『MITテクノロジーレビュー〔日本版〕vol.4/summer 2021』(アスキームック、2021年7月)で「世界を変える10大技術」が特集されている。
モニタープログラムに応募したところ採用され、無償でいただいたので読んでみた。メルマガ登録して、ふだんは主要記事の目次に目を通している程度だが(・・ときどき記事本体も読んでいる)、まとまった形でムック版を読むのは初めてだ。
特集「世界を変える10大技術」は、米国版の『MIT Technology Review』で20年前からつづいている特集「10 Breakthrough Technologies」の最新版だ。その年のもっとも重要なテクノロジーを選んだものだ。
2021年版としてあげらている「10大技術」を列挙しておこう。ベンチャー・キャピタリストが強調するような、データ・テクノロジーだけがテクノロジーではない。
1. メッセンジャーRNAワクチン(Messenger RNA Vaccines)2. GPT-33. TikTok の「おすすめ」アルゴリズム(TikTok Recommendation Algorithms)4. リチウム金属電池(Lithium-Matal Batteries)5. データ信託(Data Trust)6. グリーン水素(Green Hydrogen)7. デジタル接触追跡(Digital Contact Tracing)8. 超高度精密側位(Hyper-Accurate Positioning )9. リモートシフト(Remote Everything)10. マルチスキルAI(Multi-Skilled AI)
■コロナワクチンに採用された「mRNA治療技術」は過去20年間の研究蓄積があってこそ花開いたテクノロジーだ
「10大技術」のいちばん最初にくるのが「メッセンジャーRNAワクチン」であるのは、この時節柄ほとんど誰にも異議はないだろう。
新型コロナウイルス感染症対策として、日本でいま接種が推進されている「ファイザー」( ビオンテックの共同開発)と「モデルナ」の2大主要ワクチンは、いずれも mRNA 技術にもとづくワクチンだ。
感染爆発から1年もたたないうちに開発に成功したのは、20年にわたる研究蓄積があったからだ。その背景となるストーリーが興味深い。
「mRNAテクノロジー」を含めた「10のテクノロジー」は、世界に与えた(あるいはこれから与えるであろう)インパクトに注目して選出されたようだが、順位に意味のある「ランキング」として捉えるべきではないだろう。
もちろん、話題性といった要素も加味されているだろう。だが、技術の内容そのものや、経済やビジネスという観点からだけ捉えられたのでもない。あくまでも社会とのかかわりから、その技術の重要性と可能性に着目したものだ。テクノロジーは、それじたいが素晴らしいものではない。
前書きに記された文章に説得力がある(*太字ゴチックは引用者による)
振り返ってみると、2020年はこうした以前から「出番待ち」だったテクノロジー花開いた花開いた1年だったといえる。人びとが道具や方法を変えながらも、何とかして仕事や学び、遊びを維持し、生活を取り戻そうとしたとき、、テクノロジーは実際に役立ったのだ。
テクノロジーは社会をよい方向へ変えるチカラをもっていることは、多くの人びとが実感しているところだろう。
すくなくともコロナウイルス感染症対策のワクチンにかんしては、ワクチン拒否派すら、ワクチンの有効性を認めざるをえない方向に向かうことを余儀なくされつつある。
■2001年版の「10大技術」の20年後の「振り返り」が興味深い
関連記事として「技術楽観主義の再来-テクノロジーは明るい未来を照らすのか?」と題して、20年前の2001年に発表された「ブレークスルー10」の解説が興味深い。
20年後の振り返りから得られた教訓が4つあげられている。
「教訓1 進歩は得てして遅い」「教訓2 危機で状況が一変することもある」「教訓3 思いもしない方向へ行くことがある」「教訓4 どう進歩するかが重要となる」
この4つの教訓は、いずれも大いに納得されるものだ。
2021年版の「世界を変える10大技術」もまた、10年後や20年後に振り返ったら、面白い結論が得られるに違いない。現在話題になっている技術も、期待通りに(予想通りに)進歩するという保証はないからだ。
2011年の「福島原発事故」を体験している以上、日本人だけでなく人類全体が、脳天気なまでの手放しの「技術楽観主義」は、もはや持ち得ないものとなっている。
だが、それでもテクノロジーは社会を変えるチカラをもっていることは力説すべきだろう。地球環境問題など、解決しなければばらない問題は山のように存在するからだ。
テクノロジーが本来的に抱えている「負の側面」をいかに制御しながら、社会をよくするために善用していくか、そのためには専門技術者以外の一般人も、技術を読むリテラシーを高めていくことが必要不可欠だと、あらためて感じている。 本書は、その一助となるだろう。
この特集号を、隅から隅まで読んでみて、そう思った次第だ。
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