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2022年12月29日木曜日

書評『新・AV時代 全裸監督後の世界』(文春文庫、2021)ー「その後」の1990年代の話も面白い



1980年代はレンタルビデオの全盛期だったが、1990年代はセルビデオがビジネスモデルとして成立し、高橋がなり氏の SOD(ソフト・オン・デマンド)が全面開花した時代だ。 

この本は、AVの世界を牽引してきた人物列伝といった趣だが、なぜか第2章にはテリー伊藤が登場する。テリー氏の初の著書『お笑い北朝鮮』の取材旅行に同行した話が書かれていて、これがまた興味深い。 

テリー伊藤を登場させたことで、その下でADとして働いていた高橋がなりがテレビの世界の出身者であることの意味がわかってくる。 

一発勝負のビデオの世界と、企画力と事前のリハーサルが当たり前のテレビの世界の違い。そのビデオに世界にテレビの方法論を持ち込んだがゆえの成功と失敗高橋がなり氏も出演していたTV番組「マネーの虎」の話もでてくるので懐かしい。 

テリー伊藤や高橋がなりといった人たちだけでない。それ以外の訳ありの人物たちも大いに読ませるものがある。

それにしても、本橋信宏氏の筆力には読まされる。まさにプロの作家であると感心。 みずからが取材の現場に立ち会い、みずからも体験している世界。その世界の人でありながら映像系の人ではなく、あくまでも文筆の世界の人その距離感もまた読ませる理由の一つなのだろう。 

知る人ぞ知る世界の話だが、1980年代後半のバブル時代との違いは明らかだ。そういう時代だったのだな、とあとから振り返ることになる。それは読者にとっても、著者にとっても同様である。 

もはやビデオの時代でもDVDの時代でもない。媒体としてのメディアは変化し、インターネット時代にはAVの世界も変化していく。 

そう考えると、衛星放送に賭けて大失敗した村西とおる氏が、いかに時代の先をいっていたかが納得されるのである。ビジネスにおいては、先見性がありすぎるのも問題ということか。 



目 次 
はじめに
プロローグ 
第1章 村西とおる 
第2章 テリー伊藤 
第3章 岩尾悟志 
第4章 日比野正明 
第5章 代々木忠 
第6章 佐藤太治 
第7章 高橋がなり 
第8章 全裸シリーズ 
第9章 彼らの奇跡 
エピローグ
十一年後のあれから。

著者プロフィール
本橋信宏(もとはし・のぶひろ)
1956年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。政治、思想、事件、風俗などをテーマに、ルポルタージュ、小説と幅広く執筆。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2022年12月28日水曜日

書評『全裸監督 村西とおる伝』(本橋信宏、新潮文庫、2021)ー その人生には圧倒される!



近頃これほど、どんどん先を読みたい、さらに先を読みたいとさせる気にさせる本はなかった。 

さすがに文庫本で850ページを超える分厚い本なので一気読みというわけにはいかないが、これだけ本が厚くなっても村西とおるという人物の人生が面白いのだ。 

Netflix によるドラマ化後に文庫化されたようだが、世界的に大ヒットしたドラマ版はまだ見ていない。

このドラマを見るためだけに Netflix 契約しようかなと思ったこともあるが、YouTune や amazon prime video に加えてとなることもあり、さすがに動画三昧の生活とはいかないので禁欲している。 だから、原作の活字版を先に読むことにしたわけだ。 


ドラマ版は視聴していないのでなんともいえないが、村西とおるの怒濤のような進撃がつづいていた1980年代から1990年代初頭にかけての「バブル時代」を同時代にナマで体験し、当然のことながら村西とおるのことは知っていただけに、あえて再現映像で見る必要はないという気もする。自分のアタマのなかにイメージができあがっているからだ。映像化できなかったシーンもあるはずだ。 

それにしても「前科7犯、借金50億、求刑懲役370年」というキャッチフレーズはとてつもなくすごい。まさにジェットコースター人生である。絶頂期とどん底のコントラストが半端ない。絶頂期の猛烈な仕事ぶりは、イーロン・マスクも真っ青だろう(笑) 

そのディテールはこの本を読むとよくわかるし、すぐそばにいて同伴して疾走していた著者だけに、臨場感をもって描かれる。饒舌なまでの「応酬話法」を武器に快進撃をつづけ、度重なる窮地を脱することのできた村西氏だが、この本(・・単行本は2016年)ではじめて明かされた真相も数々あって読ませるのである。 

絶頂期とどん底を味わった男の人生ほど、読ませるものはない。村西氏も不死鳥のように復活している。エロを含めた時事問題にかんしての twitter での発言は、まさに正論。思わず「いいね」してしまう。 

文庫版の解説を書いている松原隆一郎氏が書いているように、村西氏は本質的にモラリストなのだろう。人間性の真実を見つめる厳しくかつ愛のある視点、過剰に見えながらも節度のある態度。息子が名門私立校のお受験に成功しても、絶対に子どもをだしに金儲けしようとはしない。 

時代の先を読む感覚にすぐれ、「事業家」として突出した存在であったが、「経営者」としては失格だったと言わざるを得ないだろう。近くにいて意見できるような「ナンバー2」を欠いていたためである。どんぶり勘定が当たり前となって下り、無謀な投資が実行されてしまったからである。 

だが、AV を世界に誇る(?)「日本文化」として確立した功績はきわめて大というべきだろう。マンガやアニメだけが日本文化ではないのだ。 

こんな人物が同時代にいるということだけでも、日本という国が、日本人という存在がすごい。そう感じないわけにはいかないのだ。 



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