「移民」というと、海外へ「移住」していくことであって、海外から「移住」してくることはあまり念頭になかったのが日本人の固定観念ではなかっただろうか。
少子高齢化によって労働力人口不足が話題になることが多くなってからは、「移民受け入れ」も話題になってきている。だが、それでもまだ「移民」というとハワイやカリフォルニア、ブラジルやペルーの日系人のことがアタマに浮かぶ人が大半なのではないだろか。
そういう人こそ、この『移住・移民の世界地図』(ラッセル・キング、竹沢尚一郎・稲葉奈々子・高畑幸共訳、丸善出版、2011)という、地図帳と資料集を眺めてみるといいだろう。
最近は、さまざまな地図帳が出版されていて、細分化した関心に応えてくれるものがあるがが、この地図帳は、人文地理学の観点から、国際間と国内の「人口移動」を数字に裏付けのもとにビジュアル化したものだ。グローバルな「人口移動」を空間的に把握することを可能にした地図帳だといっていいだろう。
移住と移民のカテゴリー分類が興味深い。目次をみるとそれがわかるだろう。
第1部 大いなる物語:時代を越えた移住と移民
黎明期の移住
地中海の放浪の旅
奴隷の強制移住
年季奉公労働者の移住
大移住
イタリアからの移民
移住による国民形成
植民地化に伴う移住
ディアスポラ
第2部 移動する世界:現在のグローバルな移民パターン
グローバルな移民
戦後の労働者の移住と移民
新しい労働移民
静かな移民
中南米諸国
湾岸諸国
ユーラシアの移民パターン
インドの国内移民
米国内の移民
国内移住と貧困
第3部 移住=移民の時代:人の移動によるハイブリッド・アイデンティティ
難民
難民の滞留
難民の帰還
ヨーロッパにおける亡命希望
国内避難民
気候変動
非正規移住=移民
国境における死
移住とジェンダー
結婚移民
子どもの移住
学生の移住
技能移民
国際的退職移住
帰還移住
移住と統合
在外投票
二重国籍
送金と開発
移住=移民政策
第4部 データと出所
経済と移動
移民政策
基本的に、貧しい地域から豊かな地域への移動という、経済的な理由による移動が多いがそれだけではない。政治的な要因も、勉強するための移動も、大規模災害という気候変動によるものもある。日本国内の地方から大都市への人口移動についてもでてくる。
この地図帳をみていると、「移民」は出すだけではなく、受け入れるものでもあることが理解できるのではないだろうか。
外へ出て行くエミグレーション(em-migration)と、内に入ってくるイミグレーション(im-migration)に共通するのは、マイグレーション(migration)という移動である。人口移動である。
そもそも、人類はアフリカで誕生し、ユーラシア大陸を横断して、この日本にも渡来してきたのである。この日本列島も先住民である縄文人と渡来人である弥生人とのハイブリッドであるし、その後も海外に意味を出してきただけでなく、多くの移民を受け入れてきたのである。
そういった壮大な人類史を考えれば、「移民」というものは特別視する必要はないのではないかと思うのだが、いかがだろうか。
「移住」や「移民」を広く「人口移動」と捉えることによって、移民受け入れにかんする議論のバリアを下げることにつながるのではないかと期待したい。
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編著者プロフィール
ラッセル・キング(Russel King)
英国サセックス大学教授、サセックス大学移民研究センター長、30年以上にわたり世界中のさまざまなかたちの移民=移住を研究してきた。主な研究プロジェクトはヨーロッパと地中海諸国であり、イタリア人の帰還移住、アイルランド人の移民、英国人の南欧羅巴への退職移住、国際的な学生の移住、アルバニア人の移民と開発、ギリシア人とキプロス人のディアスポラが含まれる。Journal of Ethinic and Migration Stidies の編者をつとめている。(本に記載された略歴より)。
訳者プロフィール
竹沢尚一郎(たけざわ・しょういちろう)
国立民族学博物館教授。専門は社会人類学
稲葉奈々子(いなば・ななこ)
茨城大学人文学部准教授。専門は国際社会学、国際移動論
高畑幸(たかはた・さち)
静岡県立大学国際関係学部准教授。専門は都市社会学、エスニシティ論 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
書評 『自爆する若者たち-人口学が警告する驚愕の未来-』(グナル・ハインゾーン、猪俣和夫訳、新潮選書、2008)-25歳以下の過剰な男子が生み出す「ユース・バルジ」問題で世界を読み解く
・・「しかるべきポジションをゲットできず居場所がない野心的な若者たち。過剰にあふれかえる彼らこそ、暴力やテロを生み出し、社会問題の根源となっている。これは現在だけでない、歴史的に見てもそうなのだ。「少子高齢化」ばかり耳にする現在の日本では考えにくい事態であるが、これが世界の現実だ。イデオロギーや主義も、しょせん跡付けの理由に過ぎない」
書評 『民衆の大英帝国-近世イギリス社会とアメリカ移民-』(川北 稔、岩波現代文庫、2008 単行本初版 1990)-大英帝国はなぜ英国にとって必要だったのか?
・・本国で雇用がつくりだせない以上、増大する失業者が社会問題にも発展しかねない。そこで活用されたのが、植民地だったのである
「JICA横浜 海外移住資料館」は、いまだ書かれざる「日本民族史」の一端を知るために絶対に行くべきミュージアムだ!
・・かつて過剰人口問題に悩んでいた日本もまた「移民」送り出しで問題解決を行っていた
書評 『未来の国ブラジル』(シュテファン・ツヴァイク、宮岡成次訳、河出書房新社、1993)-ハプスブルク神話という「過去」に生きた作家のブラジルという「未来」へのオマージュ
・・移民の国ブラジル。民族は共存し融合していく
書評 『砂糖の世界史』(川北 稔、岩波ジュニア新書、1996)-紅茶と砂糖が出会ったとき、「近代世界システム」が形成された!
・・大英帝国は植民地カリブに黒人奴隷をもちこんだ
書評 『諜報の天才 杉原千畝』(白石仁章、新潮選書、2011)-インテリジェンス・オフィサーとしての杉原千畝は同盟国ドイツからも危険視されていた! ・・ユダヤ難民
書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える
・・ユダヤ難民
ハンガリー難民であった、スイスのフランス語作家アゴタ・クリストフのこと
・・1956年のハンガリー革命(=ハンガリー動乱)で亡命を余儀なくされた難民
書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)-「やる気のある若者たち」への応援歌!
『ストロベリー・ロード 上下』(石川 好、早川書店、1988)を初めて読んでみた
・・伊豆大島からカリフォルニアに意味した戦後移民
日米関係がいまでは考えられないほど熱い愛憎関係にあった頃、多くの関連本が出版されていた-『誇りてあり-「研成義塾」アメリカに渡る-』(宮原安春、講談社、1988)
・・長野県からのアメリカ移民
映画 『正義のゆくえ-I.C.E.特別捜査官-』(アメリカ、2009年)を見てきた
・・不法移民として、あるいは合法的に入国してアメリカ市民権取得を待つ、さまざまな民族の移民の視点にたった物語
書評 『持たざる国への道-あの戦争と大日本帝国の破綻-』(松元 崇、中公文庫、2013)-誤算による日米開戦と国家破綻、そして明治維新以来の近代日本の連続性について「財政史」の観点から考察した好著
・・戦時中の日本は、戦争のための大規模動員による人的資源不足解消のため、植民地と占領地から労働不足解消のための強制徴募を行った
(2014年10月9日、11月6日 情報追加)
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