あまりにも当たり前のように使っているので、ふだん意識することなどまったくないのが、文末を「っす」で締める表現。
「そうっすよ!」とか「そうっすか?」なんていう表現がそれにあたるが、この「っす」表現が敬語だとは驚きだった。
最近この「っす」が気になって、アニメやマンガでの会話表現に注意を払っているのだが、もっと突っ込んで考えてみたいと思って文献を探してみたら、『新敬語「マジヤバイっす」―社会言語学の視点から』(中村桃子、白澤社、2020)という本があることを知った。
「社会言語学」とは、実際に使用される場面における言語について研究する学問である。著者は、理論的な説明を踏まえたうえで、実際に使用されてる状況を、大学生どうしの会話、ウェブ上のトピックに対するレスポンス、CMの表現などを材料にして具体的に分析している。
さっそく読み出して驚いたのが、繰り返しになるが「っす」表現が敬語(!)であるということだった。
基本的に男子が目上の男性に向かって使用することが多いのだが、タイムラグをおいて女子のあいだでも拡がりつつあるようだ。もともとは、先輩後輩という上下関係が明確な体育会系男子のあいだでつかわれだした表現だという。
「だ」に対して、「です」あるいは「ます」は、敬語の一種である丁寧語だ。だが、この「です」表現は、やや距離感を感じさせるものがある。これに対して「っす」表現は、相手を敬していながらも親しみを感じているときに使用されているようだ、と著者は分析している。
なるほど、そう言われてみれば、意識していたわけではないが、自分もそういうシチュエーションで使ってきたなと納得する。
体育会出身の自分は、学生時代の1980年台から無意識のうちに使っている(ように記憶している)が、最初に使い出したのは、TVの相撲中継で取り組み後のインタビューでの相撲取りの受け答えだったような記憶があるのだが、本書ではまったく言及がない。
著者は、日本語では「親しい丁寧さ」を表現するのが難しいと指摘している。たしかに言われてみればそうだな。
「っす」は、「だ」と「です」の中間あたりに位置するのだろう。そう説明されれば「っす」が敬語であるのも納得するというものだ。
つい最近のことだが、自分より年下であろうスーパーのレジの中年女性に対して、無意識のうちに自分が「っす」で答えていたことに発話の直後に気がついた。つまり、丁寧語として使用していたのだろう。
とはいえ、さすがにビジネスの現場では、「です」というのがデフォルトであることは言うまでもない。間違っても「あざっす」などとは言わないこと。
近年は、女子も「っす」をつかうケースが増えつつあるのは、男性目線を意識せずに使用できるからだという。ジェンダー意識と言語との関係であるが、いわゆる「女ことば」が廃れつつあるのと裏腹の関係にあるようだ。
日本語においては、どういう表現をつかうかは、相手との関係性によってきまってくるので、なかなか迷うことも少なくない。
それにしても、日本語は難しいっすね。日本語を母語にしている日本人にとっても、日本語はほんと難しい。あらためてそう感じている今日この頃であります。
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目 次はじめに第1章 「ス体」という言葉づかい ― 形成過程・言語要素・イデオロギー第2章 男子大学生の「ス」の使い方 ― 親しい丁寧さ第3章 メディアのことば ― ことばの表象と社会変化第4章 「ス」は丁寧語じゃないっす ― ウェブサイト『発言小町』における評価第5章 男性がテレビCMで使う「ス体」― 主導的男性性の揺らぎと維持第6章 女性がテレビCMで使う「ス体」― 新しい女性性の創造?参考文献あとがき
著者プロフィール中村桃子(なかむら ももこ)関東学院大学教授。博士。専攻は言語学。著書にGender, Language and Ideology: A Genealogy of Japanese Women’s Language (John Benjamins)、『翻訳がつくる日本語 ─ ヒロインは「女ことば」を話し続ける』(白澤社)、『女ことばと日本語』(岩波新書)、『「女ことば」はつくられる』(ひつじ書房、第27回山川菊栄賞受賞)、『ことばとフェミニズム』(勁草書房)ほか。共著にThe Handbook of Language, Gender, and Sexuality (Blackwell),『連続講義 暴力とジェンダー』(白澤社)、『ジェンダーで学ぶ言語学』(世界思想社)ほか。訳書に『ことばとセクシュアリティ』(三元社)ほか。(出版社サイトより)
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