今年もまた始まった、日本の調査捕鯨船に対する「シー・シェパード」の暴力的な妨害活動。
「シー・シェパード」は、英語では Sea Shepherd とつづる。「海の番犬シェパード」と訳してもいいし、「海の羊飼い」あるいは「海の牧人」と訳してもよかろう。
番犬にせよ羊飼いにせよ、かれらは海の哺乳類クジラを、陸のヒツジに見立てているわけであり、キリスト教的な響きが濃厚だ。
とりあえず、マスコミ報道だけではなく、財団法人日本鯨類研究所のウェブサイトをみてみよう。1941年以来、鯨類と捕鯨にかんして科学的な調査研究を行ってきた団体である。
とくに「シー・シェパード」による捕鯨調査船に対する暴力的な妨害活動については、「反捕鯨団体シーシェパードによる妨害活動」というプレスリリースを出しているので参照されたい。これらはまた、英文でも公表している。「鯨類捕獲調査に対する不法なハラスメント及びテロリズム」もある。とくに映像資料は必見である。
財団では、「日本の鯨類捕獲調査を妨害する、グリーンピース及びシーシェパードに対する抗議書 署名のお願い」も行っているので、趣旨に賛同する人はぜひご協力お願いしたい。
ただ、この問題は「反日」と考えるべきではなさそうだ。捕鯨国家日本そのものを標的としているのではなく、調査捕鯨も含めた捕鯨そのものに反対していることは確かである。
ではなぜ日本の調査捕鯨なのか、といえば、おそらく以下の理由が想定される。「シー・シェパード」としては、捕鯨国であるアイスランドやノルウェイなどの"小国"相手に騒ぎを起こすより、日本のような"大国"と騒ぎを起こした方が、メディアで取り上げも大きいと考えているだろうし、基本的にこれらのエコ・テロリストは米国を中心とした英語圏での運動であり、オーストラリアやニュージーランドでも賛同者が多いこと。また、この近海で捕鯨調査を行う日本船は、ターゲットとして都合がいいし、また攻撃船の事実上の母港としても有利であるという、ロジスティクスの観点からでもあろう。
また今回の調査捕鯨船と「シー・シェパード」の高速艇が衝突して大破沈没した事件については、日本の報道だけみていたのでは見誤る誤る可能性がある。これは英米側の見解を知れ、と主張したいのではなく、この運動が英語圏を中心とした思想であり、英語情報には非常にバイアスのかかったものが多い(!)ということに注意を喚起したいのである。
その際、英文について注視したいのは、たとえば collision with a Japanese vessel あるいは collision between an anti-whaling boat and a Japanese whaler であれば客観的なスタンスであり、一方 rammed by a Japanese vessel とあれば、シーシェパード側にたったスタンスを示している。
「シー・シェパード」など「過激環境運動」や「過激動物解放運動」については、2009年の5月に、33歳の若き哲学思想研究者によって、『エコ・テロリズム-過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ-』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)という、実にすぐれた内容の本が出版されている。
この本について書評を書いたので、まず一読していただきたい。
<書評>
『エコ・テロリズム-過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ-』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)
■なぜ「環境運動」と「動物解放運動」は過激化していくのか?その「内在論理」に迫る■
今年もまた始まった、日本の調査捕鯨船に対する「シー・シェパード」の暴力的な妨害活動。この背景には、いったい何があるのか知りたくて本書を手に取った。
「シー・シェパード」による直接的暴力行動は、明かに常軌を逸したものであり、かれらの観念の中で肥大化した「敵」を殲滅することを目的とした、テロリズム以外の何者でもないと考えるのは、けっして私だけではあるまい。
「シー・シェパード」がいかなる理由のもとに行動しているのか、私も含めておそらく多くの日本人にとっては理解不能なものだろう。しかし狂信的にみえる彼らの言動も、彼ら自身のアタマのなかでは、自らの行動を正当化する、彼らなりの理由や動機があるはずに違いない。また、なぜセレブも含めた少なからぬ賛同者が存在するのか。
本書は、そういった疑問に答えてくれる本である。
自分たちが信じる大義のためには法律も無視、そして暴力も辞さないという極端な過激思想。宗教的熱情に支えられた狂信的思想は、西洋の哲学、法学、宗教が生み出した思想であり、またアメリカ建国以来のリベラリズムにその起源をもつ思想だけに、きわめて根が深い。
アメリカ建国も、黒人公民権運動も、暴力も辞さない、法を踏み越えた形で実現されたのである。
これらの思想は、「自然との共生」という東洋的なものの考え方の対極にある。
「市民的不服従」というキーワードで「過激環境運動」を鮮やかに分析して見せた本書は、アメリカ社会の底流に存在する思想を知る上でもきわめて有益である。
実に読み応えのある本である。ぜひ熟読をすすめたい。
■bk1書評「なぜ「環境運動」と「動物解放運動」は過激化していくのか?その「内在論理」に迫る」投稿掲載(2010年1月8日)
■amazon書評「なぜ「環境運動」と「動物解放運動」は過激化していくのか?その「内在論理」に迫る」投稿掲載(2010年1月8日)
<書評への付記>
書評という性格上、あまり細々と長く書くわけにはいかないので、非常に端折ったものになっている。以下、書評としてまとめる前に削除した文章を中心に、補足をしておこう。
「エコ・テロリズム」の全体像とその思想的背景については、本書を読むことを薦めたいが、読まなくてもある程度の概要を知っておいたほうがよい。
いわゆる「ラディカル環境運動」や「ラディカル動物解放運動」については、著者は具体的には、日本でも有名な「グリーンピース」に始まり、「シー・シェパード」、「アース・ファースト!」、「動物解放戦線」、「ストップ・ハンティンドン動物虐待」、「動物の倫理的扱いを求める人びと」、「地球解放戦線」を取り上げている。
参考のために、英文名とウェブサイトを紹介しておこう。米国あるいは英国に拠点をもつ運動であり、このうち日本支部をもつのは「グリーンピース」だけである。
「グリーンピース」 カナダ(米国人)Green Peace
http://www.greenpeace.org/international/
http://www.greenpeace.or.jp/
「シー・シェパード」 米国 Sea Shepherd
http://www.seashepherd.org/
「アース・ファースト!」 米国 Earth First !
http://www.earthfirstjournal.org/
「動物解放戦線」英国 Animal Liberation Front: ALF
http://www.animalliberationfront.com/
「ストップ・ハンティンドン動物虐待」英国 Stop Huntingdon Animal Cruelty:SHAC
http://www.shac.net/
「動物の倫理的扱いを求める人びと」 People for the Ethical Tratment of Animals: PETA
http://www.peta.org/
「地球解放戦線」 Earth Liberation Front: ELF
http://www.elfpressoffice.org/
「シー・シェパード」と同一視されるのを避けるためか、本来は反捕鯨を掲げている「グリーン・ピース」も最近はおとなしいが、米国の FBI はこの団体も「エコ・テロリスト」として、「内国テロリズム」のカテゴリーに分類している。参考 "FBI on Eco-Terrorism"
米国では、「白人至上主義」や「中絶反対運動」以上に、「エコ・テロリズム」関連の事件が圧倒的に多く、本書によれば、FBIによる2002年の統計では、1996年からの7年間だけでも、「エコ・テロリズム」関連の事件は600件以上、被害総額は4,300万ドルに及ぶという。
著者は、「エコ・テロリスト」というレッテルを貼ってしまわずに、運動の「内在ロジック」をつかみだそうと試みている。レッテル貼りは思考停止状態を招くだけだからだ。
「ラディカル環境運動」と「ラディカル動物解放運動」はともに英米に起源をもつ思想運動であるが、きわめて特殊アメリカ的な文脈にもとに生まれてきたものであることが明らかにされる。「アメリカ独立」も、「黒人公民権」も、みないずれも法の遵守ではなく、時には暴力をともなった、法の踏み越えによって実現したものである。まさにこれがアメリカ史の核心にある。
著者は、『森の生活ウォールデン』の著者デヴィッド・ソローによる「市民的不服従」論を軸に、これらの運動の底流にある思想について読み解いている。
彼らの行動ロジックを、アメリカ独立革命に火をつけた「ボストン茶会事件」、黒人公民権運動・・・と重ね合わせてみればよく理解できる。
本書で紹介されているなかで一番怖くなってくるのは、反ヒューマニズム(=反人間主義)であり、地球を救うためには、人間は滅亡してもいいという極端な思想、人間に生まれたことを罪と考える思想すら存在するのである。
そしてこれらが「神の信託管理人」思想と結合し、それにしても、人間の利害を中心におかない「ディープ・エコロジー」、環境的カタストロフィーに対する危機感と一体である「黙示録的傾向」と結びつくとき、行き着く先は普通人の抱いている地球環境問題へのアプローチとはほど遠いものと化してしまっている。
ある意味では、同じく極端な思想である「市場原理主義」も、反人間主義という点においては共通している。「市場原理主義」は資本を中心に、「ディープ・エコロジー」は環境や動物を中心に考える点において。いずれも人間という要素を著しく排除しているように私には映る。
どうも、東洋的な「非暴力」とも、「自然との共生」とも対極にあるように思われてならない。
話を「シー・シェパード」に戻そう。
本書を読んで、かれらの「内在ロジック」が理解できたとて、彼らに賛同する気持ちにはまったくなれないし、彼らの行動はテロリズムであると断じてかまわないと考える。
たとえ、彼らの考えることをアタマで整理分析できたとしても、それを容認することはまったく別である。
今回の「シー・シェパード」の追跡線の衝突事故にかんしては、船籍のあるオランダを舞台に、損害賠償をもとめた法廷戦術にでてきたが、普段は違法行為を繰り返しているくせに、自分たちの都合が悪くなると法に訴える、きわめて卑怯といわざるをえない。
しかし、テロリズムには断固とした態度で臨んだとしても、彼らの行動をやめさせることはできない。これはテロリズムに対処するのあたっての最大のアポリア(難問)である。
本書の第4章では、「反エコ・テロリズム」運動が、アメリカ西部を中心に過激化しているという。反連邦政府感情が、連邦政府の職員である森林局の職員などに矛先がむかており、殺人も含めてエスカレートする一方だという。
米国国内の「内国テロリズム」の実態を知ると、暗澹(あんたん)たる気持ちにすらなる。
「シー・シェパード」についても、宗教的熱情に支えられた彼らから、絶対に死者を出させてはなるまい。動物解放のための「殉教者」を作り出すことは、むしろ彼らにとっては本望かもしれないからだ。まったくもってやっかいな存在だ。この意味では、宗教テロリズムとも重なる側面がある。
ナチス党が合法的に政権を取る以前、運動の初期の段階でSA(突撃隊)の若い隊員が殺害されるという事件が発生した。ナチス党はこの殺害されたホルスト・ヴェッセルを殉教者に仕立て上げ、ナチス党の党歌「ホルスト・ヴェッセルの歌」さえ作曲し、組織内部の求心力の道具として大いに利用した。しかしながら、このホルスト・ヴェッセルは単なるゴロツキだったという。
「シー・シェパード」から「殉教者」を出させてはいけないのは、同様の理由による。
われわれにできることといえば、「シー・シェパード」の行動がテロリズムであり、断じて許されるべきものでないことを、広く世界に向かって訴えるのみだろう。もちろん対話の窓口はつねに開いておくべきだろうが、信念に基づいて確信犯的な行動を行っている運動であり、構成員である。「話せばわかる」という相手ではない。
迂遠((うえん)ではあるが、世論形成によって、彼らの不当さを全世界に知らしめるしか、対処方法はない。
まことにもってやっかいな問題である。
こういった「過激環境運動」や「過激動物解放運動」には、著者ならずとも「憂鬱」な気分にならざるをえない。
P.S. 米国でも「エコ・テロリズム」は治安関係者によって調査分析されている
たとえば、インテリジェンス情報誌 Stratfor(July 29, 2010)にこういう記事があって公開されている。
Escalating Violence From the Animal Liberation Front(by Scott Stewart) 羊の毛皮をなめす工場に放火した犯行情報と Animal Liberation Front(動物解放運動)の活動家によるテロにかんする詳細な分析レポートである。
企業のビジネス活動への脅威ともなっている「動物解放運動」、日本人の常識を越えたものであり、理解に苦しむものだといわざるをえない。
米国国内の話であるが、過激さを増す一方の「動物解放運動」について、日本人もその動向を知っておいた方がいいだろう。 (2010年7月29日 付記)
PS2 読みやすくするために改行を増やした。また<ブログ内関連記事>を項目として新設した。(2014年8月2日 記す)
<関連サイト>
シー・シェパードが欧州を第3の拠点に オランダの団体が11億円を寄付、「夢の船」購入で日本の調査捕鯨危うし (WEDGE、2015年3月9日)
日本は、なぜ「シー・シェパード」に弱腰なのか 「海賊」と認定しない理由とは? (安積 明子 :ジャーナリスト、東洋経済オンライン、2015年6月30日)
・・米国政府は「海賊」と認定しているらしい。日本もそうすべきだという主張
(2015年3月12日 項目新設)
(2015年7月1日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
書評 『2045年問題-コンピュータが人間を超える日-』(松田卓也、廣済堂新書、2013)-「特異点」を超えるとコンピュータの行く末を人間が予測できなくなる?
・・英米系アングロサクソン特有の特異な思想
書評 『現代オカルトの根源-霊性進化論の光と闇-』(大田俊寛、ちくま新書、2013)-宗教と科学とのあいだの亀裂を埋めつづけてきた「妄想の系譜」
・・・英米系アングロサクソン特有の特異な思想
書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち
・・保守主義を中心にリベラリズムまで幅広く政治思想を人物中心にみる
なぜいま2013年4月というこの時期に 『オズの魔法使い』 が話題になるのか?
・・「ここはカンザスじゃないみたいよ」(Toto, I have a feeling we're not in Kansas anymore.)、ここでいう we には飼い犬のトトも入っている
書評 『現代世界と人類学-第三のユマニスムを求めて-』(レヴィ=ストロース、川田順造・渡辺公三訳、サイマル出版会、1986)-人類学的思考に現代がかかえる問題を解決するヒントを探る
・・ユマニスム(=ヒューマニズム)の限界について語ることのないレヴィ=ストロース
会田雄次の『アーロン収容所』は、英国人とビルマ人(=ミャンマー人)とインド人を知るために絶対に読んでおきたい現代の古典である!
・・「人間中心主義」という西欧ヒューマニズムの限界について体験的に語る会田雄次
書評という性格上、あまり細々と長く書くわけにはいかないので、非常に端折ったものになっている。以下、書評としてまとめる前に削除した文章を中心に、補足をしておこう。
「エコ・テロリズム」の全体像とその思想的背景については、本書を読むことを薦めたいが、読まなくてもある程度の概要を知っておいたほうがよい。
いわゆる「ラディカル環境運動」や「ラディカル動物解放運動」については、著者は具体的には、日本でも有名な「グリーンピース」に始まり、「シー・シェパード」、「アース・ファースト!」、「動物解放戦線」、「ストップ・ハンティンドン動物虐待」、「動物の倫理的扱いを求める人びと」、「地球解放戦線」を取り上げている。
参考のために、英文名とウェブサイトを紹介しておこう。米国あるいは英国に拠点をもつ運動であり、このうち日本支部をもつのは「グリーンピース」だけである。
「グリーンピース」 カナダ(米国人)Green Peace
http://www.greenpeace.org/international/
http://www.greenpeace.or.jp/
「シー・シェパード」 米国 Sea Shepherd
http://www.seashepherd.org/
「アース・ファースト!」 米国 Earth First !
http://www.earthfirstjournal.org/
「動物解放戦線」英国 Animal Liberation Front: ALF
http://www.animalliberationfront.com/
「ストップ・ハンティンドン動物虐待」英国 Stop Huntingdon Animal Cruelty:SHAC
http://www.shac.net/
「動物の倫理的扱いを求める人びと」 People for the Ethical Tratment of Animals: PETA
http://www.peta.org/
「地球解放戦線」 Earth Liberation Front: ELF
http://www.elfpressoffice.org/
「シー・シェパード」と同一視されるのを避けるためか、本来は反捕鯨を掲げている「グリーン・ピース」も最近はおとなしいが、米国の FBI はこの団体も「エコ・テロリスト」として、「内国テロリズム」のカテゴリーに分類している。参考 "FBI on Eco-Terrorism"
米国では、「白人至上主義」や「中絶反対運動」以上に、「エコ・テロリズム」関連の事件が圧倒的に多く、本書によれば、FBIによる2002年の統計では、1996年からの7年間だけでも、「エコ・テロリズム」関連の事件は600件以上、被害総額は4,300万ドルに及ぶという。
著者は、「エコ・テロリスト」というレッテルを貼ってしまわずに、運動の「内在ロジック」をつかみだそうと試みている。レッテル貼りは思考停止状態を招くだけだからだ。
「ラディカル環境運動」と「ラディカル動物解放運動」はともに英米に起源をもつ思想運動であるが、きわめて特殊アメリカ的な文脈にもとに生まれてきたものであることが明らかにされる。「アメリカ独立」も、「黒人公民権」も、みないずれも法の遵守ではなく、時には暴力をともなった、法の踏み越えによって実現したものである。まさにこれがアメリカ史の核心にある。
著者は、『森の生活ウォールデン』の著者デヴィッド・ソローによる「市民的不服従」論を軸に、これらの運動の底流にある思想について読み解いている。
彼らの行動ロジックを、アメリカ独立革命に火をつけた「ボストン茶会事件」、黒人公民権運動・・・と重ね合わせてみればよく理解できる。
本書で紹介されているなかで一番怖くなってくるのは、反ヒューマニズム(=反人間主義)であり、地球を救うためには、人間は滅亡してもいいという極端な思想、人間に生まれたことを罪と考える思想すら存在するのである。
そしてこれらが「神の信託管理人」思想と結合し、それにしても、人間の利害を中心におかない「ディープ・エコロジー」、環境的カタストロフィーに対する危機感と一体である「黙示録的傾向」と結びつくとき、行き着く先は普通人の抱いている地球環境問題へのアプローチとはほど遠いものと化してしまっている。
ある意味では、同じく極端な思想である「市場原理主義」も、反人間主義という点においては共通している。「市場原理主義」は資本を中心に、「ディープ・エコロジー」は環境や動物を中心に考える点において。いずれも人間という要素を著しく排除しているように私には映る。
どうも、東洋的な「非暴力」とも、「自然との共生」とも対極にあるように思われてならない。
話を「シー・シェパード」に戻そう。
本書を読んで、かれらの「内在ロジック」が理解できたとて、彼らに賛同する気持ちにはまったくなれないし、彼らの行動はテロリズムであると断じてかまわないと考える。
たとえ、彼らの考えることをアタマで整理分析できたとしても、それを容認することはまったく別である。
今回の「シー・シェパード」の追跡線の衝突事故にかんしては、船籍のあるオランダを舞台に、損害賠償をもとめた法廷戦術にでてきたが、普段は違法行為を繰り返しているくせに、自分たちの都合が悪くなると法に訴える、きわめて卑怯といわざるをえない。
しかし、テロリズムには断固とした態度で臨んだとしても、彼らの行動をやめさせることはできない。これはテロリズムに対処するのあたっての最大のアポリア(難問)である。
本書の第4章では、「反エコ・テロリズム」運動が、アメリカ西部を中心に過激化しているという。反連邦政府感情が、連邦政府の職員である森林局の職員などに矛先がむかており、殺人も含めてエスカレートする一方だという。
米国国内の「内国テロリズム」の実態を知ると、暗澹(あんたん)たる気持ちにすらなる。
「シー・シェパード」についても、宗教的熱情に支えられた彼らから、絶対に死者を出させてはなるまい。動物解放のための「殉教者」を作り出すことは、むしろ彼らにとっては本望かもしれないからだ。まったくもってやっかいな存在だ。この意味では、宗教テロリズムとも重なる側面がある。
ナチス党が合法的に政権を取る以前、運動の初期の段階でSA(突撃隊)の若い隊員が殺害されるという事件が発生した。ナチス党はこの殺害されたホルスト・ヴェッセルを殉教者に仕立て上げ、ナチス党の党歌「ホルスト・ヴェッセルの歌」さえ作曲し、組織内部の求心力の道具として大いに利用した。しかしながら、このホルスト・ヴェッセルは単なるゴロツキだったという。
「シー・シェパード」から「殉教者」を出させてはいけないのは、同様の理由による。
われわれにできることといえば、「シー・シェパード」の行動がテロリズムであり、断じて許されるべきものでないことを、広く世界に向かって訴えるのみだろう。もちろん対話の窓口はつねに開いておくべきだろうが、信念に基づいて確信犯的な行動を行っている運動であり、構成員である。「話せばわかる」という相手ではない。
迂遠((うえん)ではあるが、世論形成によって、彼らの不当さを全世界に知らしめるしか、対処方法はない。
まことにもってやっかいな問題である。
こういった「過激環境運動」や「過激動物解放運動」には、著者ならずとも「憂鬱」な気分にならざるをえない。
P.S. 米国でも「エコ・テロリズム」は治安関係者によって調査分析されている
たとえば、インテリジェンス情報誌 Stratfor(July 29, 2010)にこういう記事があって公開されている。
Escalating Violence From the Animal Liberation Front(by Scott Stewart) 羊の毛皮をなめす工場に放火した犯行情報と Animal Liberation Front(動物解放運動)の活動家によるテロにかんする詳細な分析レポートである。
企業のビジネス活動への脅威ともなっている「動物解放運動」、日本人の常識を越えたものであり、理解に苦しむものだといわざるをえない。
米国国内の話であるが、過激さを増す一方の「動物解放運動」について、日本人もその動向を知っておいた方がいいだろう。 (2010年7月29日 付記)
PS2 読みやすくするために改行を増やした。また<ブログ内関連記事>を項目として新設した。(2014年8月2日 記す)
<関連サイト>
シー・シェパードが欧州を第3の拠点に オランダの団体が11億円を寄付、「夢の船」購入で日本の調査捕鯨危うし (WEDGE、2015年3月9日)
日本は、なぜ「シー・シェパード」に弱腰なのか 「海賊」と認定しない理由とは? (安積 明子 :ジャーナリスト、東洋経済オンライン、2015年6月30日)
・・米国政府は「海賊」と認定しているらしい。日本もそうすべきだという主張
(2015年3月12日 項目新設)
(2015年7月1日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
書評 『2045年問題-コンピュータが人間を超える日-』(松田卓也、廣済堂新書、2013)-「特異点」を超えるとコンピュータの行く末を人間が予測できなくなる?
・・英米系アングロサクソン特有の特異な思想
書評 『現代オカルトの根源-霊性進化論の光と闇-』(大田俊寛、ちくま新書、2013)-宗教と科学とのあいだの亀裂を埋めつづけてきた「妄想の系譜」
・・・英米系アングロサクソン特有の特異な思想
書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち
・・保守主義を中心にリベラリズムまで幅広く政治思想を人物中心にみる
なぜいま2013年4月というこの時期に 『オズの魔法使い』 が話題になるのか?
・・「ここはカンザスじゃないみたいよ」(Toto, I have a feeling we're not in Kansas anymore.)、ここでいう we には飼い犬のトトも入っている
書評 『現代世界と人類学-第三のユマニスムを求めて-』(レヴィ=ストロース、川田順造・渡辺公三訳、サイマル出版会、1986)-人類学的思考に現代がかかえる問題を解決するヒントを探る
・・ユマニスム(=ヒューマニズム)の限界について語ることのないレヴィ=ストロース
会田雄次の『アーロン収容所』は、英国人とビルマ人(=ミャンマー人)とインド人を知るために絶対に読んでおきたい現代の古典である!
・・「人間中心主義」という西欧ヒューマニズムの限界について体験的に語る会田雄次
(2014年8月2日 項目新設)
(2022年12月23日発売の拙著です)
(2022年6月24日発売の拙著です)
(2021年11月19日発売の拙著です)
(2021年10月22日発売の拙著です)
(2020年12月18日発売の拙著です)
(2020年5月28日発売の拙著です)
(2019年4月27日発売の拙著です)
(2017年5月18日発売の拙著です)
(2020年5月28日発売の拙著です)
(2019年4月27日発売の拙著です)
(2017年5月18日発売の拙著です)
(2012年7月3日発売の拙著です)
ツイート
ケン・マネジメントのウェブサイトは
ご意見・ご感想・ご質問は ken@kensatoken.com にどうぞ。
禁無断転載!
ツイート
ケン・マネジメントのウェブサイトは
ご意見・ご感想・ご質問は ken@kensatoken.com にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。
禁無断転載!
end