ロシア軍によるキーウ(=キエフ)総攻撃が迫っている。三方から首都を包囲するロシア軍との全面衝突は、「市街戦」になることが予想されている。
「市街戦」となれば、双方ともに多数の死者が発生することは避けられない。ウクライナ側は軍人だけでなく、一般市民の犠牲者も多く出ることになろう。
とはいえ、守る側には攻める側にはない有利な点がある。それは、守る側はその土地の人間であり、土地勘があるということだ。一般に攻撃側は守備側の5倍の兵力が必要とされる。ウクライナ軍とキーウ市民の、死んでも国土を守るという覚悟と勇気に敬意を表したい。
ひるがえって現在の日本は、中国や北朝鮮、それにふたたび仮想敵国として浮上してきたロシアに近接する地政学的状況にあるものの、ウクライナとは違って隣国と陸上で国境を接しているわけではない。
その意味では、キーウ(=キエフ)で予想される市街戦は日本に関係ないと考えるかもしれない。
だが、それは間違っている。
敵国による攻撃の最終フェーズは、都市部での市街戦になることは必定といっていい。主要な都市部を空爆や砲撃によって破壊しても、歩兵部隊による占領が残っているからだ。したがって、市街戦において敵を撃退しなくては国土と国民を守ることにはならないのである。
だからこそ、いまこそ日本人は「市街戦」について知っておく必要があるのだ。 陸上自衛隊でも「市街戦」への対応が、さまざまな困難な状況を乗り越えながらも進んでいる。その状況について、問題提起を行っているのが『自衛隊は市街戦を戦えるか』(二見龍、新潮新書、2020)という本だ。
「冷戦」終結後の変化する情勢で浮上してきたのは「対テロ戦争」や「ハイブリッド戦争」「新しい戦争」。その対応が遅れていた陸上自衛隊のあり方に危機感を抱いていた著者は、北九州小倉の第40普通科連隊の連隊長時代に「市街地戦闘」を想定した実戦的訓練を導入することに成功する。その経験をもとに書かれた一般向けの本である。
中央集権的な指揮命令系統から、自立分散型への転換が必要な市街戦。最先端の米国を標準とした最新の兵器体系への理解と導入が必要であること、そして小ユニットで戦う現場リーダーによる判断を最優先しなければ、市街戦での勝利はありえない。
書かれている内容は、市街戦を想定した実戦的訓練への転換の必要性とその取り組みの記録だが、旧態依然とした官僚組織をいかに変革したかの記録でもある。その意味では、ビジネス書として読むことも可能だ。
市街戦とはなにか、市街戦に対応するためにはなにが求められるのか、軍人ではないシビリアンとしても知っておくべきことは多い。
ウクライナの状況を他人事をしないためにも、この機会に「市街戦」について多面的に考えることが必要だ。
目次はじめに第1章 今や戦闘は変わった第2章 民間人を撃つな!第3章 我々は何も知らなかった第4章 これでは「戦争ごっこ」第5章 装備と訓練は世界標準なのか第6章 40連隊とその後第7章 「鬼軍曹2.0」を求めて第8章 国民に愛される自衛隊の先にあるものはおわりに
著者プロフィール二見龍(ふたみ・りゅう)1957(昭和32)年東京都生まれ。防衛大学校卒。陸上自衛隊で東部方面混成団長などを歴任、陸将補で退官。防災官を経て、一般企業で危機管理を行う傍ら執筆活動を続ける。著書に『自衛隊最強の部隊へ』『弾丸が変える現代の戦い方』など。(新潮社の書籍サイトより)
PS ロシア軍は、キーウ(=キエフ)州から撤退した模様だ。対人地雷を埋設して撤退していることから、ウクライナ北部への侵攻は断念したようだ。とはいえ、ウクライナ側の情報によれば、現地のシビリアンの拷問と虐殺が行われたようで、ロシア軍による残虐な行為は人道に対する罪であるとしかいいようがない。ロシア軍は東南部に兵力を集中し、クリミア半島からドンバス地方にかけての一帯を占領すべく大攻勢をかけている。(2022年4月4日現在)。
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