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2015年3月10日火曜日

書評『松田聖子と中森明菜 ― 1980年代の革命[増補版]』(中川右介、朝日文庫、2014)― 1960年代生まれの世代による1980年代前半の「革命」の意味を説き明かした時代史



『松田聖子と中森明菜  ― 1980年代の革命[増補版]』(中川右介、朝日文庫、2014)は、1980年代を代表する「アイドル」、松田聖子と中森明菜の二人を対比して論じた、いわゆる「対比列伝」であるが、重点は「革命」の先行者である松田聖子に置かれている。

松田聖子は時代を変えることになる道を切り開いた先駆者でもあり、「革命」を後戻りできない道にしたのが中森明菜である。現時点においてもこの二人はほぼ「国民歌手」的な存在として安定したポジションを保っていることは、昨年(2014年)の紅白歌合戦の人選をみてもうなづかれることだ。

●松田聖子 1962年3月10日生まれ

●中森明菜 1965年7月13日生まれ

二人は、ほぼ同世代である。だが10代の3年間の差はじつはきわめて大きい。そして出身も、性格も、志向するところも大きく異なる。だが、1980年代の消費時代のアイドルであったことは共通している。

「1980年代の革命」という副題だが、より正確に表現すれば「1980年代「前半」の革命」となるだろう。それ以前とそれ以後の変化は、まさに革命的であったことを詳細に記述したのが本書の内容である。

では「革命」とはいったい何だったのか? 著者自身のコトバを借りれば以下のようになる。

いまもこの国にはアイドルがたくさんいるが、それは松田聖子が「アイドル」という存在をたったひとりの力で変革させたからである。そしてその松田聖子個人の叛乱を革命体制にまで発展させたのが中森明菜だった。二人の存在--圧倒的なレコードセールス、作品としての質の高さ--によって、サブカルチャーだったアイドルは、いまや日本芸能界のメインカルチャーとなった。
だが、アイドルがメインカルチャーとなった時点で、松田聖子と中森明菜の歴史的使命は終わっていた・・(後略)・・ (「あとがき」より)

1962年生まれのわたしは、松田聖子は同じ年の生まれだ。同時代人というよりも、完全に同世代の人間だ。

ただし、彼女は3月の早生まれなので学年は一つ上である。そう、彼女が高校卒業してデビューしたとき、わたしは高校三年生だった。翌年に大学に入学したので、つまるところ松田聖子のデビューから全盛期までは、わたしの大学時代とピッタリ重なるのである。1985年に大学を卒業して社会人になってからは、松田聖子をあまり聴かなくなったのも、偶然ではないかもしれない。

「革命」は自覚的に行うものだが、その担い手における「意識」の違いが存在する。「革命」を支えたプレイヤーそれぞれについても同様だ。苦労してデビューした「アイドル」だけでなく、冷徹な計算が支配する芸能界、作詞家・作曲家たち、そしてアイドルを支えるファン。

たしかに、松田聖子以前と以後ではまったく違う世界になったことは、時間がたてばたつほど明らかである。わたし自身、自分より上の世代との感覚の大きな違いを感じるのである。1980年代は、まさに「歌謡曲の革命」のさなかにあった。

記号とたわむれるようなコトバが浮遊する松田聖子的世界にどっぷりとつかっていた多くの男子たち、そして女子もまた。あの時代は同時にオタクの時代の始まりでもあり、この同じ世代からオウム事件の関係者が出てきたことは偶然ではない。

本書は世代論ではないが、同時代を生きた同世代の人間には、懐かしさというようも、その時代をともに生きたという実感を再体験させてくれるものであった。読みながらアタマのなかでは松田聖子と中森明菜の当時のヒットソングが鳴り響いていたことはいうまでもない。その時代のこまごまとした出来事は忘れても、歌は忘れない。歌と音楽は世代と密接な関係にある。そしていまは亡き親友のことも。

1960年生まれの著者は「あとがき」でこう書いている。

後に「空っぽ」とか「カスだ」とか「見かけだけ」とか、さんざんに批判される1980年代は、私にとっては「見かけだけ立派で、中身は空洞だったかもしれないけど、その空虚さゆえに輝いていた素晴らしい時代」である。その象徴が、松田聖子と中森明菜であった。

同感である。1980年代前半とは、そういう時代だったのだ。


PS なお本日(3月10日)は、無意識の「革命家」・松田聖子の誕生日である。


(画像をクリック!)

目 次

はじめに
プロローグ
第1章 夜明け前-1972年~79年 
 福岡県久留米市と東京都清瀬市の少女
 《スター誕生!》のはじまり-1972年
 沈んだ眼のアイドル
 模索するアイドル
 流行歌の条件
 女性ファンの獲得
 アイドルになりたい女の子と、普通の女の子になりたいアイドル
 <ザ・ベストテン>による変革-1978年
 時代が求めたもの
 蒲池法子、上京
 暗雲と僥倖
 明菜の最初の挑戦1
第2章 遅れてきたアイドル-1980年 
 百恵と聖子の出会い
 ポスト百恵を探せ
 アイドル歌謡曲、革命の序章
 全てを松田聖子に!
 聖子、デビュー
 聖子の思想と戦略
 消えてゆく少女
 アイドルを演じるアイドル、頂点へ
 「幸せになります」
 明菜の二度目の挑戦
 幻の三人娘
 失速する者、花開く者

第3章 忍び寄る真のライバル-1981年   二年目のジンクス
 二人の高校一年生
 《夏の扉》を開けて
 明菜、三度目の挑戦
 《白いパラソル》の記号論
 はっぴいえんど
 「自虐的な歌謡曲」との闘い
 明菜、合格
 真のライバル
第4章 阻まれた独走-1982年 
 八二年組
 ユーミン登場
 《赤いスイートピー》-不可解な名曲
 明菜、デビュー
 松田聖子の無意識、中森明菜の自意識
 《小麦色のマーメイド》論争
 形勢逆転
第5章 激突-1983年 
 歌と80年代と政治意識
 変化するヒットチャートの意味
 明菜、独走
 「無意味」を目指す人々
 解放区としての松田聖子
 聖子の世界観、明菜の世界観
 《SWEET MEMORIES》という誤算
 静かなる革命-1983年
第6章 前衛と孤独-1984年 
 過熱報道
 薄幸のベール
 ピュア、ピュア、リップス
 早すぎた成熟
 永遠の少女へ
 《十戒(1984)》
 《ピンクのモーツァルト》
 虚構を演じ続けるアイドル
 モノローグで語り続けるアイドル
 二人の思い
第7章 華燭と大賞-1985年 
 二組のカップル
 進むべき道
 婚約発表
 日本芸能史上最も華やかな日
 中森明菜の冒険
 新たなる脅威
 終わらない、ひとり旅
 松田聖子の中間決算
 松本隆と松田聖子の革命
 中森明菜の栄冠
第8章 緩やかな下降線-1986~88年 
 静かなる復帰と二連覇-1986年
 ボスの死と実験-1987年
 いくつかの齟齬-1988年
終章-1989年
あとがき
参考文献

著者プロフィール

中川右介(なかがわ・ゆうすけ)
1960年東京都生まれ。評論家。早稲田大学第二文学部卒業。「クラシックジャーナル」編集長、出版社アルファベータ代表取締役編集長として、これまで音楽書、美術書、写真集、文芸書などの多数の本を編集・出版。対比列伝の形式で音楽家などの史伝を執筆(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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・・「松田聖子のデビューは、わたしが高校三年生だった1980年。つまり、大学時代を過ごした190年代前半はアイドルとしての松田聖子の全盛期だったわけで、熱烈なファンであった友人の影響もあって、彼女のデビュー以来30年以上のあいだ同世代としては気になってきた存在なわけなのです。この本は、松田聖子登場以前、熱狂的ファンをもっていた山口百恵(・・現在は三浦百恵)との比較で、1980年に登場した松田聖子の意味をあきらかにした先駆的な名著だといっていいでしょう」

ディズニーの新作アニメ映画 『アナと雪の女王』(2013)の「日本語吹き替え版」は「製品ローカリゼーション」の鑑(かがみ)!
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・・「振り返ってみるに、入部したのは1981年(昭和56年)、すなわち「昭和時代」末期でありました。いわゆる「バブル時代」がはじまったのは、大学を卒業した1985年(昭和60年)からでありましたが、「バブル前夜」の当時のキャンパスといえば「西の京大 東の一橋」といわれていたものです。 ちょうどその頃に開園した東京ディズニーランドのようなレジャーランドであったと言われてました。現在からみると隔世の感がなきにしもあらずです。」

書評 『オウム真理教の精神史-ロマン主義・全体主義・原理主義-』(大田俊寛、春秋社、2011)-「近代の闇」は20世紀末の日本でオウム真理教というカルト集団に流れ込んだ
 ・・時代の「空虚さ」を埋めようとした若者は多数いたが、そのなかのごく一部は修行を重視する精神世界へ、さらにごく一部はオウム真理教などに向かった

書評 『今を生き抜くための70年代オカルト』(前田亮一、光文社新書、2016)-おお、懐かしい「70年代オカルト」
・・1962年3月10日生まれの松田聖子と「70年代オカルト」の世代は完全に重なるのである

(2016年3月24日 情報追加)


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2013年1月20日日曜日

小倉千加子の 『松田聖子論』 の文庫版に「増補版」がでた ー 松田聖子が30年以上走り続けることのできる秘密はどこにあるのか?




小倉千加子氏の 『松田聖子論』 は、1987年に出版された単行本初版を読みましたが、じつに面白い本なので、いまでもとってあります(下の写真)。

松田聖子のデビューは、わたしが高校三年生だった1980年。つまり、大学時代を過ごした190年代前半はアイドルとしての松田聖子の全盛期だったわけで、熱烈なファンであった友人の影響もあって、彼女のデビュー以来30年以上のあいだ同世代としては気になってきた存在なわけなのです。

この本は、松田聖子登場以前、熱狂的ファンをもっていた山口百恵(・・現在は三浦百恵)との比較で、1980年に登場した松田聖子の意味をあきらかにした先駆的な名著だといっていいでしょう。二人のデビューの背景、衣装、歌詞、結婚観などが分析されています。

小倉千加子氏は、もともと性差の心理学で本も出している心理学者で、フェミニズムの論客ですが、大阪出身で芸能ネタ好き、テレビ好きという小倉千加子氏の論がさえています。




その増補版の文庫が新刊書として2012年に出ています。「増補」された章を立ち読みしてみましたが、なぜ50歳を過ぎて歯科医と再々婚したのかについての推測も書かれてます。

また、祖母・母・娘という三代にわたる東アジアの女系家族で読み解く視点も面白い。儒教が社会原理として浸透していない日本だけでなく、東シナ海周辺地域は基層的な文化は母系制なわけです。

松田聖子が30年以上にわたって走り続けることができる理由には、才能や努力だけでなく、さまざまなものがあるのですね。

「あとがき」にはこんなことが書かれています。

実は、この本はフェミニズムの本なのである。しかし、わかっている人ならもうわかっているように、この本はフェミニズムのパロディ本である。
性はもともと胡散臭いものだ。その性から出発したはずのフェミニズムが、胡散臭さを嗅ぎとる嗅覚を捨ててしまったら、フェミニズムはピューリタンたちの殿堂と化してしまうだろう。

まさにそのとおりですね。フェミニズムを敬遠したくなる人が少なくない理由が、ビシっと要約されてますね。フェミニズムにかぎらず、雑なるものこそ面白いという感性こそ大事ですね。同感です。

そんなことはさておき、松田聖子論としては言うまでもなく、1980年代の意味を考えるためにも読んで損のない一冊だと思いますよ。


(画像をクリック!)



目 次 

まえがき
第1章 二人のわがままな主婦
 不気味なエッセイ-『青色のタペストリー』
 対立する二人の聖子
 ブリッ子聖子の芝居っけ
 化粧に対する感情
 「魔」を眠らせた百恵
 大きな賭けのできる男性
 対照的な出産
第2章 青い果実の熟成-山口百恵の軌跡
 ズドンとそこに立っていた
 アイドルが認知された年
 スター誕生
 『青い果実』になる幸福
 『ひと夏の経験』-百恵の対抗同一性
 「愛する人」というブラックホール
 <せつなさ>か<不条理>か-『横須賀ストーリー』
 性欲を自覚した女-『イミテイション・ゴールド』
 女と男のバランス・オブ・パワー-『プレイバックPart2』
 悪女の帰郷-『秋桜』
 『いい日旅立ち』-終わっていく百恵
第3章 翼の生えたブーツ-松田聖子の正体
 「はい、何でも歌えます」
 たったひとつの空き部屋
 少女趣味の復活
 「風」と「街」の詩人・松本隆 
 風は日本的情緒を遠ざける
 フォークとロックの狭間で 
 「ぼくときみ」のラブ・ソング
 耳で聴く少女漫画の世界
 聖子は和製ロックの落とし子である
 百恵は農村、聖子は都市
 どこにもない場所
 気の弱い彼
 欲望するストイックな少女
 少年愛のメッセージ
 強引な男の劣等感
 近代家族の退屈
 「ママのようなつまらない生き方」
 システムとしての松田聖子
第4章 あなたに逢いたくて-33年目の松田聖子
 娘に依存する母親
 日本を背負った聖子
 AKB48と異なる点
 国民的歌手になる日
あとがき
文庫版あとがき

著者プロフィール

小倉千加子(おぐら・ちかこ)

1952年大阪府生まれ。評論家、心理学者。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程修了。主要著書は『アイドル時代の神話』、『結婚の条件』、『女の人生すごろく』など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)。


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書評 『松田聖子と中森明菜-1980年代の革命-[増補版]』(中川右介、朝日文庫、2014)-1960年代生まれの世代による1980年代前半の「革命」の意味を説き明かした時代史


ジョン・レノン暗殺から30年、月日の立つのは早いものだ・・・(2010年12月8日)
・・ジョン・レノンが死んだのは1981年だった

「やってみなはれ」 と 「みとくんなはれ」 -いまの日本人に必要なのはこの精神なのとちゃうか?
・・サントリーは松田聖子の「Sweet Memory」をCMに採用した

ディズニーの新作アニメ映画 『アナと雪の女王』(2013)の「日本語吹き替え版」は「製品ローカリゼーション」の鑑(かがみ)!
・・日本語吹き替え版でアナの声を担当して歌っている神田沙也加は松田聖子の娘! ほんと声がアイドル時代の松田聖子にそっくり!!

(2014年5月11日、2015年8月26日 情報追加)


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