映画 『大統領の料理人』(フランス、2012)をみてきました。東京・渋谷の bunkamura ル・シネマにて。
フランス語の原題は Les saveurs du palais(宮廷の味)。ここでいう宮廷とはフランス大統領官邸であるエリゼ宮(Palais de l'Élysée)をさしています。日本語タイトルは直訳ではありませんが、そっけないながらもダイレクトに興味をかきたてる「いい味」を出しています。
一言でいって「おいしい映画」です。グルメ映画ではありますが、ただ食べるだけではなく作る側と食べる側との交流が軸に描かれた映画です。主人公が料理人であるという点においては料理映画というべきかもしれません。
『大統領の料理人』の主人公は、ミッテラン大統領のプライベート・シェフとなった女性料理人。ミッテラン大統領の任期は1981年から1995年までの14年間。晩年はガンと闘いながらなんとか大統領職を全うしたとのこと。
フランス語はすでに外交の世界では英語にとって変わられていますが、美食大国フランスにとって「饗宴外交」はきわめて大きな意味をもっています。しかし、饗宴料理ではなくふつうの家庭料理を食べたいというミッテラン大統領のつよい要望から、女性料理人に白羽の矢が立ったのでありました。
ダニエル・デルプシュという実在の女性をモデルにした実話にインスパイアされた作品だけに、借り物でもつくりものでもない、オリジナルなシナリオの良さが前面にでたエンターテインメント作品になっています。
(トレイラーよりキャプチャ画像)
この映画は厨房ものでありますが、政治家と料理人の関係であり、厨房における政治闘争であり、男性支配の世界での女性のキャリアであり、人生後半におけるチャレンジについての映画でもあります。いろんな見方が可能でしょう。
「大統領の料理人」を辞職してから数年後、主人公はなんと59歳(!)で「南極料理人」の職をゲットしています。フランスの南極観測隊基地の料理人という仕事です。30歳が上限という募集条件にクレームをつけ、みごと勝ち取ったらしい。さすがフランス人、南極でも食事にこだわる隊員たちを満足ささえねばならないわけです!
映画は、この「南極料理人」としての一年の任期の末期と、「大統領の料理人」の2年間のキャリアを交差させながらパラレルに進行させています。南極とフランス、現在と回想、過去と未来の交差・・・
(オリジナルのフランス版ポスター)
主人公の女性料理人の助手としてつけられた若い男の子は専門はお菓子つくりの職人であるパティシエです。パティシエであっても料理は一通りつくるというのが求められるようです。料理における専門とその周辺の関係を考えるうえで興味深いがありますね。
肩のこらないエンターテインメントとして、お薦めしたい一品です。
ボナペティ(Bon Apetit) !!!
<関連サイト>
映画 『大統領の料理人』(公式サイト)
映画 『大統領の料理人』トレーラー(日本版)
Les saveurs du palais - Bande annonce(オリジナルのフランス版トレーラー)
「ミッテランの女料理人」に向けられた「嫉妬」(西川恵 「フォーサイト」 2013年7月22日)
・・「フランスの女性料理人のダニエル・デルプシュさん(70)が故ミッテラン大統領(在任1981-95年)に請われ、初の女性料理人としてエリゼ宮入りしたのは88年。2年間、大統領専属の料理人として腕を振るった。昨秋、フランスで彼女のエリゼ宮の体験が映画化され、9月には日本でも『大統領の料理人』の邦題で公開される。デルプシュさんに話を聞いた。」
PS フランス語では Inspire d'une histoire vraie となっています。そのまま英語に置き換えると Inspired by a true story となります。英語なら Based on the true story という表現がふつだが、このフランス語の文言から、実話をベースにしながらも実話そのものではない、というニュアンスを読みとることができるでしょう。
(トレイラーよりキャプチャ画像)
<ブログ内関連記事>
■飲食関連
西川恵の「饗宴外交」三部作を読む-国際政治と飲食の密接な関係。「ワインと料理で世界はまわる」!
・・『大統領の料理人』の参考書として、『エリゼ宮の食卓』はぜひ読むことをすすめたい
「生命と食」という切り口から、ルドルフ・シュタイナーについて考えてみる
・・映画 『大統領の料理人』でも主人公のシェフは徹底的に素材にこだわる
「スペイン料理」 の料理本を 3冊紹介
書評 『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』(岡田芳郎、講談社文庫、2010 単行本 2008)
映画 『ジュリー&ジュリア』(2009、アメリカ)は、料理をつくり料理本を出版することで人生を変えていった二人のアメリカ女性たちの物語
『聡明な女は料理がうまい』(桐島洋子、文春文庫、1990 単行本初版 1976) は、明確な思想をもった実用書だ
『こんな料理で男はまいる。』(大竹 まこと、角川書店、2001)は、「聡明な男は料理がうまい」の典型だ
『檀流クッキング』(檀一雄、中公文庫、1975 単行本初版 1970 現在は文庫が改版で 2002) もまた明確な思想のある料理本だ
邱永漢のグルメ本は戦後日本の古典である-追悼・邱永漢
『きのう何食べた?⑥』(よしなが ふみ、講談社、2012)-レシピは読んだあとに利用できます
■フランスのライフスタイル
『恋する理由-私が好きなパリジェンヌの生き方-』(滝川クリステル、講談社、2011)で読むフランス型ライフスタイル
月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2011年1月号 特集 「低成長でも「これほど豊か」-フランス人はなぜ幸せなのか」を読む
■南極関連
アムンセンが南極に到達してから100年-西堀榮三郎博士が説くアムンセンとスコットの運命を分けたチームワークとリーダーシップの違い
南極観測船しらせ(現在は SHIRASE 5002 船橋港)に乗船-社会貢献としてのただしいカネの使い方とは?
■料理と引き出し
なお、食事を食べてつくることについては、拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(佐藤けんいち、こう書房、2012)の「第5章 引き出しの増やし方 応用事例編 「料理」を例に「引き出し」を増やしてみるとしたら」にくわしく書いておいたので、参照していただけると幸いです。
むかし富士山八号目の山小屋で働いていた (3) お客様からおカネをいただいて料理をつくっていた
・・わたし自身の「料理人」としての体験について語ってます
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