小説はあまり読まないのだが、この週末はひさびさに長編小説を読んだ。『インドクリスタル』(篠田節子、角川書店、2014)である。タイトルは、インドのクリスタル(水晶)。産業用素材として使用される、鉱物資源の水晶をめぐるビジネスものでもある。
「群盲象をなでる」というフレーズをすぐにも想起するのが「巨像インド」だが、聖俗の二面性が当たり前のように存在するインドの懐の深さ、混沌としたその闇の深さ、濃厚で悪魔的魅力といったものを、がっぷりと四つに取り組んで、余すことなく描ききった大作だ。国際ビジネス小説であり、はらはらさせるストーリー展開のスリラー小説でもある。
単行本の初版は、二段組みでぎっちり活字が詰まった540ページもあるが、構成がしっかりしていて、しかもディテールの描き込み方がすごいので、最後まで飽きることなく読める。そうとう調べに調べた上で書いているなあ、という感想。政治・経済・ビジネス、旧植民地支配者の英国もからむNGO、宗教、不可食賎民、先住民その他もろもろにわたっており、歴史も踏まえていて、日本人もインド人も個性的な登場人物の人物描写もすぐれている。
2014年の出版当時、インドビジネス関係者必読みたいなことが言われていたが、現在まで積ん読状態だった。読んでみて思うのは、出版から5年後の現在でも読む価値ありということだ。
インドはじつに複雑で捉えにくい存在だ。だが、この大作小説の作者は、複雑なものを複雑なまま受け止めるという姿勢の持ち主のようだ。けっして単純なストーリーに落とし込もうとせず、ストーリー自体にさらなるストーリーを展開させるという複雑な構成も、魅力的な(もちろん善悪両面にかんしてだ)登場人物の存在が軸になって読み進めることを可能にしている。
エンターテインメント小説ならではの娯楽性も備えたこの小説で、週末を大いに楽しませてもらった。
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(2023年9月30日 情報追加)
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