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2014年8月2日土曜日

マイク・タイソンが語る「離脱体験」ー 最強で最凶の元ヘビー級世界チャンピオンは「地頭」のいい男である!

(2011年のマイク・タイソン wiipediaより)

最強で最凶とよばれた元ヘビー級ボクシングの世界王者マイク・タイソン。引退してからすでに20年以上、世界チャンピオンとしての全盛期はすでに遠い昔だが、いまだに「時の人」であるようだ。

というのも最近のことだが、マイク・タイソンの自伝が日本語訳されて出版されたらしい。『真相-マイク・タイソン自伝-』(マイク・タイソン、ジョー小泉監訳、棚橋志行訳、ダイヤモンド社、2014)がそれだ。英語版は、Undisputed Truth: My Autobiography (HarperSport, 2013)である。日本語訳のタイトルはほぼ原題とおなじだ。

「目次」を見る限り、まさに波瀾万丈で浮き沈みの激しいジェットコースター人生。断片的にマスコミ報道をつうじて知ってはいたが、それにしてもすさまじいまでの人生だ。

出版元のダイヤモンド社の「ダイヤモンドオンライン」の記事オンラインで一部が抜粋して紹介されているのではじめて知ったのだが(・・日本でも雑誌で内容のさわりを紹介するマーケティング手法が一般的になってきた)、その第2回目の記事を読んで、わたしは心底驚いた。

マイク・タイソンって、意外と知的じゃないか(!)、と。

その連載2回目の記事のタイトルは、まさにリアル「あしたのジョー」!タイソンとボクシングの運命的な出会い というものだ。少年院で出会ったボクシングと、少年院の教官から見込まれて紹介してもらった「伝説のボクシングトレーナー」との出会いについて語られている。

ブルックリン生まれのマイクはニューヨーク州の少年院に入れられていたわけだが、「伝説のボクシングトレーナー」はニューヨーク州のキャッツキルに邸宅を構えていたらしい。その名前はカス・ダマト(Constantine "Cus" D'Amato)。イタリア系移民である。

カスは、マイク・タイソンにとってはボクシングに開眼させてくれた恩師であり、心の師でもあった。その恩師がマイクに話してきかせた内容が『自伝』に記されている。ダイヤモンドオンラインの記事から引用させていただこう(以下の引用はすべておなじ)。

カスの話には何時間でも耳を傾けることができた。そんな相手には今まで出会ったことがない。カスが教えてくれたのは、本能のままリラックスして動くことの大切さだった。気持ちや感情に動きを邪魔されてはならない。カスはかつて、こんな話を文豪ノーマン・メイラーとしたことがあったという。
 「カス、君は知らないうちに禅(ぜん)を実践しているんだよ」とメイラーは言い、オイゲン・ヘリゲルの『弓と禅』という本をカスにくれた。カスはよく、その本を読んでくれた。(*太字ゴチックは引用者=さとう)

こんな話を少年時代のマイクは、恩師から直接聞かされているのである。

オイゲン・ヘリゲルの『弓と禅』は、戦前の東北大学で教鞭をとっていたドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲル(Eugen Herrigel)が滞日中に修行した弓道と禅仏教から得た洞察をつづったものである。ドイツ語で1936年(昭和11年)に出版されたものだ。岩波文庫からは『日本の弓術』として昭和15年にでている。


英語版の Zen in the Art of Archery(1953)は英語圏のロングセラーで、さまざまなエディションで出版されている。しかもこの英語版には滞米中の晩年の D.T. Suzuki(=鈴木大拙)が英語で序文(イントロダクション)を書いている。

(左が書籍内容、右が鈴木大拙の「序文」の末尾の文章)

「西欧の合理的で論理的な思考」に慣れ親しんできたドイツ人哲学教授が、日本において「東洋の非合理的だが直観的な思考」に開眼し、それを言語化して比較的わかりやすい文章で記述したもの。日本語訳でもいいし、英語訳でもいいので、日本人ならかならず一度は読んでおきたい名著だ。



マイク・タイソンの『自伝』から引用をつづけよう。

カスは自分の初めての試合で、感情の超越という究極の状態を経験したそうだ。・・(中略)・・ 第2ラウンドに入ると、ふっと、心が体から切り離され、自分自身を離れたところから見ている自分がいた。相手のパンチが遠くから来るみたいに感じられた。いや、感じたというより、それに気がついたのだという。
 「偉大なボクサーになるには考えることをやめる必要がある」とカスは言った。俺を座らせて、「超越しろ。集中しろ。自分が自分を見ているのがわかるくらいリラックスしろ。その境地に達したら、俺に教えろ」と言った。
この教えは俺にとってはきわめて重要な意味があった。俺には感情をむきだしにするところがあるからだ。あとからわかったことだが、リング上では感情を切り離せないと撃沈の憂き目に遭う。強いパンチを当てても相手が倒れないと、恐怖心が忍び込んでくる
カスはこの離脱体験をさらに発展させた。心を体から切り離し、そのうえで未来を描き出す。「すべてが穏やかで、自分は外にいて自分自身を見つめている」彼は言った。「それは俺であって俺でない。心と体がつながっていないようでつながっている。心に絵が浮かぶ。今から起ころうとしていることが心の目に浮かぶ。その絵を実際に見ることができる。映画のスクリーンのように。

「自分を見ている自分」の存在。おお、まさに「幽体離脱」体験ではないか! おなじような体験は武道の達人であれば、かならずしている。たとえば合気道開祖の植芝盛平は、至近距離からピストルで撃たれたとき、その弾丸の球筋がハッキリと見えたので「ひょいひょいとよけた」と述懐している。

これは能の大成者・世阿弥(ぜあみ)の「離見の見」(りけんのけん)でもある。演ずる自分を同時に観客として自分が見ている状態をさした表現のことだ。かなり高度な視点だが、上級者というものはこの段階に達しているのである。

「超越、集中、リラックス」。「考えるな、感じろ」。こんな教えを早い段階で受けることができたのも、マイク・タイソン自身がたぐいまれなポテンシャルをもっていたからだけでなく、教えを受け入れる柔軟さとひたむきさがあったからだろう。

念の力で物事をコントロールできるとまで、カスは主張した。ロッキー・グラジアノのアマチュア時代、カスが彼を教えていた。ある試合でのことだ。カスがセコンドについたが、ロッキーは敗色濃厚だった。2度のダウンを食らい、コーナーに戻ってきて試合を投げたいと言ってきた。しかし、カスは無理やりロッキーを送り出し、彼の腕に念を込めた。するとパンチが当たって相手が倒れ、レフェリーが試合を止めたという。
こういうとんでもない男に俺は鍛えられていたんだ。

ここまでくれば、もうボクシングというよりも武道や気功の「気」に近い「気の流れ」をコントロールせよという教えにも近い。

伝説のチャンピオンであったモハメド・アリ(=カシアス・クレイ)もまた来日した際には、合気道をはじめとする武道家に教えを乞うていることを想起させる。

「こういうとんでもない男に俺は鍛えられていたんだ」とマイク・タイソンは語っているが、よき師とよき弟子の関係というものの理想型がそこにある。まさに両者の「気が合った」のであろう。師弟関係において、肩の力を抜いてリラックスするには、お互いをリスペクトしあうことが不可欠なのだ。

それにしてもマイク・タイソンという男は、じつに「地頭」(ぢあたま)のいい男だ。学校の勉強ではない、いわゆるストリート・スマート系だが、ただ単に力が強いだけでは世界チャンピオンになれるはずがないのである。そしてボクシングというスポーツもまた知的なスポーツであることも。

肉体と精神の関係について考えるうえでも、マイク・タイソンのこのエピソードはじつに興味深いモノがある。





目 次

プロローグ
1 不良少年の覚醒
2 伝説的名トレーナー
3 最高のボクサーになるための教え
4 世界チャンピオンへの道
5 悪魔の仮面
6 仕組まれた陰謀
7 堕ちてゆく王者
8 レイプ事件の真実
9 刑務所内での破天荒な生活
10 再起から耳噛み事件へ
11 数々の裏切り
12 トラブルと享楽
13 3億ドルはどこへ消えた
14 快楽におぼれる日々
15 最悪の知らせ
16 再生への光
エピローグ
解説:ジョー小泉


著者プロフィール
マイク・タイソン(Mike Tyson)
1966年生まれ。アメリカ合衆国の元プロボクサー。1986年にWBCヘビー級王座を獲得、史上最年少のヘビー級チャンピオンとなる。その後WBA、IBFのタイトルを得てヘビー級3団体統一チャンピオンとして君臨。しかし2003年に暴行罪によって有罪判決を受けるなど数々のトラブルを巻き起こし、ボクシング界から引退。どん底状態から過去の自分を反省し、自己の人生を語るワンマンショーで成功を収め、新たな幸せと尊敬を得る。2011年、国際ボクシング殿堂入りを果たす。


<関連サイト>

Eugen Herrigel "Zen in the Art of Archery (Pdf)
・・英語版の全文が読める






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(2016年5月28日 情報追加)


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