むかし大学時代にバイト先の富士山八合目の山小屋で働いていたとき、登山客としてやってきた若いアメリカ人夫婦の世話をしたことがあります。
山小屋は、もちろんご存じのことと思いますが、ただ単に宿泊を提供するだけでなく、食事や飲み物もお金をいただいて提供しています。平地ではなく、山地なので、担ぎ上げる運賃が加算されるので、弱冠お値段は高めですが。
そのアメリカ人女性に、「これはサイダーですよ」といってビン入りのサイダーを薦めました。一口飲んでから彼女が言うには、「これはサイダーじゃない!」
「サイダーとはリンゴジュースのことだ」、と言うのです。
「ではこの飲み物は英語でなんというのですか?」というわたしの問いかけに対して彼女が言ったのは「これは carbonated drink というべきね」との答え。
はあ、な~るほどと、19歳のわたしは納得しました。carbonated drink ねえ。炭酸飲料のことだろうな、と。
日本人はサイダーといえば甘い炭酸飲料のことだと思ってますが、そうじゃないのですね。その後、27歳でアメリカに留学することができましたが、アメリカではコカコーラに代表される炭酸飲料のことを soda(ソーダ)と言っていることがわかりました。ちなみにコカコーラは coke ですが、これはもう日本でもコークというようになってますね。
話がそれますが、アメリカにいて驚いたのは、Cherry Coke というものが存在すること。これがポピュラーなんですね。しかも日本ではクスリみたいな味だということであっという間に消えてしまった Dr. Pepper がけっこう飲まれているのを発見したのでした。
味覚というものは、意外と国境を越えないもの。それを考えるにつけ、コカコーラがほぼ全世界で普及しているという事実は、驚異的なことだというべきでしょう。そういえば、ネパールではココラと呼んでました。
さて話を元に戻しますが、wikipedia でサイダーを調べてみると、こう書いてあります(2011年9月8日現在)
イギリスのサイダー(英語: cider, cyder)およびフランスのシードル(仏語: cidre)は「リンゴ酒」である。イギリスでは発泡性がある場合が多いが、フランスでは発泡性がない場合が多い。
アメリカ合衆国やカナダでは、サイダー(英語: cider)は「精製、熱加工していないリンゴ果汁」を指す。
大韓民国では日本と同じノンアルコール・無色透明・甘味の炭酸飲料を指す。日本統治時代に日本から輸入されて広まり、後に現地の業者による製造も始まった。
なーるほど、日本でも「シードル」という商品名で売っている発泡性のリンゴ酒がありますが、それこそがサイダーなわけですか。フランス語の cidre と 英語の cider はつづりもほぼ同じですね。中身もじつは同じなのである、と。
冒頭で引き合いに出したわたしの体験談はアメリカ人の話でしたから、ノンアルコールのリンゴジュースのことだったわけです。ここで確認がとれました。
ですから、サイダーと cider は別物だ、といっても間違いではないわけです。日本語のサイダーは saidaa とローマ字表記すれば、たしかにその違いがわかります。韓国語では 사이다 とそのままサイダと音を移してますので、あきらかに日本語から来ていることがわかります。この事実ははじめて知りました。
外国のモノが入ってきて日本化(Japanize)される。このサイダーの事例は、和製英語ではなくて、日本人が発音しやすいように音が変化したものですが、発泡という要素を人工的につくりだすために炭酸を入れたというのがミソなわけですね。この工夫が日本人らしい発明です。
おかげでサイダーというと、すっかり炭酸飲料のことをイメージするようになっているというのが日本人。もちろん、ふだんは炭酸と省略してクチにすることも多いですが。
「サイダーはサイダーではない、サイダーと cider は別物だ」と思いながらサイダーを飲んでみたらいかがでしょうか?
日本の製品が海外に受け入れられて、見た目も中身も別物に変化していたとしても、そう目くじらをたてることもなくなることでしょう。これは「創造的改変」とでもいうべきことかもしれません。
三ツ矢サイダー(アサヒビールのサイト内)
シードル(アサヒビールのサイト内)
・・リンゴ100%のスパークリングワイン
同じアサヒビールで扱っているサイダー(cider)とシードル(cidre)は別物ですね
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・・無農薬の「自然栽培」による「奇跡のリンゴ」の栽培農家
(2014年8月20日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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