章 モダン・アートの革命-光と闇
第8章 世界は曲がりはじめた-相対性理論と量子論
第9章 生命と遺伝子-人間とはなにか
第10章 メディアが若かった時-大衆文化の神話時代
エピローグ

著者プロフィール
海野弘(うんの・ひろし)
1939年東京都生まれ。評論家。早稲田大学文学部卒業。出版社勤務を経て、美術・映画・音楽・都市論・歴史・華道・小説などの分野で執筆活動を展開。著書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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1914年と世界大戦

「サラエボ事件」(1914年6月28日)から100年-この事件をきっかけに未曾有の「世界大戦」が欧州を激変させることになった

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・・日本国民にとって「第一次世界大戦」は直接の関係はなかったが、陸軍軍人たちにとっては必ずしもそうではなかったという事実

漱石の 『こゝろ』 が出版されてから100年!-漱石と八雲の二つの Kokoro (心) (2014年)


歴史を見るタイムスパン

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む
500年単位

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える

書評 『終わりなき危機-君はグローバリゼーションの真実を見たか-』(水野和夫、日本経済新聞出版社、2011)-西欧主導の近代資本主義500年の歴史は終わり、「長い21世紀」を生き抜かねばならない

書評 『1492 西欧文明の世界支配 』(ジャック・アタリ、斎藤広信訳、ちくま学芸文庫、2009 原著1991)-「西欧主導のグローバリゼーション」の「最初の500年」を振り返り、未来を考察するために

書評 『歴史入門』 (フェルナン・ブローデル、金塚貞文訳、中公文庫、2009)-「知の巨人」ブローデルが示した世界の読み方

『なんとなくクリスタル』から出版されてから33年-あらためて巻末の「統計資料」に注目してみよう
・・30年前なんて遠い星の出来事のような感じがする

書評 『1995年』(速水健朗、ちくま新書、2013)-いまから18年前の1995年、「終わりの始まり」の年のことをあなたは細かく覚えてますか?
・・ついこないだと思っていたことも、じつはほとんど記憶のなかにないという驚愕の事実


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