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2017年9月3日日曜日

書評  『戦争にチャンスを与えよ』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2017)-戦略の「逆説的論理」によって「意図せざる結果」がもたらされる


『戦争にチャンスを与えよ』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2017)を読んだ。この本は、じつに刺激的だ。知的に刺激され活性化することは間違いなし。

 「戦争にチャンスを与えよ」という1999年に発表された英語論文から全体のタイトルが取られている。本書はこの論文の自己解説と、編訳者が著者に行った関連インタビューを一冊にまとめたもの。

 「戦争にチャンスを与えよ」という耳慣れないタイトルについてだが、本書には説明はないが、英語の Give PEACE a chance. の PEACE を WAR に入れ替えたものだろう。Give PEACE a chance.は言うまでもなくジョン・レノンの曲名。

著者の主張は、真の平和を欲するのであれば、戦争の当事者が不完全燃焼にならないように下手な介入はするな、というものだ。介入するなら、戦争相手国が敗戦したあとの戦後復興まで含めてフルコミットせよ、と。

戦争に負けた側は、敗戦後はまずは復興にチカラを注ぐから結果として平和になる。中途半端な停戦となると、お互いが再戦のために準備を注ぐため平和は訪れない。しかし平和がつづくと不感症になり、大丈夫だろうという根拠なき慢心が戦争を誘発する危険を高める。

これが著者のいう戦略の「パラドクシカル・ロジック」(=逆説的論理)というやつだ。戦争が平和をもたらし、平和が戦争をつくりだす。パレスチナ難民のように、難民キャンプでの支援が難民の存在を永続化させてしまうこともある。

この逆説的なロジックは、「意図せざる結果」と言い換えてもいいだろう。良かれと思った行為が、意図と反して逆の結果をもたらすことは、日常でもよく観察されるところだ。

このほか、戦略家の著者による「巨大で不安定な大国である中国」への対応、北朝鮮論への対応策、徳川家康を絶賛した戦国武将論、英国論など、いずれも刺激的で面白い。徳川家康も後期の大英帝国も、その巧みな同盟つくりによって成功したという指摘は重要だ。著者は、同盟は不快で苦痛を伴うものだという指摘も忘れない。日米同盟も同様であろう。

とくに著者の長年の研究テーマであるビザンツ帝国(=東ローマ帝国)の軍事戦略分析から得られる7つの教訓は、もっとも成功した戦略の実例として興味深い。ビザンツ帝国は千年続いた世界最長の帝国である。

全体的にインタビューで構成されているので読みやすいと思う。だが、ここで述べられている発想と思想は、いわゆる「平和愛好家」の神経を逆なでするものであろう。

こんなこと活字にしてしまっていのか(?)といった、現在74歳の著者自身による武闘派的エピソードも披露されているが、著者は象牙の塔のなかの研究者ではなく、つねに実戦的なフィールドに身を置いてきた人である。

おなじ編訳者による『中国4.0-暴発する中華帝国-』(文春新書、2016)とあわせ読むことを薦めたい。






<関連サイト>

Edward Luttwak (Wikipedia英語版
・・こちらは情報量が多いので、ルトワック氏のプロファイルと業績について知るには、英語版を見ておくことが重要





<ブログ内関連記事>

書評 『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)-中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ
・・どうも中国は、自分の行為がいかなる結果を引き起こすかについての想像力を著しく欠いているようだ。つまり、ルトワック氏のいう「パラドクシカル・ロジック」(=逆説的論理)が分かっ5ていないということ意味している

書評 『知的複眼思考法-誰でも持っている創造力のスイッチ-』(苅谷剛彦、講談社+α文庫、2002 単行本初版 1996) 
・・第4章で「意図せざる結果」についての重要な指摘がある。この本は必読書。

「ストライサンド効果」 (きょうのコトバ) 
・・「インターネット上に公開された情報を、個人や企業が封じ込めようとすればするほど、かえってその情報が拡散してしまうという、「行為の意図せざる結果」がもたらされてしまう現象のこと」

アダム・スミスの 「見えざる手」 は 「神の手」 ではない!-それは 「意図せざる結果」の説明として導入されたものだ




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