ひさびさに面白くて読めば元気になるマンガに出合ったという思いだ。テーマは女性の人生ドラマであり、仕事マンガである。
「重版出来」と書いて「じゅうはん・しゅったい」と読むのだそうだ。なにを隠そうこのわたしも、このマンガを読むまで「じゅうはん・でき」だと思い込んでいた。これでは、このマンガの主人公の黒沢心(くろさわ・こころ)のことはとても笑えない(汗)
「重版出来」とは、初版を売り切って(・・あるいは売り切るメドがついて)、第2刷に入ることを意味している。第3刷以降についても重版と表現される。マンガに限らず単行本の重版は、その出版物が成功したことを意味するのである。これほど出版関係者を元気にするコトバはないのである。
主人公の黒沢心は大学まで柔道一筋に頑張ってきた女性。怪我で柔道は断念、大学卒業後の就活では出版業界を目指す。こういう一本気で突破力をもったキャラを主人公に設定したことがこのマンガの成功要因であるのは間違いない。現在は青年マンガ誌を読む習慣はないが、もし読んでいたら連載開始から巻き込まれていたのは間違いないと思う。
マンガ出版の世界に限らず、出版界の斜陽化が言われて久しいが、デジタル化がいかに進んでも、仕事の内容はアナログな世界が基本であることに変わりはない。それはそれは人間臭い世界であり、ドラマにもなりやすいわけだ。
著者(・・マンガの場合はマンガ家)、担当編集者、営業担当者、そして書店員の四者を軸に、さまざまな人たちがかかわる出版の世界もまたチームでする仕事である。
出版の世界もビジネスである以上、「売れてなんぼ」なのである。売れ行きがよくなくてもいい作品もあるが、いい作品であればこそ売れてほしい、いや売りたい。その気持ち合致し共有されたとき、商品としてのマンガ単行本が売れることにつながるのである。
それは偶然の結果ではなく、主体的で能動的な働きかけの結果というべきだろう。会社組織を超えてかかわる人たちを巻き込むことによって。仕事は一人でするものではない。
舞台は出版社のマンガ編集と営業の世界。このマンガが連載中の「ビッグコミックスピリッツ」の版元は小学館だから内輪ものでもある。
週刊誌編集の世界を描いた『働きマン』というマンガもあるが、この業界特有の不規則な仕事による過労で主人公の女性は疲弊してしまう。最初は元気の塊のようだったのだが・・・
その点、『重版出来!』の主人公は女子柔道部員出身。体力と気力では誰にも負けないはずだから、たぶん乗り切っていくのだろう、と期待したいものだ。まだ入社して一年もたってない状態だし。
わたしが入手したのは第3刷、『重版出来!』というタイトルのマンガに重版がかからなかったら、それではシャレにならなかったわけだ。こんな面白いマンガなら、その心配はなかったかもしれないが、初版の発行部数との兼ね合いもあるので重版が絶対とは言い切れない。
中年が読んでも面白いが、「青年マンガ誌」の読者ではないだろう20歳代はじめの若者にこそ読んでほしいマンガである。
自分がいまやっている仕事に意味を見出し、仕事をつじて学び成長するとはどういうことかが理解できるはずだ。すくなくとも気づきを得ることはできるだろう。
作者プロフィール
松田奈緒子(まつだ・なおこ)
1969年、生まれ。長崎県出身。 『コーラス』(集英社)に掲載された『ファンタスティックデイズ』でデビュー。代表作は『』レタスバーガープリーズ, OK, OK!』、『少女漫画』、『えへん、龍之介』他(wiki情報と単行本記載情報から作成)。
PS 『重版出来!』の第2巻をゲットし、さっそく読了。よりマンガ編集の世界に密着した内容。出版社の外部にある製版業者もまた「チームメンバー」だ。第3巻は2014年3月刊行予定とのこと。楽しみだ(2013年9月30日 記す)
PS3 『重版出来!』の第4巻をゲットし、さっそく読了。読むにもけっこうエネルギーを要するマンガ。マンガ家という道を歩くことの厳しさ、働くと言うことの意味。第4巻も熱い! (2014年10月8日 記す)。
PS4 『重版出来!』の第5巻をゲットし読了。このマンガは主人公のキャラの設定が成功したため、まだまだ続いてゆくことだろう。ひきつづき内容が面白いので読むつもり。(2015年6月6日 記す)。
ビックコミックスピリッツ「重版出来!」特設サイト | 試し読み (小学館サイト)
重版出来! 1 | ビッグ コミックス | ビッグ コミックス系 | コミックス | 小学館 (小学館サイト)
クッキーまんが家インタビュー 松田奈緒子先生(集英社サイト)
澤本嘉光の「偉人×異人」対談(日経ビジネスオンライン 2013年3月~4月)
作家と編集者の「相性」が、軽く見られすぎてきた 佐渡島庸平さん×澤本嘉光さん 第1回
『宇宙兄弟』の秘密~「講演会」にヒットの芽あり 佐渡島庸平さん×澤本嘉光さん 第2回
我々はなぜマンガの人物に「リアル」を感じるのか 佐渡島庸平さん×澤本嘉光さん 第3回
このキャラを「コンビニのおにぎり」で説明せよ! 佐渡島庸平さん×澤本嘉光さん 第4回
・・CMプランナーの澤本氏が元講談社で現在独立してマンガ編集を行っている佐渡島氏に聞く対談
火曜ドラマ『重版出来』 公式サイト
・・2016年ドラマ化
「私が売らなくてごめんなさい」から始まった『重版出来!』 (編集長・高橋由里が会いたかったこの4人 Vol.3 松田奈緒子)(東洋経済オンライン、2016年7月)
(2016年7月16日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
『マンガ 重版出来』がドラマ化(2016年4月12日)-マンガが原作のテレビドラマはいまや主流だ
働くということは人生にとってどういう意味を もつのか?-『働きマン』 ①~④(安野モヨコ、講談社、2004~2007)
書評 『サラリーマン漫画の戦後史』(真実一郎、洋泉社新書y、2010)-その時代のマンガに自己投影して読める、読者一人一人にとっての「自分史」
本の紹介 『人を惹きつける技術-カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方-』(小池一夫、講談社+α新書、2010)
書評 『キャリア教育のウソ』(児美川孝一郎、ちくまプリマー新書、2013)-キャリアは自分のアタマで考えて自分でデザインしていくもの
(2016年7月16日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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