■日本語の「言語技術」の訓練こそ「急がば回れ」の外国語学習法! 「論理的思考能力」の基礎づくりにもなる実践的トレーニング法■
本書は、「急がば回れ」の外国語取得法である。というよりも、論理的な日本語を使いこなすためのトレーニング法として、きわめて有用な実用書になっているといっていい。
多くの日本人が、単語や文法を覚えても、英語をはじめとする外国語を使いこなせないのはなぜか?
それは、第一言語である母語であるのにかかわらず、日本語の基礎が自分が思っている以上にあやふやだからである。
第二言語である外国語が、母語である日本語の能力以上になることはありえないのだ。逆にいえば、日本語をきちんと鍛えられれば、外国語を使うための基礎ができあがったことになるのである。だから「急がば回れ」なのだ。
著者によれば、欧米の「言語教育」は、「言語技術」と「読書技術」の二本柱から成り立っているという。前者の言語技術とは、自分の得た情報を伝達するための技術のこと。後者の読書技術とは、情報を受信して分析して解釈し、批判的考察を加えて自分独自の考えを構築するための技術のことで「クリティカル・リーディング」ともいう。
本書で中心に扱われるのは「言語技術」(language arts)、あるいは「コミュニケーション・スキル」とよばれる技術だ。欧米では言語習得は、後天的に、訓練によって獲得される「技術」(スキル)であると考えられている。たとえ欧米人であっても、適切な言語技術の訓練がされていなければ、筋道立った会話をすることができないのだ。だから、欧米では言語教育は、あくまでも技術教科として実施されているという。
著者は第一章「外国語と日本語の違いを意識する」で、1.説明の技術、2.描写の技術、 3.明確にいう技術、 4.質問の技術、5.返答の技術、6.分析の技術、のそれそれについて、具体的な事例をとりあげて、日本人の言語技術能力(のなさ)について検証しているが、これらを読んでいると、驚きを通り越してあきれかえるばかりか、少し寒くなってくるはずだ。ぜひ目をとおしてほしい。
日本人は、いわなくても察してもらえるはずだという主観的な思い込み、別のいい方をすればいわゆる「甘え」を無意識の前提としていることが多い。お互い真意がわからなくても、なんとなく会話が成り立っていることも少なくない。しかし、英語を含めた欧米語の世界では、それは「コミュニケーション」とはみなさないのである。ふだんの日本語の発想で表現しても相手には伝わらないのである。
そのために必要なのが、主語を明確にすること、主観的な意見と客観的な事実を区別すること、質問を具体的にして的確な答えを引き出すこと、結論を先にいってから根拠を示すこと、である。これは著者のいうように「翻訳できる日本語」といっていいだろう。これに、ナンバリング(numbering)やラベリング(labeling)といった説明の技術を使うことによって、説明能力は飛躍的に向上することになる。
著者が実践をつうじて練り上げてきた言語技術のトレーニング法が、本書では「対話の技術」と「説明の技術」について具体的に紹介されている。こうしたトレーニングを生活習慣化していけば、外国語の習得が最終目的ではないにしても、少なくとも日本語で論理的なコミュニケーションができるようになるはずだ。
「言語技術」強化のためのこのトレーニング法は、すでに日本サッカー界では正式に採用されて効果を上げている。子どもだけでなく、すでに大人になった人もこの言語技術を身につければ「ロジカル・シンキング」で苦労することもなくなるだろう。私自身、従業員向けの研修で徹底的に行ってきた内容そのものである。
熟読した上で、大いに活用してほしい。
<初出情報>
■bk1書評「日本語の「言語技術」の訓練こそ「急がば回れ」の外国語学習法! 「論理的思考能力」の基礎づくりにもなる実践的トレーニング法」投稿掲載(2002年2月27日)
<書評への付記>
■「言語技術」は基礎の基礎、これは反復トレーニングを繰り返すことでしか習得できない性格のものだ
「外国語を身につけるための」にはあまりこだわることはない。この本で説かれているのは、日本語を論理的に使いこなすための「言語技術」(コミュニケーション・スキル)の訓練法についてである。
日本語の「言語技術」が向上すれば、おのずから外国語学習も容易になる。しかしそれだけでは不十分なことはいうまでもない。外国語の単語と文法を身につけなければならいのは当然だ。
私がかつて、ある中小企業にナンバー・ツーの取締役として迎えられたとき、驚いたのは営業担当の従業員たちの現状であった。彼らは営業トークはできるのだが、会議の場できちんと筋道たてて自分の考えることを表現できない、対話になっていない、説明ができていないという状況だったのだ。
これは多かれ少なかれ、日本企業ではどこでも出会う現象であって、けっして中小企業だけに限ったものではない。大企業でも同じような問題があるのだ。一言でいってしまえば、内輪のコトバでしかしゃべれないという問題である。
これはいかんな、「自分の頭で考えて、自分で行動できる人間」に変身させないと、本当の意味で優良企業に変身させるなんて夢のまた夢だ。組織内に「暗黙知」は蓄積されていて、それがバランスシートには現れてこない「無形資産」として優位性を作り出しているのだが、いかんせん「形式知」に変換されていないので、まったくの新人にワザを伝承できないし、異なるエリアどうしでの情報交換も実のあるものになっていないいのではないか。何よりも、顧客にきちんと商品特性を説明できているのだろうか、と。
そんなときに出会ったのが、出版されたばかりのこの本である。私の問題意識にジャストミートした内容であった。そのときは、中身をしっかり読んだわけではなかったのだが、著者のコンセプトには全面的に賛同を感じたので、直接テキストにしたわけではないが、エッセンスは「従業員研修」という場を作ることによって、さまざまな試みを開始したのである。
私が研修の場をつうじて、また普段からクチうるさく指導してきたのは、まさに本書の内容そのものであるといってよい。これは今回、隅から隅まで読んでみて確認したことである。
おかげで、いまではそんじょそこらの大企業の中堅社員にも負けない、自身に満ちた優秀なビジネスパーソンになっている。とくに中小企業は人材こそ命であり、現在では胸をはっていいくらいに成長したのである。何事もやればできる!
さらにいっておくと、本書に説明されている日本語の「言語技術」を完全にマスターしていない限り、いま流行の「ロジカル・シンキング」研修を受けても、あまり効果はない、といってもいい過ぎではない。「言語技術」の基礎の上にたって、はじめて「ロジカル・シンキング」も生きてくるのである。
そして、蔭山英夫の「百マス計算」や漢字の書き取りではないが、基礎の基礎というものは、ひたすら反復トレーニングを繰り返す以外に、習得は不可能である。これはスポーツとまったく同じである。
その意味で、本書はうまく使えば、「論理的思考能力」の基礎づくりにもなる実践的トレーニング法として大いに活用できるのである。ぜひ徹底的に活用して欲しいものだ、と感じている。
ちなみに、書評『「言語技術」が日本のサッカーを変える』(田嶋幸三、光文社新書、2007)で日本サッカー界の現状の取り組みについて取り上げたが、田島幸三氏によって「言語技術」強化の講師として招聘されたのが、本書の著者である三森ゆりか氏であることを付け加えておこう。
<参考サイト>
◆つくば言語技術教育研究所(三森ゆりか氏が主催する「言語技術」教室)
JALの現役パイロットが特別指導! 会議が劇的に早く終わるコミュニケーション術 (ダイヤモンド・オンライン編集部、 2015年7月7日)
・・「言語技術」の企業への応用
(2015年7月7日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
書評 『「言語技術」が日本のサッカーを変える』(田嶋幸三、光文社新書、2007)
「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」 (片岡義男)
・・アメリカのエリート教育
書評 『言葉でたたかう技術-日本的美質と雄弁力-』(加藤恭子、文藝春秋社、2010)
・・アメリカのエリート教育
書評 『言葉にして伝える技術-ソムリエの表現力-』(田崎真也、祥伝社新書、2010)-ソムリエの説く「記憶術」と「言語技術」の本は、万人に役に立つ、思想をもった実用書だ
いかにして異なる業種業界や職種間、また組織内の異なる機能間で「共通言語」と「コンテクスト共有」によるコミュニケーションを可能とするか
書評 『小泉進次郎の話す力』(佐藤綾子、幻冬舎、2010)
・・スピーチ
書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ!
(2015年7月7日 情報追加)
著者によれば、欧米の「言語教育」は、「言語技術」と「読書技術」の二本柱から成り立っているという。前者の言語技術とは、自分の得た情報を伝達するための技術のこと。後者の読書技術とは、情報を受信して分析して解釈し、批判的考察を加えて自分独自の考えを構築するための技術のことで「クリティカル・リーディング」ともいう。
本書で中心に扱われるのは「言語技術」(language arts)、あるいは「コミュニケーション・スキル」とよばれる技術だ。欧米では言語習得は、後天的に、訓練によって獲得される「技術」(スキル)であると考えられている。たとえ欧米人であっても、適切な言語技術の訓練がされていなければ、筋道立った会話をすることができないのだ。だから、欧米では言語教育は、あくまでも技術教科として実施されているという。
著者は第一章「外国語と日本語の違いを意識する」で、1.説明の技術、2.描写の技術、 3.明確にいう技術、 4.質問の技術、5.返答の技術、6.分析の技術、のそれそれについて、具体的な事例をとりあげて、日本人の言語技術能力(のなさ)について検証しているが、これらを読んでいると、驚きを通り越してあきれかえるばかりか、少し寒くなってくるはずだ。ぜひ目をとおしてほしい。
日本人は、いわなくても察してもらえるはずだという主観的な思い込み、別のいい方をすればいわゆる「甘え」を無意識の前提としていることが多い。お互い真意がわからなくても、なんとなく会話が成り立っていることも少なくない。しかし、英語を含めた欧米語の世界では、それは「コミュニケーション」とはみなさないのである。ふだんの日本語の発想で表現しても相手には伝わらないのである。
そのために必要なのが、主語を明確にすること、主観的な意見と客観的な事実を区別すること、質問を具体的にして的確な答えを引き出すこと、結論を先にいってから根拠を示すこと、である。これは著者のいうように「翻訳できる日本語」といっていいだろう。これに、ナンバリング(numbering)やラベリング(labeling)といった説明の技術を使うことによって、説明能力は飛躍的に向上することになる。
著者が実践をつうじて練り上げてきた言語技術のトレーニング法が、本書では「対話の技術」と「説明の技術」について具体的に紹介されている。こうしたトレーニングを生活習慣化していけば、外国語の習得が最終目的ではないにしても、少なくとも日本語で論理的なコミュニケーションができるようになるはずだ。
「言語技術」強化のためのこのトレーニング法は、すでに日本サッカー界では正式に採用されて効果を上げている。子どもだけでなく、すでに大人になった人もこの言語技術を身につければ「ロジカル・シンキング」で苦労することもなくなるだろう。私自身、従業員向けの研修で徹底的に行ってきた内容そのものである。
熟読した上で、大いに活用してほしい。
<初出情報>
■bk1書評「日本語の「言語技術」の訓練こそ「急がば回れ」の外国語学習法! 「論理的思考能力」の基礎づくりにもなる実践的トレーニング法」投稿掲載(2002年2月27日)
<書評への付記>
■「言語技術」は基礎の基礎、これは反復トレーニングを繰り返すことでしか習得できない性格のものだ
「外国語を身につけるための」にはあまりこだわることはない。この本で説かれているのは、日本語を論理的に使いこなすための「言語技術」(コミュニケーション・スキル)の訓練法についてである。
日本語の「言語技術」が向上すれば、おのずから外国語学習も容易になる。しかしそれだけでは不十分なことはいうまでもない。外国語の単語と文法を身につけなければならいのは当然だ。
私がかつて、ある中小企業にナンバー・ツーの取締役として迎えられたとき、驚いたのは営業担当の従業員たちの現状であった。彼らは営業トークはできるのだが、会議の場できちんと筋道たてて自分の考えることを表現できない、対話になっていない、説明ができていないという状況だったのだ。
これは多かれ少なかれ、日本企業ではどこでも出会う現象であって、けっして中小企業だけに限ったものではない。大企業でも同じような問題があるのだ。一言でいってしまえば、内輪のコトバでしかしゃべれないという問題である。
これはいかんな、「自分の頭で考えて、自分で行動できる人間」に変身させないと、本当の意味で優良企業に変身させるなんて夢のまた夢だ。組織内に「暗黙知」は蓄積されていて、それがバランスシートには現れてこない「無形資産」として優位性を作り出しているのだが、いかんせん「形式知」に変換されていないので、まったくの新人にワザを伝承できないし、異なるエリアどうしでの情報交換も実のあるものになっていないいのではないか。何よりも、顧客にきちんと商品特性を説明できているのだろうか、と。
そんなときに出会ったのが、出版されたばかりのこの本である。私の問題意識にジャストミートした内容であった。そのときは、中身をしっかり読んだわけではなかったのだが、著者のコンセプトには全面的に賛同を感じたので、直接テキストにしたわけではないが、エッセンスは「従業員研修」という場を作ることによって、さまざまな試みを開始したのである。
私が研修の場をつうじて、また普段からクチうるさく指導してきたのは、まさに本書の内容そのものであるといってよい。これは今回、隅から隅まで読んでみて確認したことである。
おかげで、いまではそんじょそこらの大企業の中堅社員にも負けない、自身に満ちた優秀なビジネスパーソンになっている。とくに中小企業は人材こそ命であり、現在では胸をはっていいくらいに成長したのである。何事もやればできる!
さらにいっておくと、本書に説明されている日本語の「言語技術」を完全にマスターしていない限り、いま流行の「ロジカル・シンキング」研修を受けても、あまり効果はない、といってもいい過ぎではない。「言語技術」の基礎の上にたって、はじめて「ロジカル・シンキング」も生きてくるのである。
そして、蔭山英夫の「百マス計算」や漢字の書き取りではないが、基礎の基礎というものは、ひたすら反復トレーニングを繰り返す以外に、習得は不可能である。これはスポーツとまったく同じである。
その意味で、本書はうまく使えば、「論理的思考能力」の基礎づくりにもなる実践的トレーニング法として大いに活用できるのである。ぜひ徹底的に活用して欲しいものだ、と感じている。
ちなみに、書評『「言語技術」が日本のサッカーを変える』(田嶋幸三、光文社新書、2007)で日本サッカー界の現状の取り組みについて取り上げたが、田島幸三氏によって「言語技術」強化の講師として招聘されたのが、本書の著者である三森ゆりか氏であることを付け加えておこう。
<参考サイト>
◆つくば言語技術教育研究所(三森ゆりか氏が主催する「言語技術」教室)
JALの現役パイロットが特別指導! 会議が劇的に早く終わるコミュニケーション術 (ダイヤモンド・オンライン編集部、 2015年7月7日)
・・「言語技術」の企業への応用
(2015年7月7日 情報追加)
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・・スピーチ
書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ!
(2015年7月7日 情報追加)
(2020年12月18日発売の拙著です)
(2020年5月28日発売の拙著です)
(2019年4月27日発売の拙著です)
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