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2014年12月22日月曜日

書評 『私の体験的ノンフィクション術』(佐野眞一、集英社新書、2001)-著者自身による作品解説とノンフィクションのつくり方


ノンフィクション作家の佐野眞一氏が2001年に書いた「ノンフィクション術」。佐野眞一氏は、そもそもが毀誉褒貶相半ばする作家であり、好き嫌いが大きく分かれる人であったが、2012年の週刊朝日による「橋下徹特集記事問題」でバッシングを受けたことは記憶にあたらしい。

だが、わたしはそれ以前の作品まで全否定すべきではないと考えている。とかく日本人はクロシロをつけたがるが、判断というものは冷静に行いたいものだ。わたしは佐野眞一氏については、作家としての力量はもとより、そのノンフィクション作品の数々を読むことで、大いに得るものがあったと考えている。

本書は、著者自身が解説した、佐野眞一のノンフィクション作品の読み方についての本でもある。ある意味では2001年時点での佐野眞一によるノンフィクションの入門書になっている。

『東電OL事件』など佐野眞一氏のノンフィクションの読者にとっては、舞台裏を知ることができるとともに、読者自身の読みと著者の思いの一致やズレを知ることもできる。なによりも、2014年時点から、ノンフィクションで取り上げられ、切り取られた時代の断面を未来からのぞき込んでいるような不思議な感覚も感じるのは、出版後十数年以上たってから読む者がもつ感想であろう。

宮本常一(1907~1981)という民俗学者の作品と人生にインスパイアされたノンフィクション作品の数々。宮本常一が故郷の周防大島を出る際に父親からさずかったという教えが本書に引用されているが、じつに味わい深いものだ。佐野眞一にとって宮本常一はノンフィクション作品のテーマであるだけでなく、つねにインスパイアされる・・でもあることがよくわかる。『旅する巨人-宮本常一と渋沢敬三-』(文藝春秋、1997)という作品はすばらしいものである。

宮本常一にかんする佐野眞一の記述は、「観察力」のあり方について、拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(佐藤けんいち、こう書房、2012)にも要約して引用しておいたので、ぜひ参照していただければと思う。(→ P.97~100)。

戦後日本大衆史を描き続けてきた佐野眞一の「中間報告」として読んでみるのもいいだろう。本書は2001年の出版なので、それ以降に刊行された作品についての言及は当然のことながらない。

もちろん、ノンフィクションの書き方についての入門書としても読めるものになっている。

だが、スキル面に重点を置いたハウツーではなく、自分の問題点を深掘りし、自分だけの「切り口」を見つけるためのマインドセットをどう自分のなかにつくりあげるかについて、自らの経験をもとに書いたものだ。これは、ノンフィクション以外でも応用可能なマインドセットである。

その意味でも読む価値はあると思うのである。


PS amazonレビューとして 2012年3月26日 に投稿した文章に加筆修正(2014年12月22日 記す)








目 次

プロローグ
第1章 あるく調査術、みる記録法
第2章 語り口と体験
第3章 仮説を深める
第4章 取材から構成、執筆へ
第5章 疑問から推理までの道のり
第6章 現代の民俗学をめざして
エピローグ


著者プロフィール

佐野眞一(さの・しんいち)
1947年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。1997年、『旅する巨人-宮本常一と渋沢敬三-』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。




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佐野眞一氏の著作関連

書評 『津波と原発』(佐野眞一、講談社、2011)-「戦後」は完全に終わったのだ!
・・「3-11」で「戦後」は終わった。リセットされたのだと納得させられる本




(2012年7月3日発売の拙著です)









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