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2023年1月9日月曜日

書評『新しい世界の資源地図 ー エネルギー・気候変動・国家の衝突』(ダニエル・ヤーギン、黒輪篤司訳、東洋経済新報社、2022)ー 環境エネルギー問題の大変化。古い常識は捨てよ!

 


注を除いても530ページ超もある大著だが、意外と最後まで読める本だ。ビジネスパーソンのあいだで話題になっていたものだという。扱っているテーマが重要であるだけでなく、読ませる筆力が著者にあるからだろう。日本語訳も読みやすい。 

個人的には20年ほど前、石油を中心とした燃料エネルギー業界関連の仕事をしばらくやっていたこともあって、著者のダニエル・ヤーギンの名前には懐かしさと同時に、まだ現役で活動しているのかという驚きがあった。ヤーギンは、その世界では超有名人である。 

この20年の変化といえば、なんといっても米国発の「シェール革命」であろう。シェールガスとシェールオイルは、世界の資源地図を根本的に塗り替えることになったからだ。 

いまや米国は燃料資源を完全に自給できるだけでなく、輸出国に転じている。このポジション変化が、中東のサウジアラビアやイランに対してのみならず、ロシアに対しても、中国にも対しても意味の変化をもたらしている。 

資源をめぐる地政学も変化しているのである。国家間の関係が大きく変化しているのである。オイルショックが発生した1970年代に形成された「昔の常識」は、捨てたほうがいい。 

狭い意味の燃料エネルギー関連だけでなく、大きな変化は需要側にも生じている。電気自動車(EV)と自動運転、ライドシェアといった大きな動きである。石油から電気への転換が進む。 

さらには、これはいうまでもないが気候変動問題が待ったなしの状態になっていること。もともと環境とエネルギーは密接な関係にあったが、炭素排出ゼロの要請は、石炭と石油消費を減少させる方向に向かう。 

1970年代のオイルショック以来、懸念されつづけてきた資源の枯渇問題は後景に退き、石油需要のピークアウトはいつかという問いが前面に浮上することになった。これまた感慨深い。 「ローマクラブ」の報告はなんだったのか、と。

『資源地図』という日本語タイトルだが(・・英語の原題は The New Map)、この大著には「地図」はたった6枚しか挿入されていない。読ませる文章だから問題はないが、もっと地図が多いほうがいいような気はする。 

原著の出版が2020年なので、新型コロナ感染症(COVID-19)を踏まえたものとなっているが、当然のことながら2022年2月24日始まった「ウクライナ戦争」は反映されていない。新しい資源とされる水素についても、まだまだ扱いは小さい。宇宙での資源開発の話は出てこない。 

とはいえ、この20年間の地殻変動ともいっていい、巨大な変化を巨視的かつ微視的につかむことのできる好著である。 ビジネスパーソンなら読むべきであろう。そうでなくても、読む価値のある本だ。




目 次 
序論 
第1部 米国の新しい地図 
第2部 ロシアの地図 
第3部 中国の地図 
第4部 中東の地図 
第5部 自動車の地図 
第6部 気候の地図 
結論 
エピローグ 実質ゼロ 
付録 南シナ海に潜む4人の亡霊
謝辞/原注/索引


著者プロフィール
ダニエル・ヤーギン(Daniel Yargin)
「米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家」(『ニューヨーク・タイムズ』紙)、「エネルギーとその影響に関する研究の第一人者」(『フォーチュン』誌)と評される。ピューリッツァー賞受賞者。ベストセラー著者。世界的な情報調査会社、IHSマークイットの副会長を務める。1947年生まれ。ロサンゼルス生まれ。イェール大学卒業後、ケンブリッジ大学で博士号取得。1992年、『石油の世紀』でピューリッツァー賞を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに
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訳者プロフィール
黒輪篤嗣(くろわ・あつし)
翻訳家。上智大学文学部哲学科卒業。ノンフィクションの翻訳を幅広く手がける。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


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