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2014年6月24日火曜日

書評『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)ー アメリカの知られざる「政治思想家」たち



1980年代のレーガン大統領以降の「保守革命」が定着し、リベラリズムが退潮傾向になって久しいアメリカだが、アメリカにも「反近代」の立場に立脚する、ヨーロッパ型の「保守主義」が存在することがまず冒頭であきらかにされる。

本書は、その担い手であったラッセル・カークという在野の思想家に共鳴を示しつつ「保守主義」にフォーカスを合わせ、アメリカの政治思想を、保守からリベラルまで、人物とその思想のスケッチによって浮かび上がらせたものだ。だから正確なタイトルは、「アメリカの思想家」というよりも「アメリカの政治思想家」とすべきなのである。

月刊情報誌『フォーサイト』に連載されていたとき(2003年)にリアルタイムで読んでいたが、あらためて一冊になったものを、さらに出版から一定の時間をおいて読むことで、冷静にアメリカの政治思想を把握することが可能になった。冷却期間という時間は人をして冷静にさせる。

なによりもジョージ・ブッシュ政権時代前期のネオコン(=ネオ・コンサヴァティズム)の狂躁の日々が去ってから久しい現在、かれらがいったい何であったのかを冷静に捉えることができるのは意味があることだ。

すでに当時から、その本質は保守主義ではなく「リベラル左派」が「リベラル右派」に変身した、理想実現志向の社会変革思想であることは明らかになっていたが、本書ではその思想の根源がニューヨークのユダヤ人移民社会から生まれたものであることなど、思想が生まれる背景としての地域性も明らかにされている。経営用語でいえば「クラスター」というべきであろう。

このほか本書で取り上げられた「政治思想」には、キリスト教ファンダメンタリズム(=原理主義)や極限の自由を追求するリバタリアン、おなじく自由を希求しながらも大きな政府志向であるリベラリズムも、「思想地図」ともいうべき色分けが可能なほど、地域性が明確であることも明らかにされている。

それぞれ、キリスト教ファンダメンタリズム(=原理主義)は南部のいわゆる「バイブル・ベルト」リバタリアニズムはカリフォルニアリベラリズムは東部から西部にかけての北部地域に分布している。

特定の「思想」と「地域」を結びつけて考えることで、アメリカをより立体的に捉えることが可能となる。


(会田弘継氏作成の「地域別に見たアメリカの思想傾向」 P.222より)


著者自身、「アメリカに思想なんてあるのか?」という問いをなんどもされていると本書のなかで触れているが、たしかにアメリカにも「思想」は存在するのである。政治思想に限らず、経済思想や宗教思想などにも範囲を拡張すれば、明らかに思想は存在することがわかる。その担い手たちの知名度が世界レベルの高さがないとしても。

だが、本書では政治思想に関連する部分だけにしか言及されないのが残念なところだ。宗教思想でいえば原理主義もさることながら、「自己啓発」の思想である「ニューソート」(New Thought)への言及もまた必要だろう。

「思想」(thought)とは過去形で表現される「思考されたもの」であり、現在形で表現される「思考」(thinking)そのものとはイコールではないが、経営者の思想、エンジニアの思想、活動家の思想など、取り上げるべきものは多い。TED などでアイデアを披露している、「思想家と名乗っていない思想家」の思索や実践活動もまた、きわめてアメリカ的なものも少なくないことは指摘しておくべきだろう。

『フォーサイト』の連載にはなく単行本化にあたって加えられたのが、「エピローグ 戦後アメリカ思想史を貫いた漱石の「こころ」」である。人と人との「つながり」のなかで思想は生まれ、後代に継承されていくという経緯を物語としてつづったものだ。

著者が敬愛してやまないヨーロッパ型保守思想の大物ラッセル・カークというアメリカ人、経済学者でリバタリアン思想のフリードリッヒ・フォン・ハイエクというオーストリア人、『こころ』の英訳者エドウィン・マクレランといいうスコットランド出身の英国人、そして文芸評論家であった江藤淳という日本人。

漱石の『こゝろ』の英訳本がつないだ意外な「つながり」と「きずな」。これは思想のドラマの背後にあるものを鮮やかにみせてくれるものであった。著者によって初めて掘り起こされたこの「物語」は、静かな感動をもたらしてくれる。

ことし2014年は、漱石の『こゝろ』が出版されてからちょうど100年。明治大帝の崩御から2年後の2014年は第一次世界大戦が勃発した年でもあった。

アメリカの政治思想を語るには、ヨーロッパや日本もまた欠かすことのできない重要な要素なのである。古代ギリシアに始まるヨーロッパの政治思想を研究した、ネオコン思想家の日系人フランシス・フクヤマと徳富蘇峰との関係についての「追記」を読むと、さらにその感を強くする。



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目 次

プロローグ メコスタ村へ
第1章 戦後保守思想の源流-ラッセル・カーク(1918~94)
第2章 ネオコンの始祖-ノーマン・ポドレッツ(1930~)
第3章 キリスト教原理主義-J・グレシャム・メイチェン(1881~1937)
第4章 南部農本主義-リチャード・ウィーバー(1910~63)
第5章 ネオコンが利用した思想-レオ・シュトラウス(1899~1973)
第6章 ジャーナリズムの思想と機能-H.L.メンケン(1880~1956)
第7章 リベラリズム-ジョン・ロールズ(1921~2002)
第8章 リバタリアン-ロバート・ノジック(1938~2002)
第9章 共同体主義-ロバート・ニスベット(1913~96)
第10章 保守論壇の創設者-ウィリアム・バックリー(1925~2008)
第11章 「近代」への飽くなき執念-フランシス・フクヤマ(1952~)
追記 フランシス・フクヤマと徳富蘇峰
エピローグ 戦後アメリカ思想史を貫いた漱石の「こころ」
あとがき
参考・引用文献一覧
関連図表

著者プロフィール 
会田弘継(あいだ・ひろつぐ) 
1951年埼玉県生まれ。東京外国語大学英米語学科卒業後、共同通信社に入社。ワシン著書に『戦争を始めるのは誰か』、訳書に『アメリカの終わり』(フランシス・フクヤマ著)などがある。 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


PS 本書の増補改訂版が、『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』として、中公文庫から出版れた。増補されたのは、「第13章 「トランプ現象」とラディカル・ポリティクス」である。(2016年8月14日 記す)


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<関連サイト>

蘇った米国のネオコン 混沌とした世界がブッシュ時代の保守派に息吹(JBPress、 2014年6月24日)
・・Financial Timesの翻訳記事。「ネオコン(新保守主義者)たちは何度も息を吹き返す。電流は一定の間隔でやって来る。シリアによる化学兵器の使用、ロシアによるクリミア併合、中国が海上で強めている攻撃的な姿勢、そしてイラクにおけるスンニ派の過激派の再来といったものだ」  「新」保守派が「リベラル右派」であることを念頭に読むべき


<ブログ内関連記事>

アメリカの思想家

自分のアタマで考え抜いて、自分のコトバで語るということ-『エリック・ホッファー自伝-構想された真実-』(中本義彦訳、作品社、2002)
・・わたしにとっては、 『追跡・アメリカの思想家たち』(に取り上げられたどの政治思想家よりも、ホッファーのほうがアメリカの哲学者・政治思想家としてはるかに重要だ

映画 『ハンナ・アーレント』(ドイツ他、2012年)を見て考えたこと-ひさびさに岩波ホールで映画を見た
・・アーレントもまたニューヨークの亡命ユダヤ系知識人の一人で政治思想家


アメリカのビジネス文明とキリスト教・ユダヤ教

書評 『アメリカ精神の源-「神のもとにあるこの国」-』(ハロラン芙美子、中公新書、1998)-アメリカ人の精神の内部を探求したフィールドワークの記録
・・アメリカの一般人の深層にあるものを押さえておかないと、表層の思想を追っても意味はない

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む
・・ユダヤ教、キリスト教と資本主義ビジネスの関係について、ユダヤ教とキリスト教を区分して考えるべきことを私が解説。「ユダヤ・キリスト教」という表現は、誤解を生みやすい。


オカルトと宗教テロリズム

書評 『現代オカルトの根源-霊性進化論の光と闇-』(大田俊寛、ちくま新書、2013)-宗教と科学とのあいだの亀裂を埋めつづけてきた「妄想の系譜」
・・アメリカを中心とした英語圏に特有のオカルト思想について

スティーブ・ジョブズの「読書リスト」-ジョブズの「引き出し」の中身をのぞいてみよう!
・・いわゆる「ニューエイジ」宗教の影響の濃厚なジョブズとカリフォルニア

『エコ・テロリズム-過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ-』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)を手がかりに「シー・シェパード」について考えてみる
限りなく宗教的といってもいい英語圏に特有の環境運動の根底にある思想



「ビジネス文明」国アメリカの「思想」

書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい

The Greatest Salesman In the World (『地上最強の商人』) -英語の原書をさがしてよむとアタマを使った節約になる!


「変革思想」としての右・左

書評 『近代日本の右翼思想』(片山杜秀、講談社選書メチエ、2007)-「変革思想」としての「右翼思想」の変容とその終焉のストーリー
・・右も左も変革思想であることは本質的に共通

「ユートピア」は挫折する運命にある-「未来」に魅力なく、「過去」も美化できない時代を生きるということ
・・右であれ左であれ、政治上の「社会変革思想」は確率的にその大多数が挫折する運命にある。ビジネスによる「社会変革」も成功したのはほんとうに一握りにすぎない


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2010年1月9日土曜日

『エコ・テロリズム ― 過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)を手がかりに「シー・シェパード」について考えてみる


              
 今年もまた始まった、日本の調査捕鯨船に対する「シー・シェパード」の暴力的な妨害活動。

 「シー・シェパード」は、英語では Sea Shepherd とつづる。「海の番犬シェパード」と訳してもいいし、「海の羊飼い」あるいは「海の牧人」と訳してもよかろう。

 番犬にせよ羊飼いにせよ、かれらは海の哺乳類クジラを、陸のヒツジに見立てているわけであり、キリスト教的な響きが濃厚だ。


 とりあえず、マスコミ報道だけではなく、財団法人日本鯨類研究所のウェブサイトをみてみよう。1941年以来、鯨類と捕鯨にかんして科学的な調査研究を行ってきた団体である。

 とくに「シー・シェパード」による捕鯨調査船に対する暴力的な妨害活動については、「反捕鯨団体シーシェパードによる妨害活動」というプレスリリースを出しているので参照されたい。これらはまた、英文でも公表している。「鯨類捕獲調査に対する不法なハラスメント及びテロリズム」もある。とくに映像資料は必見である。

 財団では、「日本の鯨類捕獲調査を妨害する、グリーンピース及びシーシェパードに対する抗議書 署名のお願い」も行っているので、趣旨に賛同する人はぜひご協力お願いしたい。


 ただ、この問題は「反日」と考えるべきではなさそうだ。捕鯨国家日本そのものを標的としているのではなく、調査捕鯨も含めた捕鯨そのものに反対していることは確かである。

 ではなぜ日本の調査捕鯨なのか、といえば、おそらく以下の理由が想定される。「シー・シェパード」としては、捕鯨国であるアイスランドやノルウェイなどの"小国"相手に騒ぎを起こすより、日本のような"大国"と騒ぎを起こした方が、メディアで取り上げも大きいと考えているだろうし、基本的にこれらのエコ・テロリストは米国を中心とした英語圏での運動であり、オーストラリアやニュージーランドでも賛同者が多いこと。また、この近海で捕鯨調査を行う日本船は、ターゲットとして都合がいいし、また攻撃船の事実上の母港としても有利であるという、ロジスティクスの観点からでもあろう。


 また今回の調査捕鯨船と「シー・シェパード」の高速艇が衝突して大破沈没した事件については、日本の報道だけみていたのでは見誤る誤る可能性がある。これは英米側の見解を知れ、と主張したいのではなく、この運動が英語圏を中心とした思想であり、英語情報には非常にバイアスのかかったものが多い(!)ということに注意を喚起したいのである。

 その際、英文について注視したいのは、たとえば collision with a Japanese vessel あるいは collision between an anti-whaling boat and a Japanese whaler であれば客観的なスタンスであり、一方 rammed by a Japanese vessel とあれば、シーシェパード側にたったスタンスを示している。

 「シー・シェパード」など「過激環境運動」や「過激動物解放運動」については、2009年の5月に、33歳の若き哲学思想研究者によって『エコ・テロリズム-過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ-』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)という、実にすぐれた内容の本が出版されている。

 この本について書評を書いたので、まず一読していただきたい。


<書評>
エコ・テロリズム-過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ-』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)

なぜ「環境運動」と「動物解放運動」は過激化していくのか?その「内在論理」に迫る

今年もまた始まった、日本の調査捕鯨船に対する「シー・シェパード」の暴力的な妨害活動。この背景には、いったい何があるのか知りたくて本書を手に取った。

 「シー・シェパード」による直接的暴力行動は、明かに常軌を逸したものであり、かれらの観念の中で肥大化した「敵」を殲滅することを目的とした、テロリズム以外の何者でもないと考えるのは、けっして私だけではあるまい。

 「シー・シェパード」がいかなる理由のもとに行動しているのか、私も含めておそらく多くの日本人にとっては理解不能なものだろう。しかし狂信的にみえる彼らの言動も、彼ら自身のアタマのなかでは、自らの行動を正当化する、彼らなりの理由や動機があるはずに違いない。また、なぜセレブも含めた少なからぬ賛同者が存在するのか。

 本書は、そういった疑問に答えてくれる本である。

 自分たちが信じる大義のためには法律も無視、そして暴力も辞さないという極端な過激思想。宗教的熱情に支えられた狂信的思想は、西洋の哲学、法学、宗教が生み出した思想であり、またアメリカ建国以来のリベラリズムにその起源をもつ思想だけに、きわめて根が深い。

 アメリカ建国も、黒人公民権運動も、暴力も辞さない、法を踏み越えた形で実現されたのである。

 これらの思想は、「自然との共生」という東洋的なものの考え方の対極にある。

 「市民的不服従」というキーワードで「過激環境運動」を鮮やかに分析して見せた本書は、アメリカ社会の底流に存在する思想を知る上でもきわめて有益である。

 実に読み応えのある本である。ぜひ熟読をすすめたい。


■bk1書評「なぜ「環境運動」と「動物解放運動」は過激化していくのか?その「内在論理」に迫る」投稿掲載(2010年1月8日)
■amazon書評「なぜ「環境運動」と「動物解放運動」は過激化していくのか?その「内在論理」に迫る」投稿掲載(2010年1月8日)





<書評への付記>

 書評という性格上、あまり細々と長く書くわけにはいかないので、非常に端折ったものになっている。以下、書評としてまとめる前に削除した文章を中心に、補足をしておこう。

 「エコ・テロリズム」の全体像とその思想的背景については、本書を読むことを薦めたいが、読まなくてもある程度の概要を知っておいたほうがよい。

 いわゆる「ラディカル環境運動」や「ラディカル動物解放運動」については、著者は具体的には、日本でも有名な「グリーンピース」に始まり、「シー・シェパード」、「アース・ファースト!」、「動物解放戦線」、「ストップ・ハンティンドン動物虐待」、「動物の倫理的扱いを求める人びと」、「地球解放戦線」を取り上げている。

 参考のために、英文名とウェブサイトを紹介しておこう。米国あるいは英国に拠点をもつ運動であり、このうち日本支部をもつのは「グリーンピース」だけである。


グリーンピース」 カナダ(米国人)Green Peace
 http://www.greenpeace.org/international/
  http://www.greenpeace.or.jp/
シー・シェパード」 米国 Sea Shepherd
 http://www.seashepherd.org/
アース・ファースト!」 米国 Earth First !
 http://www.earthfirstjournal.org/
動物解放戦線」英国 Animal Liberation Front: ALF
  http://www.animalliberationfront.com/
ストップ・ハンティンドン動物虐待」英国 Stop Huntingdon Animal Cruelty:SHAC 
  http://www.shac.net/
動物の倫理的扱いを求める人びと」 People for the Ethical Tratment of Animals: PETA
  http://www.peta.org/
地球解放戦線Earth Liberation Front: ELF
 http://www.elfpressoffice.org/

 「シー・シェパード」と同一視されるのを避けるためか、本来は反捕鯨を掲げている「グリーン・ピース」も最近はおとなしいが、米国の FBI はこの団体も「エコ・テロリスト」として、「内国テロリズム」のカテゴリーに分類している。参考 "FBI on Eco-Terrorism"
 
 米国では、「白人至上主義」や「中絶反対運動」以上に、「エコ・テロリズム」関連の事件が圧倒的に多く、本書によれば、FBIによる2002年の統計では、1996年からの7年間だけでも、「エコ・テロリズム」関連の事件は600件以上、被害総額は4,300万ドルに及ぶという。


 著者は、「エコ・テロリスト」というレッテルを貼ってしまわずに、運動の「内在ロジック」をつかみだそうと試みている。レッテル貼りは思考停止状態を招くだけだからだ。

 「ラディカル環境運動」と「ラディカル動物解放運動」はともに英米に起源をもつ思想運動であるが、きわめて特殊アメリカ的な文脈にもとに生まれてきたものであることが明らかにされる。「アメリカ独立」も、「黒人公民権」も、みないずれも法の遵守ではなく、時には暴力をともなった、法の踏み越えによって実現したものである。まさにこれがアメリカ史の核心にある。

 著者は、『森の生活ウォールデン』の著者デヴィッド・ソローによる「市民的不服従」論を軸に、これらの運動の底流にある思想について読み解いている。

 彼らの行動ロジックを、アメリカ独立革命に火をつけた「ボストン茶会事件」、黒人公民権運動・・・と重ね合わせてみればよく理解できる。


 本書で紹介されているなかで一番怖くなってくるのは、反ヒューマニズム(=反人間主義)であり、地球を救うためには、人間は滅亡してもいいという極端な思想、人間に生まれたことを罪と考える思想すら存在するのである。

 そしてこれらが「神の信託管理人」思想と結合し、それにしても、人間の利害を中心におかない「ディープ・エコロジー」、環境的カタストロフィーに対する危機感と一体である「黙示録的傾向」と結びつくとき、行き着く先は普通人の抱いている地球環境問題へのアプローチとはほど遠いものと化してしまっている。

 ある意味では、同じく極端な思想である「市場原理主義」も、反人間主義という点においては共通している。「市場原理主義」は資本を中心に、「ディープ・エコロジー」は環境や動物を中心に考える点において。いずれも人間という要素を著しく排除しているように私には映る。

 どうも、東洋的な「非暴力」とも、「自然との共生」とも対極にあるように思われてならない。


 話を「シー・シェパード」に戻そう。

 本書を読んで、かれらの「内在ロジック」が理解できたとて、彼らに賛同する気持ちにはまったくなれないし、彼らの行動はテロリズムであると断じてかまわないと考える。

 たとえ、彼らの考えることをアタマで整理分析できたとしても、それを容認することはまったく別である。

 今回の「シー・シェパード」の追跡線の衝突事故にかんしては、船籍のあるオランダを舞台に、損害賠償をもとめた法廷戦術にでてきたが、普段は違法行為を繰り返しているくせに、自分たちの都合が悪くなると法に訴える、きわめて卑怯といわざるをえない。


 しかし、テロリズムには断固とした態度で臨んだとしても、彼らの行動をやめさせることはできない。これはテロリズムに対処するのあたっての最大のアポリア(難問)である。

 本書の第4章では、「反エコ・テロリズム」運動が、アメリカ西部を中心に過激化しているという。反連邦政府感情が、連邦政府の職員である森林局の職員などに矛先がむかており、殺人も含めてエスカレートする一方だという。

 米国国内の「内国テロリズム」の実態を知ると、暗澹(あんたん)たる気持ちにすらなる。


 「シー・シェパード」についても、宗教的熱情に支えられた彼らから、絶対に死者を出させてはなるまい。動物解放のための「殉教者」を作り出すことは、むしろ彼らにとっては本望かもしれないからだ。まったくもってやっかいな存在だ。この意味では、宗教テロリズムとも重なる側面がある。

 ナチス党が合法的に政権を取る以前、運動の初期の段階でSA(突撃隊)の若い隊員が殺害されるという事件が発生した。ナチス党はこの殺害されたホルスト・ヴェッセルを殉教者に仕立て上げ、ナチス党の党歌「ホルスト・ヴェッセルの歌」さえ作曲し、組織内部の求心力の道具として大いに利用した。しかしながら、このホルスト・ヴェッセルは単なるゴロツキだったという。

 「シー・シェパード」から「殉教者」を出させてはいけないのは、同様の理由による。

 われわれにできることといえば、「シー・シェパード」の行動がテロリズムであり、断じて許されるべきものでないことを、広く世界に向かって訴えるのみだろう。もちろん対話の窓口はつねに開いておくべきだろうが、信念に基づいて確信犯的な行動を行っている運動であり、構成員である。「話せばわかる」という相手ではない。

 迂遠((うえん)ではあるが、世論形成によって、彼らの不当さを全世界に知らしめるしか、対処方法はない。

 まことにもってやっかいな問題である。

 こういった「過激環境運動」や「過激動物解放運動」には、著者ならずとも「憂鬱」な気分にならざるをえない。

                   



P.S.  米国でも「エコ・テロリズム」は治安関係者によって調査分析されている

 たとえば、インテリジェンス情報誌 Stratfor(July 29, 2010)にこういう記事があって公開されている。
 Escalating Violence From the Animal Liberation Front(by Scott Stewart) 羊の毛皮をなめす工場に放火した犯行情報と Animal Liberation Front(動物解放運動)の活動家によるテロにかんする詳細な分析レポートである。

 企業のビジネス活動への脅威ともなっている「動物解放運動」、日本人の常識を越えたものであり、理解に苦しむものだといわざるをえない。

 米国国内の話であるが、過激さを増す一方の「動物解放運動」について、日本人もその動向を知っておいた方がいいだろう。 (2010年7月29日 付記)


PS2 読みやすくするために改行を増やした。また<ブログ内関連記事>を項目として新設した。(2014年8月2日 記す)



<関連サイト>

シー・シェパードが欧州を第3の拠点に オランダの団体が11億円を寄付、「夢の船」購入で日本の調査捕鯨危うし (WEDGE、2015年3月9日)

日本は、なぜ「シー・シェパード」に弱腰なのか 「海賊」と認定しない理由とは? (安積 明子 :ジャーナリスト、東洋経済オンライン、2015年6月30日)
・・米国政府は「海賊」と認定しているらしい。日本もそうすべきだという主張

(2015年3月12日 項目新設)
(2015年7月1日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『2045年問題-コンピュータが人間を超える日-』(松田卓也、廣済堂新書、2013)-「特異点」を超えるとコンピュータの行く末を人間が予測できなくなる?
・・英米系アングロサクソン特有の特異な思想

書評 『現代オカルトの根源-霊性進化論の光と闇-』(大田俊寛、ちくま新書、2013)-宗教と科学とのあいだの亀裂を埋めつづけてきた「妄想の系譜」
・・・英米系アングロサクソン特有の特異な思想

書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち
・・保守主義を中心にリベラリズムまで幅広く政治思想を人物中心にみる

なぜいま2013年4月というこの時期に 『オズの魔法使い』 が話題になるのか?
・・「ここはカンザスじゃないみたいよ」(Toto, I have a feeling we're not in Kansas anymore.)、ここでいう we には飼い犬のトトも入っている

書評 『現代世界と人類学-第三のユマニスムを求めて-』(レヴィ=ストロース、川田順造・渡辺公三訳、サイマル出版会、1986)-人類学的思考に現代がかかえる問題を解決するヒントを探る
・・ユマニスム(=ヒューマニズム)の限界について語ることのないレヴィ=ストロース

会田雄次の『アーロン収容所』は、英国人とビルマ人(=ミャンマー人)とインド人を知るために絶対に読んでおきたい現代の古典である!
・・「人間中心主義」という西欧ヒューマニズムの限界について体験的に語る会田雄次

(2014年8月2日 項目新設)


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