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2009年7月23日木曜日

書評 『アジア新聞屋台村』(高野秀行、集英社文庫、2009)-日本在住アジア人たちの、きわめて個性にみちた、しなやかで、したたかな生き方




日本在住アジア人たちの、きわめて個性にみちた、しなやかで、したたかな生き方

 アジア・新聞・屋台・村、ってなんのこと?

 本書を手にとった人が一瞬でもそんなこと感じたら、これはもうタイトルの勝利といえよう。

 アジア人という、きわめて個性の強い人たちが、この日本という国で、しかもなんと日本語を共通語として(!)、それぞれのマイペースで働きながら、しかしそれぞれの国出身者向けの新聞発行にたずさわり、デッドラインだけは必ずまもって仕事を仕上げるさまが、いきいきとした筆致で、しかも愛情込めて描かれる。


 東南アジアではショピングモールですらそうなのだが、すべてが個人商店の寄せ集めだ。
 たとえば、どこにでもあるフードコート、これももともとは飲食の屋台村だったものを、建物に中に入れたものだ。

 物販店でも事情は変わらない。タイ・バンコクの MBK (マー・ブンクロン)などは、その最たるものである。いわば屋台村を寄せ集めて、ひとつのビルのなかに押し込めた、ごった煮のような風情できわめて活気にみちみちている。

 個々の商店がそれぞれ客をめぐって激しくしのぎを削っている。


 本書は多くの人たちが評しているように「青春物語」である。仕事でもまれながらの、人間としての成長。

 しかし、文庫版の解説者である元バックパッカーの角田光代もいうように、そういう読み方だけではもったいない。


 私もタイを中心に東南アジアで仕事していたが、東南アジア共通の特性もあるし、もちろんタイ人だけとってみても個人差も実に大きなものがある。

 この本を読んで、登場人物である台湾人、韓国人、タイ人、インドネシア人、ミャンマー人の代表選手とみなして、それぞれの国民性をわかったつもりになるのは危険なのだ。

 結局は個人個人であり、なによりも個人と家族、そして友達を大事にするのが一般のアジア人だ。一社専属のサラリーマン人生ほど、彼らの生き方から程遠いものはない。しかも仕事を掛け持ちしていれば、そう簡単に食いはぐれることはない。

 日本人が再びアジア人としてやっていくためには、彼らのきわめて個性にみちた、しかもしなやかで、かつしたたかな生き方に学ぶことはすごく大きい。


 いまや日本も先行き不透明な状況であり、若い人たちが就職ができないのも、中高年が再就職できないのも、時代状況のせいにするだけでは決して道は開けない。

 こんな世の中で生きていくには、こういうアジア流の生き方もある、ということだけでも頭の片隅においておいたほうがいいのではないか。


 アジア好きの若い世代の人たちはもちろん、若い世代の子供をもつ親世代にもにもぜひ一読をすすめたい。


■bk1書評「日本在住アジア人たちの、きわめて個性にみちた、しなやかで、したたかな生き方」(2009年7月18日掲載)

            



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・・「アジア型個人主義」について、わたしが書いたブログ記事のリンクを掲載してある

(2015年1月12日 項目新設)




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