お遍路に行きたいが、なかなか実行に踏み切れない。真剣に実行を考えてから、すでに20年以上たってしまった。
四国八十八カ所すべてを歩いて回る「歩き遍路」には、最低でも40日間は必要だからだ。40日間というまとまった時間を確保するのは、そう簡単なことではない。そう気軽に始められるものではない。
合理的に考えれば自動車をつかったり、何度にもわけて実行すればいいのだろう。だが、そんな気持ちにはとうていなれそうにない。最初から最後まで歩きとおしてこそ意味があるのだ、と強く思っている。
先日ふとしたきっかけでお遍路が気になって、『フランスからお遍路にきました。』(マリー=エディット・ラヴァル、鈴木孝弥訳、イーストプレス、2016)という本を読むことにした。日本語訳タイトルとカバーに惹かれて購入したものの、しばらく積ん読のままだった。
このフランス人女性もまた、「歩き遍路」にこだわって八十八カ所を歩き通した人だ。お遍路に出たのは2013年、34歳のときである。カバーに「日本でわたしは生まれ変わった!」とある。
日本好きのフランス人による日本褒めの内容だろうなと、軽く考えて読み始めたのだが、まったくそんな内容ではなかった。
おそらくカトリックであろう著者は、すでにフランスからスペインに至る「聖なる道」を歩くサンチャゴ・デ・コンポステーラ巡礼を経験し、そのうえで翌年に四国八十八カ所巡礼を実行したのである。日本語も話せないまま実行に踏み切った「歩き遍路」を、読者は著者と「同行二人」で追体験することになる。
外的な身体的なアクティビティは、じつは内的な体験でもある。歩き続けることで、そしてさまざまな体験を積み重ねていくことで、同時並行的に内面では自己変容のプロセスが進行していくのだ。
そう、この本は日々の行動と感想を記した旅行記であるだけでなく、スピリチュアル・ジャーニーの記録でもあるのだ。「日本でわたしは生まれ変わった!」というのは、そういうことなのである。それが読んでいて感動的なのである。
サンチャゴ・デ・コンポステーラは、巡礼地という目的を達成するための直線的(リニア)な旅だが、四国八十八カ所巡礼においては、旅の終わりは始まりでもある。なぜなら円環(サークル、ループ)を描いているからだ。 体験者ならではの比較論が興味深い。
八十八カ所巡礼を終えたのち、著者は高野山に行っている。結願(けちがん)の報告を兼ねたこの高野山体験には、おなじように宿坊に宿泊し、朝のお勤めにも参加し、奥の院も礼拝した日本人のわたしも、大いに賛同するものを感じた。
歩き遍路を実行した人は、日本でも現代では少数派である。実行した人は、記録に残しているかは別にして、それぞれ異なる体験をしているのであろう。この本の著者のような体験が、すべての人に起こるのかどうかはわからない。
その意味では、四国八十八カ所巡礼をテーマにした旅行記としてではなく、スピリチュアル・ジャーニーとして読むべきであろう。フランスではベストセラーで、現在では文庫化もされているようだ。
フランス語のオリジナルのタイトルは、Comme une feuille de thé à Shikoku である。直訳すれば「四国ではお茶の一葉のように」となる。お茶は淹れ方によって、薄くもなれば濃くもなる。その意味することが、読者によって受け取り方が異なるであろうことを示唆している。
逆にいえば、そういうスピリチュアルなテイストが好きではない人、スピリチュアルな志向をもたない人には向いていない本なのかもしれない。単なる旅行記ではないからだ。
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目 次序文 ベルナール・オリヴィエ(作家)旅立ちの前奏曲(プレリュード)《自由への脱出》第1章 《自由の鍵》 第1霊場~第23霊場(阿波(現:徳島県))― 発心の道場第2章 《軽やかさの鍵》 第24霊場~第39霊場(土佐(現:高知県))― 修行の道場第3章 《この地の鍵》 第40霊場~第65五霊場(伊予(現:愛媛県))― 菩提の道場第4章 《天国の鍵》 第66霊場~第88霊場(讃岐(現:香川県))― 涅槃の道場第5章 《常にもっと先へ、常にもっと高く!》(Ultreia e sus eia!)エピローグ《永遠の約束》日本語版に寄せて
著者プロフィールマリー=エディット・ラヴァル(Marie-Edith Laval)1979年生まれ。言語治療士。文学を学んだのち、言語療法(言語障害の改善、機能回復をはかるための治療法)、ソフロロジー(ストレス緩和、および心身や精神の安定と調和を得るための学問)の道に進む。また、子供や青少年にマインドフルネス瞑想も教えている。旅行家で『フランスからお遍路にきました。』が初の著作。パリ在住 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。訳者プロフィール鈴木孝弥(すずき・こうや)1966年生まれ。音楽ライター、翻訳家。『ミュージック・マガジン』レゲエ・アルバム・レヴュワー。音楽や社会問題に関する編著訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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・・「(歌詞にある)Avec Toi(=With Thou)とは、日本語でいえば、お遍路さんの笠に書かれた「同行二人」と同じ意味。カトリック世界と仏教世界の共通性
(2023年8月25日 情報追加)
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