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2020年3月23日月曜日

『幻の東京オリンピック-1940年大会 招致から返上まで』(橋本一夫、講談社学術文庫、2014)で「幻の大会」となった80年前の東京オリンピックについて知る


2020年東京オリンピック大会が開催されるのかどうか、気が気でない人も少なくないだろう。

予定どおり開催されるなら、オリンピックは7月24日から8月9日まで、パラリンピックは8月25日から9月6日までの予定だ。

だが、突然やってきた「不可抗力」によって、開催が微妙になってきている。中国湖南省武漢で発生した新型コロナウイルスが、ついにパンデミック(=世界的な感染爆発)となってしまったからだ。感染拡大を防止するためには、「濃厚接触」を避けなくてはならない。その意味では大規模イベントの開催は自粛する必要があるからだ。

はたして開催決定のギリギリの期限である5月末までに世界的なパンデミックは終息するのか?・・・

オリンピックは「中止」か? それとも「延期」か? 「延期」だとしたら年内か、それとも来年か、再来年か??(*)


(*注)この文章を書いている時点ではこのような状態だったが、2020年3月24日に安倍首相がIOC委員長との電話会談の結果、1年以内に延期で決定した。だだし、具体的なスケジュールについては現段階では未確定である(2020年3月25日 記す)


そんなときだからこそ、過去を振り返ってみる必要があるだろう。そこで、『幻の東京オリンピック-1940年大会 招致から返上まで』(橋本一夫、講談社学術文庫、2014)という本を読んでみた。 

いまから80年前の1940年に開催されるはずだった「東京オリムピック」はIOC(国際オリンピック委員会)への開催権の「返上」によって「中止」となったのである。現在に至るまで、唯一の「幻のオリンピック」となってしまったのである。

1940年(昭和15年)は皇紀2600年であった。この祝典にあわせてオリンピックを誘致したいという構想が生まれ、国際親善のオリンピック理念との齟齬を残したまま、構想は実現へと向かう。

紆余曲折を経るなか、ムッソリーニの協力によってローマ開催を取り下げてもらい、1936年のベルリン大会を成功させたヒトラーの後押しで、1940年大会の誘致に成功した日本国と東京市。その後、日独伊三国同盟が締結される。

東京オリンピック開催にあわせて、ベルリン大会以上にテレビ中継を実現したいというNHKの強い思いが、テレビの研究開発に拍車をかける。

だが、組織委員会の不統一やボタンの掛け違いなどで、会場施設建設が遅々として進まないなか、1937年の「盧溝橋事件」が発端となった「日中戦争」勃発が最終的にとどめを刺すことになった。

「国家総動員体制」が導入され、陸軍は現役将校を馬術競技に参加させないと表明、建設に必要な資材や物資もまた「重要物資需給計画」によって、とくに建設に不可欠な鉄材の調達が困難となる。

結局、追い込まれた状況で、当時はオリンピックの所管官庁であった厚生省が開催の「返上」を決定し、内外に向けて告知、組織委員会は否応なく開催断念を受け入れざるをえなくなる。

そして、東京のかわりにフィンランドのヘルシンキで開催されることになったが、1939年に第2次世界大戦が勃発したことで、大会そのものが流れてしまう。

今回2020年も新型コロナウイルスというパンデミックの状況のなかにある。前々回1940年は日中戦争から大戦前夜にあった。ともに世界中が「戦争状態」のなか、はたして予定どおりの開催は可能か? おそらく、日本政府もIOCも、それぞれぎりぎりの決断を迫られ、虚々実々のせめぎ合いの最中であろう。

しかも、2020年現在、1984年のロサンゼルス大会以降の巨大ビジネス化によって、米国の放送業界という巨大利害関係者の意向も大きく左右する状況だ。さまざまな利害関係者のあいだで神経戦という状態であろう。

1940年の東京オリンピックは開催返上40年後の1980年のモスクワ大会は西側諸国がボイコットそれから40年後の2020年東京大会はいかに? 

どうやら、オリンピックは40年ごとに大きな節目となるらしい。ある種のジンクスというべきか。

どういう結果になるかはさておき、オリンピックという巨大イベントは、ただ単にスポーツの競技大会をいう枠を越えて、国際政治そのものと密接にからみあった存在だということを、あらためて痛感するのだ。

 「オリンピックには魔物がいる」と、大会で敗れ去りメダルを逃した有力選手がよく口にするが、「オリンピックそのものが魔物」なのだなと、この本を読んでいて思った。





目 次 

第1章 オリンピックを東京に-市長永田秀次郎の夢 
 紀元二千六百年を記念して
 腰の重い体育協会
 ロサンゼルスの青い空
 満州国は参加できるのか
 ムソリーニの好意
 オスロ総会の舞台裏 
第2章 招致実現に向けて-ヒトラーも協力 
 ベルリン大会を前に
 IOC会長の変心
 東京招致に成功
 ナチス・オリンピック
 日本選手団騒動 
第3章 戦火ただようなかで-問題山積の開催準備 
 難航した組織委員会の発足
 テレビ中継をめざして
 メーンスタジアムはどこに
 日中戦争勃発
 対立と苦悩の組織委員会
 四面楚歌のカイロ総会 
第4章 オリンピックの火は消えた-ついに大会を返上 
 雄大な聖火リレー計画
 着工できない競技場
 東京大会ボイコットへ
 国策に敗れたオリンピック
 空白の祝祭 
学術文庫版のあとがき
主要参考・引用文献


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