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2010年5月29日土曜日

「行動とは忍耐である」(三島由紀夫)・・・社会人3年目に響いたコトバ




ふと「行動とは忍耐である」(三島由紀夫)というコトバを思い出して、書棚から三島由紀夫の『行動学入門』(文春文庫、1974)を取り出してみた。

 この本を読んだのは、たまたま購入した書店の伝票がはさまっていたのでわかったが、会社に入って社会人になってから3年目の夏のようだ。

 あの頃は、バブル時代ではあったが、自分自身はまだ鳴かず飛ばずの頃であった。

 なんとか頭角を表したい、目立ちたい、ひとかどの仕事人として認められたい、このままでは「マルドメ」(注:・マルでドメスティックの略=純国内派)か、オレはこんなことするために生まれてきたのか・・。

いまから考えればなんという傲慢な、若者らしいといえばそうかもしれないが・・。

 なにかあせっていたようだ。大学卒業して3年目くらいの若者は、いまでも同じような精神状態におかれているのかもしれない。最近の「勉強ブーム」をみていてそんな気もしてくる。

 だが、勉強すりゃいいってもんじゃない。精神修養もまたそれに劣らず重要だ。

 
 「行動とは忍耐である」というのは、私が勝手に要約したものだが、『行動学入門』に収められた「行動と待機」というエッセイにでてくる表現は以下のとおりだ。

その全身をかけに賭けた瞬間のために、機が熟し、行動と意思が最高度まで煮詰められなければならない。そこまでいくと行動とは、ほとんど忍耐の別語である(P.38)


 あせる気持ち、はやる気持ちを抑え込むのに、この三島由紀夫のコトバがいかに効いたことか。なぜなら、読んでからすでに20年以上たっているのにこの忘れていないこと、そしてこの文庫本を手放していないことだ。

 このエッセイ「行動と待機」から、上記の引用を含んだ文章をできるだけ長く引用しておこう。25歳の自分がいったいどういう気持ちだったのか、少なくとも自分には伝わってくる。(*太字ゴチックは引用者によるもの)

 行動の経験は、人が考えるほど緊迫に次ぐ緊迫、サスペンスにつぐサスペンスといったものではないことは、多少とも行動に携わった人ならば、よく知っていることである。
 ・・(中略)・・
 しかし、人生と違うところは、行動には一定の目的があり、しかもそれは運命の要素をできるだけ少なくした意志的な目的があって、その目的に向かって準備し、待機する期間が長いということである。・・(中略)・・猪狩りにいった人の話を聞くと、いざふもとに待ち伏せて、山の上に猪が姿をあらわしてからふもとまでおりてくる時間が、四時間も五時間もかかるそうである。その間の待機の辛さは想像以上だと言うが、目の前に獲物があらわれてから手元に近づくまでの間、われわれはさまざまな期待に囲まれながら、じっと引き金に指をかけ、しかも引き金を引いてはならない。その待機の時間の中に、行動というものの有効性が集約している。もし、有効性を問題にしなければ、四方八方からやたらに弾数(たまかず)を打てば、下手な鉄砲も数打てば当たるで、猪に当たることもあるであろう。しかし、最後のとどめの一撃が猪の急所に当たることが狩人の誉れであり、目標である。そのためにこそ待機がいるのである。・・(中略)・・いわば待機は一点の凝縮に向かって、時間を煮詰めていくようなものである。
 ・・(中略)・・
 なしくずし的に賭けていったのでは、賭ではない。その全身を賭けた瞬間のためには、機が熟し、行動と意思が最高度にまで煮詰められなければならない。そこまでいくと、ほとんど忍耐の別語である。(P.36~38)


 「行動の計画」から一カ所引用。

行動における計画は、合理性の極地を常に詰めた上で、ある非合理な力で突破されなければならないというところに行動の本質があるのではないか・・・(P.44)



 『行動学入門』の初版単行本は、1970年10月、自決の一ヶ月前である。文庫本にも収録されている、単行本「あとがき」が執筆されたときである。当時若者のあいだで支持されていた月刊「PocketパンチOh!」にて、若い男性読者向けに口述筆記で連載されたものらしい。

 『平凡パンチの三島由紀夫』(椎根和、新潮文庫、2008)によれば、「メディアから日本で最初にスーパースターと呼ばれたのが、作家の三島由紀夫だ」ということだ。「平凡パンチ」が創刊されたのは1964年である。


 先に、西郷隆盛のコトバを取り上げたが、三島由紀夫もまた日本陽明学の系譜のうえにある人だといえよう。

 『行動学入門』には、「行動学入門」、「おわりの美学」、「革命哲学としての陽明学」が収録されている。

 『葉隠入門』(新潮文庫、1983)も、社会人になった2年目の1986年に読んでいるが、この文庫本にも線が引かれまくっている。内容はいうまでもなく『葉隠』の解説とコトバの抜粋である。これは引用していては煩瑣になるので、やめておく。


 私自身は、三島文学の熱心な読者ではけっしてないし、またその生き方に共感するわけでもない。しかも、1970年当時は小学生だったので学生運動の主体でもないし、その反対派でもないので、思い入れはまったくない。しかし三島由紀夫が防衛庁(当時)で自決して、介錯人によって首を刎ねられた、という事実は小学校のときの同時代体験として記憶に残っている。

 何年前かわすれたが、「防衛省(・・当時は防衛庁)見学ツアー」三島由紀夫が総監室で日本刀で斬りつけたあと(?)も見た。

 小学生当時かよっていた歯医者の待合室で、三島由起夫の首が転がっている写真が写っている週刊誌をみた記憶が私にはある。

 自決後は遺された家族に、金銭的な迷惑はいっさいかけないという美学を貫いていたことについて、両親が会話していたことが記憶に残っている。およそ文学などとは無縁の実家には、なぜか三島由紀夫の「豊穣の海」4部作のうち、『春の雪』、『暁の寺』のハードカバーがあったのは、三島由紀夫割腹自決事件がいかにセンセーショナルな話題であったかの、一つの証拠物件であろう。

 1970年のことである。同じ年には大阪万博も開催されていた。


 それはさておき、社会人3年目で25歳の自分が、どこになぜ、線を引いているのかを振り返るのは面白い。

 いつの時代も、入社3年目、社会人3年目は似たようなものだろうか。


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<関連する動画サイト>

●MISHIMA: A LIFE IN FOUR CHAPTERS (Paul Schrader, 1985) Trailer
・・緒形拳主演の幻の映画のトレーラー。日本では遺族が公開に反対したため未公開といわれている。緒形拳が少しマッチョすぎて三島由紀夫とは違うような気がするのだが・・・。その他の出演者は、沢田研二、永島敏行などけっこう豪華キャストである。YouTube で上記のビデオを閲覧したら、関連したビデオクリップも見ることができます。


●"YUKOKU" by Yukio Mishima
・・三島由紀夫の原作・主演による『憂国』。二二六事件で生き残ってしまった青年将校の割腹。



PS 読みやすくするために改行を増やし、写真を大判にした。あらたに<ブログ内関連記事>を新設した。(2014年8月15日 敗戦記念日に記す)。


<ブログ内関連記事>

「憂国忌」にはじめて参加してみた(2010年11月25日)

書評 『近代日本の右翼思想』(片山杜秀、講談社選書メチエ、2007)-「変革思想」としての「右翼思想」の変容とその終焉のストーリー
・・ユートピア論の観点からみると、日本ではすでに1936年には「右翼」は終焉し、「左翼」もまた1991年には完全に消滅した

沢木耕太郎の傑作ノンフィクション 『テロルの決算』 と 『危機の宰相』 で「1960年」という転換点を読む
・・遅れてきた右翼少年によるテロをともなった「政治の季節」は1960年に終わり、以後の日本は「高度成長」路線を突っ走る。「世界の静かな中心」というフレーズは、 『危機の宰相』で沢木耕太郎が引用している三島由紀夫のコトバである。

映画 『バーダー・マインホフ-理想の果てに-』(ドイツ、2008年)を見て考えたこと
・・三島由紀夫と同時代の1960年代は、日本でもドイツでもイタリアでも「極左テロの季節」であった

「やってみなはれ」 と 「みとくんなはれ」 -いまの日本人に必要なのはこの精神なのとちゃうか?
・・三島由紀夫の割腹自決の一年前の1969年に創業70年を迎えたサントリー、これを記念して開高健が執筆した「やってみなはれ」は「高度成長」期の日本人のメンタリティそのもの

書評 『高度成長-日本を変えた6000日-』(吉川洋、中公文庫、2012 初版単行本 1997)-1960年代の「高度成長」を境に日本は根底から変化した

マンガ 『20世紀少年』(浦沢直樹、小学館、2000~2007) 全22巻を一気読み

(2014年8月14日 項目新設)


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