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2025年7月10日木曜日

書評『イランと日本 駐日イラン大使の回顧録 2008 ー 2011』(稲見誉弘訳、論創社、2024)ー イランの外務大臣アラグチ氏は駐日大使も経験しているプラグマティックな思考の持ち主。比較文化論として読むと面白い

 

中東情勢が不透明化している。原油を中東に大きく依存する日本にとって、チョークポイントであるホルムズ海峡が閉鎖されたら、それは日本人の生存に直結する死活的なものとなりかねない。 

核開発をすすめているとして、イランを脅威と認識してきたイスラエルによって行われた先制攻撃につづき、バンカーバスターをつかった米国による核施設への攻撃が実行された。

2025年6月13日から始まり25日にとりあえず終結した交戦状態をさして、トランプ大統領は「12日間戦争」と命名したが、破壊の程度については不明。査察しなければ正確なことはわからない。 イラン側によるイスラエルの攻撃の被害は、あまりにも非対称的であった。

イランと米国にかんしては、お互い攻撃前に事前通告を行った「寸止め」であり、「プロレスではないか」という感想も聞かれる。だが、どうやらイスラエルは今回の停戦で終わりにするつもりではなさそうだ。 

レジームチェンジ、すなわち現在のイランイスラーム体制を倒して体制転換するとことまでもっていおこうとしているのではないか、と・・・ 


■外務大臣のハラグチ氏!? 

そんなイスラエルの意図はさておき、日本のTVでニュース原稿を読むアナウンサーが「外務大臣のアラグチ氏」となんども繰り返しているのを耳にして、「外務大臣のハラグチ氏」(?)と勘違いした。もしかすると、わたしだけではないかもしれない。 

気になるので「イランの外務大臣アラグチ氏」いついて調べてみると、たしかにそのとおりだった。しかも、セイエド・アッバス・アラグチ氏は元駐日大使であっただけでなく、生年月日が1962年12月5日で、なんとわたしより1日早いだけなのである! 

アラグチ氏は、2008年から2011年まで大使として日本に滞在し、この間の回顧録を書いていることも知った。『イランと日本 駐日イラン大使の回顧録 2008 ー 2011』(稲見誉弘訳、論創社、2024)という本である。イラン人読者のためにペルシア語で書かれた日本の紹介本の日本語訳である。  

昨年10月に出版されているが、まったく知らなかった。さっそく購入して読んでみることにする。イランには多大な関心を持ち続けてきたからであり、なによりもわたしとまったく同世代のイラン人について知りたいと思ったからである。 

まずは「目次」を紹介しておこう。 


親愛なる日本の読者の皆様へ 
はじめに 
序章 
第1章 私、セイエド・アッバス・アラグチ 
第2章 なぜ、日本? 
第3章 東京での任務開始 
第4章 日本での任務環境と外交の雰囲気 
第5章 日本人の独創性について 
第6章 日本外交のスタイルと流儀 
第7章 日本とアメリカ 
第8章 日本とイラン 
第9章 在日イラン人 
第10章 東日本大震災 
おわりに ー 東京での任期を終えて 
訳者あとがき 
解説:高橋和夫(放送大学名誉教授) 
対談:笹川平和財団角南理事長/アラグチ元大使 


この回顧録にも記されているが、やはりアラグチというファミリーネームが、日本社会に浸透するうえで大きな意味をもったようである。最終的に「新久地」という漢字に落ち着いて、名刺に記載したのだそうだ。 

2008年から2011年の日本は、自民党が野に下って民主党(当時)が政権を担っていた時期にあたる。このため、短命に終わった自民党の麻生太郎から、民主党の鳩山由紀夫、菅直人の各氏が首相であった。(ただし、菅直人についての言及はない)。 

日本では経済が政治を主導しているというアラグチ氏の認識が興味深い。たしかにそうだな、と。与党政治家はあまりにも経団連の意向を受けすぎで、一般国民のほうを見ていないことは明らかだ。

イランと米国は、イラン革命後の国交断絶状態が現在までつづいているが、イランと日本は外交関係は継続している。一方、日本と米国が同盟関係にあることから、イランと日本、そして米国の三角関係を前提にした外交は、イランにとってはもちろん、日本にとっても、なかなか価値あるものとなっている。

そんななか、第1次トランプ政権時代に安倍晋三氏がイランと米国の関係改善にむけて一肌脱ごうと尽力したことは記憶にあたらしい。 結果として、所期の目的を果たすことができなかったとはいえ、イラン側から日本への信頼は強化されたようだ。

米国べったりと見える日本だが、その日本人に深層心理に潜在的に存在している「反米感情」へのアンテナもアラグチ氏には働いているようで、なんどか面会もしている石原慎太郎都知事(当時)に対するポジティブな評価も見逃せない。 アメリカに対して「NOと言える日本」である。

もちろん、麻生太郎氏に対する高評価もふくめ、公平な視線でものを見る態度は維持していてのことだ。 


■ 日本とイランの「比較文化論」として読むのも面白い

この回顧録は、イラン国民むけにペルシア語で書かれ、イランで出版されたものが原本で、日本滞在中のアラグチ大使の通訳をつとめた人による日本語訳である。 

このため、基本的に大使の活動が軸となった記述だが、イラン人が日本と日本人についてどう考えているか率直にわかる記述が満載で、じつに興味深い。ある種の比較文化論にもなっている。 

先にアラグチ氏の誕生日がわたしとは1日違いだと書いたが、イランでイスラーム革命が起きたのは1979年2月のことであった。そのときわたしは17歳の高校1年であり、アラグチ氏もまた大学進学を念頭に置いていた多感な高校生であった。 

だが、イランに生まれたこの青年は、イラン革命という激動期に大学進学期を迎えることになる。「革命防衛隊」に入ったのは、混乱期だったため大学進学が難しかったからであり、けっして第一選択ではなかったようだ。 

「革命防衛隊」というと、革命の熱気にあてられた青年が脇目も振らずに飛び込んだような印象を受けるが、簡略化されたプロフィールだけ見ていると誤解しかねない。アラグチ氏は革命防衛隊に所属しながら、外交官のための教育機関に学び、その後は英国のケント大学に留学して博士号を取得している。したがって、英語も堪能である。

この回顧録を読んでいて思ったのは、アラグチ氏は基本的にイデオロギーで動く人ではなく、プラグマティックな思考のできる実践派の知識人であるということだ。さすが、バーザールの絨毯商人の息子である。イラン流の交渉術が、外交官としてのセンスにも活かされているのであろう。 

駐日大使になる前後には、フィンランド大使やイランの核交渉に携わっている。駐日大使を経験したような人物が、イランにとってもっとも重要な外交上のポジションにいることは、大いに意味あることだ。2025年 現在は外務大臣として、ふたたび核交渉の最前線にいる。だから、メディアに登場する機会も多いのである。

イラン関係の本としては、イラン在住の日本人が仮名で出版した『イランの地下世界』(若宮 總、角川新書、2024)という本が面白かったが、イラン人が日本に4年間滞在して日本と日本人を観察したこの元駐日大使の回顧録もじつに面白い。あわせて読むと、比較文化論として複眼的にものを見る視点を得ることができるだろう。

日本とイランの関係は、イランにとってだけでなく、日本にとっても、お互い重要な存在なのである。 これは政治体制とは関係ない次元の話である。


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著者プロフィール
アッバス・セイエド・アラグチ(Seyed Abbas Araghchi)
1962年12月5日生まれ。1989年、イラン・イスラム共和国外務省入省、1999年、駐フィンランド特命全権大使(エストニア兼任)、2004年、外務省附属国際関係学院院長、2005年、外務事務次官(法務・国際問題担当)、2008年、駐日特命全権大使2013年、外務事務次官(法務・国際問題担当)、核交渉首席交渉官2017年、外務事務次官(政務担当)、2021年、外交関係戦略評議会書記2022年、旭日重光章受章2024年、外務大臣。著者論文多数。政治学博士(イギリス、ケント大学) 。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

日本語訳者プロフィール
稲見誉弘(いなみ・たかひろ)
1974年生まれ。1997年、東京外国語大学ペルシア語専攻卒、2004年から駐日イラン・イスラム共和国大使館勤務、大使や要人の通訳、翻訳業務に携わる。文学博士(イラン、テヘラン大学)。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



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