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2011年9月12日月曜日

書評 『津波と原発』(佐野眞一、講談社、2011)-「戦後」は完全に終わったのだ!


「戦後日本」と訣別する第一歩となる本。メルトダウンした日本でいま何を考えるべきかが見えてくる

 「3-11」については、これまで饒舌に語ってきた多くの論者が沈黙してしまった。あるいは発言したにせよ、その内容はリアリティのない空虚な響きしかもたないコトバの羅列に過ぎないのではないか?

 そう思う人はこのノンフィクション作品を読むことをすすめたい。

 「品格」を欠いた表現が少なくないし、しかも「こじつけ」が多いのではないかという理由で佐野眞一が好きではないにしても、この作品だけは今後のために読んでおくべきだと言っておきたい。

 「3-11」の東日本太平洋岸の大地震と大津波、そして最悪の事態となった福島第一原発のメルトダウン。ともに同時期に発生した大災害であるが、前者が千年に一度とさえいえる巨大自然災害であったのに対し、後者は明かに「人災」である。前者が目に見えるかたちで大きな被害をもたらしたのに対し、後者は今後数十年にわたって見えない恐怖を与え続けることになる放射能被害である。

 とくに原発事故は、「戦後日本」そのものが、そっくりそのままメルトダウンしたのではないかという、シンボリックな意味さえ帯びるにいたっている。さらに言えば「近代日本」そのものがメルトダウンしたのではないか、とさえ思われるのである。

 わたしが本書を読むことにした理由の一つは、『東電OL殺人事件』(新潮社、2000)を書いた佐野眞一が、原発事故と東電についてどのような発言をしているのか知りたいと思っていたことにある。

 しかも、『巨怪伝』(文藝春秋社、1994)では読売新聞社主となった正力松太郎と「戦後大衆社会」をあますことなく描ききった佐野眞一だ。「テレビの父」だけでなく、「原発の父」でもあった正力松太郎について語ることは、そっくりそのまま戦後日本と東電を中心とした原発につながるのである。原発による電力があってこそ、「戦後大衆社会」が成立してきたことは、うかつなことに、本書を読むことで、はじめて強い印象とともに気が付かされた。

 戦後の理想教育を主導しながら挫折した無着成恭、戦後大衆消費社会を実現させた実業家・中内功、戦後大衆社会をリードしてきた石原慎太郎や小泉純一郎といった自民党政治家、そして戦後社会の実験場であった満洲に、戦後のつけが集約されてきた沖縄。これまで佐野が描いてきた戦後日本を扱ったノンフィクションを列挙してみると、佐野眞一が一貫して「戦後日本」とそれを準備した「近代日本」そのものを、時代を象徴するさまざまな人物をとおして描いてきたことがわかる。

 「3-11」とは、まさにその「戦後大衆社会」がすでに液状化し、崩壊していたことを明らかにした自然災害であり、それに付随して発生した取り返しのつかない「人災」であったことが本書によって確認されている。その意味で、「3-11」は暴力的に「戦後」を終わらせたのである。本書は、佐野眞一の集大成とまでは言わないが、これまで「戦後」を多面的に描いてきた蓄積があったからこそ書けた内容だといえるだろう。
 
 この本を読むと、われわれがいまどういう地点に立っているのか知ることができる。何をすべきなのかが明確に示されたわけではないにせよ、何を考えるべきかがおぼろげながらも見えてくるだろう。すくなくともそのキッカケにはなるはずだ。

 その意味で、ぜひ一読することをすすめたい。もはや「戦後」は終わったのだ。


<初出情報>

■bk1書評「「戦後日本」と訣別する第一歩となる本。メルトダウンした日本でいま何を考えるべきかが見えてくる」投稿掲載(2011年9月6日)
■amazon書評「「戦後日本」と訣別する第一歩となる本。メルトダウンした日本でいま何を考えるべきかが見えてくる」投稿掲載(2011年9月6日)





目 次

第一部 日本人と大津波
  重みも深みもない言葉 
  志津川病院の中に入って
  おかまバーの名物ママの消息
  壊滅した三陸の漁業
  熱も声もない死の街
  「何も考えずに逃げる」
  “英坊”は生きているか
  「ジャニーズ」の電源車
  高さ十メートルの防潮堤
  嗚咽する“定置網の帝王”
  日本共産党元文化部長・山下文男
  九歳で昭和大津波に遭遇
  「津波は正体がわからない」

第二部 原発街道を往く
 第一章 福島原発の罪と罰
  逮捕覚悟で原発地帯に入って
  浜通りと原発銀座
  東電OL・渡辺泰子とメルトダウン
  現代版「原発ジプシー」
  無人の楢葉町役場と「天守閣」
  満開の桜と野犬化したペット
  禁止区域に立ち入る牧場主
  地獄の豚舎にあった「畜魂碑」
  原発には唄も物語もない
  ホウレン草農家の消息
  陸軍の飛行場が原発に
  天明の飢饉と集団移民
 第二章 原発前夜-原子力の父・正力松太郎
  原子力の父と「影武者」
  読売新聞の原子力キャンペーン
  核導入とCIA
  原子力平和利用博覧会
  英国からの招待状
  欧米の原子力事情視察
  東海村の火入れ式
  天覧原子炉
  正力の巨大な掌の上で
  「原子力的日光浴」の意味するもの

 第三章 なぜ「フクシマ」に原発は建設されたか  
  フクシマと「浜通り」の人びと
  塩田を売却した堤清次郎の魂胆
  木川田一隆と木村守江の接点
  原発を導入した町長たち
  反対派町長・岩本忠夫が「転向」した理由
  東京電力の策謀
  原発労働はなぜ誇りを生まないか
  浜通り出身の原子炉研究者

あとがきにかえて


著者プロフィール

佐野眞一(さの・しんいち)

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。




<書評への付記>

 正直に告白すると、ほんとうはこの本は読むつもりはなかったのだ。だが、読み始めるとけっきょく一気に読み通してしまった。

 日経ビジネスオンラインに掲載されていた著者に聞く 「司馬遼太郎」も「松本清張」も津波で流された『津波と原発』を出版した佐野眞一さんに聞く(黒沢正俊、日経ビジネスオンライン 2011年8月1日)を読んで、「これだ!」と思うところがあって急遽読むことにしたのだ。

 佐野眞一のノンフィクション作品は大半を読んでいるが、それはわたしがビジネスマンであることも大きいと思う。ダイエーの中内功の本などはじつに面白かった。ダイエーが大きくなっていたプロセスを観てきたわけではない世代にとっては、戦後の消費をリードした傑出した経営者であった中内功はじつにまぶしい存在であったからだ。晩節を汚して、寂しく世を去ったのはまことにもって残念なことであったが。

 さて、本書にかんしては、書評のなかで書いたが、あいかわらず「品格」に欠け、やや「こじつけ」と思わざるを得ないような記述もないとは言わないが、『津波てんでんこ-近代日本の津波史-』の著者で、元日本共産党の山下文男に、大津波から救出されて入院していた病室で行ったインタビューの話は面白い。いまでは、自分を救出してくれた自衛隊に大いに感謝しているという老人になっている。これはぜひ読んでほしいと思う。

 『旅する巨人』(文藝春秋、1996)では、日本中を旅して歩いた民俗学者宮本常一とそのメンターであった民族学者で大蔵大臣を務めたこともある澁澤敬三の生涯を描いているが、佐野眞一の「民俗学の手法」がいかなるものであるかよく理解できる良書である。

 本書『津波と原発』で発掘された、相馬中村藩の飢饉と移民受け入れの話は、わたし自身まったく知らなかっただけに、調べて書いた佐野眞一だけでなく、オドロキの事実の連続に圧倒されることだろう。ここにはまさに「民俗学的手法」がフルに活かされている。

 大飢饉のさなかの人肉食の凄惨な話や、激減した生産人口を回復するために、禁令を犯して、遠く日本海側の因幡や北陸から誘致した移民は、浄土真宗の布教とあいまった移民政策のたまものであったのだ。ちなみに、この相馬中村藩は、幕末に二宮尊徳が開発政策に大きく関与したことで知られている。

 「戦後日本」はすでにメルトダウンした。いや「近代日本」もすでにメルトダウンすたというべきだろう。これをシンボリックに表現したのが、「「司馬遼太郎」も「松本清張」も津波で流された」という表現である。

 「戦後日本」だけでなく、「近代日本」に引導を渡すべきときが来ているのではないか、その時期が顕在化したことに一日も早く気づくべきではないのかと、わたしは強く思うのだ。



<関連サイト>

著者に聞く 「司馬遼太郎」も「松本清張」も津波で流された-『津波と原発』を出版した佐野眞一さんに聞く(黒沢正俊、日経ビジネスオンライン 2011年8月1日)


<ブログ内関連記事>

書評 『私の体験的ノンフィクション術』(佐野眞一、集英社新書、2001)-著者自身による作品解説とノンフィクションのつくり方

書評 『あんぽん 孫正義伝』(佐野眞一、小学館、2012) -孫正義という「異能の経営者」がどういう環境から出てきたのかに迫る大河ドラマ

「沖縄復帰」から40年-『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』(佐野眞一、集英社、2008)を読むべし!

「歴史の断層」をみてしまったという経験-「3-11」後に歴史が大転換する予兆 (2011年4月16日)
・・「いわゆる時代区分としての「戦後」は終わったと考えるべきだ」。

書評 『日本文明圏の覚醒』(古田博司、筑摩書房、2010)
・・「近代日本」に訣別する意思表示

書評 『津波てんでんこ-近代日本の津波史-』(山下文男、新日本出版社、2008)
・・本書でも、今回の大津波で辛くも生き残った山下文男に病室でインタビューしている

『緊急出版 特別報道写真集 3・11大震災 国内最大 M9.0 巨大津波が襲った発生から10日間 東北の記録』 (河北新報社、2011) に収録された写真を読む

成田山新勝寺「断食参籠(さんろう)修行」(三泊四日) (4) 間奏曲-過去の断食参籠修行体験者たち
・・二宮尊徳について比較的くわしく触れている

(2014年8月22日、12月27日 情報追加)





(2012年7月3日発売の拙著です)








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