■「出会い」の喜び、素晴らしさについての本■
「プライス・コレクション」の生みの親、アメリカ人ビジネスマンのジョー・プライス氏の若き日の若冲(じゃくちゅう)との出会い、コレクションを築き上げてゆく中での苦労と苦難、そして何よりも若冲と出会えた喜びの半生が、よきインタビュアーによってて引き出された本。
『若冲になったアメリカ人 ー ジョー・D・プライス物語』(ジョー・D・プライス、小学館、2007)は、インタビュアーが"日本美術応援団"の山下裕二教授であることもあずかって大きいものがあろう。
若冲とは、江戸時代後期、京都の日本画家・伊藤若冲のことである。
いまでこそ若冲はかなり人気のある存在となっているが、プライス氏が再発見するまで、日本でもほとんど埋もれた存在であった。
2006年には、東京と京都など日本各地で大規模な「プライス・コレクション」展が行われ、私自身も若冲には大いに魅了された。
しかしながら「出会い」というのは、突然やってくるものだ。ほとんど神秘的としかいいようがない。プライス氏の場合も例外ではない。
メルセデスのスポーツカーを買うためのカネを用意してニューヨークに来たカネ持ちの青年が、父親の友人であり、かつて帝国ホテルの設計も行った建築家フランク・ロイド・ライトに連れられて入った日本画廊で出会った1枚の日本画に魅了され、逡巡した末に大枚はたいて購入してしまったことから物語が始まる。
その時は日本には一回もいったことがなく、もちろん日本語も読み書きもしゃべることのできない、日本文化に関心をもつ人の多い東海岸でも西海岸でもない、中西部オクラホマ出身のアメリカ人。
コレクションを始めてから20から30年は、日本美術について語り合える友もなくまったくの孤独であったという。そんなプライス氏を支えたのもまた若冲をはじめとする埋もれた日本画家の作品たちと京都出身の日本人の妻であった。
この「出会い」は、プライス氏にとってだけでなく、若冲にとっても、日本人にとっても、本当に稀有な、素晴らしい出会いであった。
プライス氏によって「発見」されなかったら、若冲もこれほど日本でも知られることがなかっただろうし、またわれわれも画集や実物を通じてみることもなかったであろうから。
これは「出会い」の喜び、素晴らしさについての本でもあるのだ。
*この書評は下記のインターネット書店サイトに投稿、すでに掲載済みです。
■bk1掲載:「「出会い」の喜び、素晴らしさについての本」(2009/07/07 掲載)
■amazon.co.jp掲載:「「出会い」の喜び、素晴らしさについての本」(2009/07/10 掲載)
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