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2010年2月9日火曜日

書評『中国市場で成功する人材マネジメント ー 広汽ホンダとカネボウ化粧品中国に学ぶ』(町田秀樹、ダイヤモンド社、2010)ー グローバル・マネジメントにおける人材マネジメントについて


悩める中国現地法人関係者だけでなく、広くビジネス関係者にすすめたい、中国現地法人で人材マネジメントを成功させる方法論


 中国現地法人で人材マネジメントを成功させるためには何をしなければならないかを説いた、熱い情熱にあふれたビジネス書である。

 中国に進出した日系企業が抱える最大の問題は、何といってもヒトにかかわる問題だ。とくに、現地経営のカギである中国人マネージャーが定着せずに簡単に転職してしまうという深刻な問題である。この問題に悩んでいない日系企業はないといってもいい過ぎではない。
 中国人は基本的に個人主義的であり、候補も含めてマネージャー・クラスの人材は、少しでも個人としての実績を評価してくれる企業で働きたい、少しでも自分を成長させてくれる機会を提供してくれる企業で働きたいという、強烈な上昇志向をもっている。「世界標準」で思考し行動する、ある意味ではアメリカのビジネスパーソンみたいなものなのだ。
 だから、中国人材のマネジメントは、日本で成功してきた常識はそのままでは通用しないのである。

 人事コンサルタントである著者は、現地日系企業に対する豊富なコンサルティング経験のなかから、価値観を徹底的に刷り込む経営で「中国で尊敬される企業」第3位に輝いた、自動車メーカーの広汽ホンダと、2005年に700人の中国人社員が出社拒否をするという非常事態を経験し、この状況を克服するために大改革を行った結果、現在では年率140%の成長を実現するカネボウ化粧品中国の事例を詳細に紹介している。
 とくにカネボウの事例では、著者自身による人事コンサルティングの内容が導入プロセスとともに詳しく解説されており、悩める中国現地法人関係者には大いに参考となるはずだ。

 本書は、現地法人での中国人材マネジメントにかんするノウハウも随所にちりばめられており、すぐに使える具体的なものも多い。
 悩める中国現地法人関係者だけでなく、本社の経営層やグローバルマネジメントを統括する管理部門のスタッフだけでなく、広くビジネス関係者にも読むことをすすめたい。


<初出情報>

■bk1書評「悩める中国現地法人関係者だけでなく、広くビジネス関係者にすすめたい、中国現地法人で人材マネジメントを成功させる方法論」投稿掲載(2010年2月8日)
■amazon 書評「悩める中国現地法人関係者だけでなく、広くビジネス関係者にすすめたい、中国現地法人で人材マネジメントを成功させる方法論」投稿掲載(2010年2月8日)






<書評への付記>

グローバル・マネジメントにおける人材マネジメントについて


 本書の著者である町田秀樹氏は、もともとホンダの人事部出身で、私は金融系コンサルタンティグ時代からの老朋友(=旧友)である。"友情の一環"として、献本していただいたうえで書評を執筆したが、執筆にあたっては客観性を失わないように努めているので、ある種のパブリシティとなっているだろう。出版されてほやほやで、本日付けで日本経済新聞に広告がでているとのことだ。

 中国人をうまくマネジメントして事業を成功に導くには・・・そのためには、現地で経営にあたる日本人のマインド・セットそのものを変革しなければならない、というのが著者の主張である。これはまったくもって賛成だ。なんといっても、ブランド力のある日系企業といえども、現地の中国人からみたら外資系企業の一つに過ぎないのだ。
 
 上海担当の取締役として中国ビジネスに従事した島 耕作は、2002年から2005年までの中国をリアルタイムで経験している。島 耕作のようなスーパースターはどこの会社でも欲しいところだろうが、そんなヒトはまず世の中には存在しないというものだ(・・ブログ記事『取締役 島耕作』 全8巻を一気読み、を参照)。松下電器(現在はパナソニック)をモデルにした、巨大家電メーカー・初芝電器の島 耕作は、読者の願望を反映した、あくまでもマンガの主人公である。
 実際はというと、出先である現地法人の日本人駐在員は、限られた人数で(・・現地の労働法上の規制がある)オールラウンドプレイヤーであることを求められがちである。しかし、そもそもが生産管理の専門家であるとか、経理の専門家であるとか、狭い専門分野のビジネスーパーソンが多く、相当な無理があるというのが実態だ。こういうディマンディングな環境で猛勉強し、経験をくぐりぬけて"一皮むけ"、飛躍的に成長する者もいれば、逆に日本でうまくやってきた専門家の視野の狭さがマイナスに働いて、さまざまなトラブルを現地で起こす社員もいる。
 
 だから、たとえ日本国内で大企業ではあっても、現地法人の手薄な日本人スタッフのみで実行に移すのは、マンパワーの観点だけからみても、どう考えても不可能だろう。コンサルタントのうまい使い方も考える必要があるわけだ。
 実際問題、本書のカネボウ化粧品中国で、著者が実行した人事コンサルティングの概要が順を追って紹介されているが、中国で中国人を使って実行するのである。きわめつきに困難なタスクである。

 最近もひさびさに宋文洲さんの話をライブで聞いてきた!というタイトルでブログに書いたばかりだが、ソフトブレーン創業者の宋文洲さん(中国・山東省出身)もいうように、中国人は個人主義者なのである。フツーの日本人とはマインドセットが根本的に異なり、ほとんどアメリカ人に近いと行ってもいいすぎではない。いやむしろ、先進国では日本人が世界の例外で、ほとんどが個人主義的な行動をする。「微笑の国」のタイ人も個人主義者である。

 広汽ホンダ(広州汽車とホンダの合弁)は実質的にはホンダ流で経営しており、インドのマルチ・スズキ(Muruti Suzuki India)とその点にかんしては同じである。
 ともに現地政府系の企業との合弁だが、強烈に日本流、というよりも、それぞれホンダ流、スズキ流の経営哲学を、情熱的な日本人リーダーによる率先垂範のリーダーシップによって現地に注入しており、結果としては成功にいたっているのである。
 「異文化」における「価値観による経営」の成功事例として特筆すべきであろう。価値観の刷り込みによって、ベクトルの方向を一つに向けることに成功した。
 しかも、広汽ホンダの場合、もともとフランスのプジョーが現地合弁で操業していたが失敗したものを、工場設備ごと従業員を引き取ったのが出発点であり、マイナスからの出発であった。悪い気風に染まった従業員をマイナスから教育し直すために、ホンダ・フィロソフィーという、創業者・本田宗一郎以来の哲学を中国現地向けにローカライズしたうえで、末端の従業員の一人一人にいたるまで注入するという教育訓練を日々行っている。ホンダという会社は、見た目とは違ってきわめて泥臭い会社である。この点は本書の第3章に詳述されている。
 私は広汽ホンダ(広東省・広州市)は数年前、工場見学をさせていただいた経験がある。そのときいろいろお話を伺ったが、日本の工場よりもはるかにいきいきと、きびきびと仕事をしている印象を受けた記憶がある。平均年齢が日本よりも低いことも理由の一つかもしれない。
 本書には、マネージャー・クラスの人間が、MBA取得している話が紹介されている。広州から毎週末に香港やシンガポールまで通って、カナダや豪州の経営大学院の現地校に通てている!という記述があるが、終了したら会社から半分キャッシュバックあるとはいえ、中国人の意欲の高さにはほんとうに脱帽だ。
 工場訪問の際に日本人担当マネージャーの方からお聞きした、「できる中国人の眼は、日本ではなくアメリカを向いている」という話は非常に印象深く記憶に残っている。
 日系企業も、中国人の眼からみれば外資系企業の一つであり、優先順位としては米国企業や欧州企業に劣後しているのは否定できない事実である。広汽ホンダは例外的存在であろう。

 第4章ではカネボウ化粧品中国の事例が、詳細に紹介されているが、私自身は中国におけるカネボウの実態についてはまったく知らないといってよいのでコメントのしようがない。現地名は、Kanabo 佳麗宝化粧品、SEO 対策に問題あるのか、ウェブサイトを探すのに少し苦労した。
 中国人女性向けのお土産は、なんといっても日本の化粧品、それも資生堂に限る、というのは、かならず中国人のビジネス関係者から聞くアドバイスである。日本に観光に来る中国人観光客が日本で買っていくのもの資生堂 SHISEIDO の化粧品である。その意味では、カネボウは成長途上にあるとはいえ、ブランド力にかんしては資生堂の後塵を拝しているといるのが実態だろう。SHISEIDO 资生堂中国官方网站 参照。
 本書にも指摘されていたが、カネボウの中国名・佳麗宝と Kanabo が中国人女性のアタマのなかで結びついていないらしい。これはブランド戦略上、ゆゆしき状況である。さらなる改革が必要であり、その意味では、まだまだ成長する余地があるということであり、楽しみではある。

 本書の性格上いっさい触れられていないが、日本人現地駐在員の抱える問題というものも存在する。現地の状況を理解していない本社サイドから要求されることがきわめて多く、しかしマンパワーが足りない、能力的にも不足しているという状況では、荷が重すぎて精神的にうつ病になり、帰国を余儀なくされるケースも多々ある。また配偶者がうつ病になるケースも少なからずある。
 ここにはあえて書かないが、相当なストレスのもとに現地駐在員は働いているのであり、気晴らしのための"品格のない"行為が多々あったとしても、いちがいには責められないものがる。
 こうした事例は、私は米国でも、タイでも数限りなく見聞きしてきた。また前職で私が取締役をしていた会社の大株主が、グローバルに展開する機械部品メーカーグループであったので、中国でも同様の話は多く聞いている。
 こういった現地駐在員のメンタルなケアについても、本社人事部サイドでは真剣に取り組まなければならないのである。

 これに対して、米国系企業や欧州系企業では、まったく異なるアプローチをしている。米国や欧州のグローバル企業の現地法人では、ローカル経営は現地代表(マネージング・ディレクター)に権限委譲して完全にまかせていることがフツーである。たとえば私がいたタイでも、欧米系のグローバル企業の現地代表はみな30歳台から40歳台ににかけての華人系タイ人で、米国でM.B.A.を取得した者が大半だ。
 ただし、カネとトップの人事権は、親会社がガッチリ握って離さないというのは、中国国内だけでなく、日本国内も含めて全世界で共通した経営手法である。英語で経理部のことをコントローラー(Control)というのはそういう意味だ。現地代表は、本社でいえば課長程度なのである。
 なぜこのような経営形態になったかといいうと、やはり植民地経営の経験が非常に大きいだろう。限られた駐在員ですべてをこなすのは不可能なので、二重支配体制を創り上げたのである。これはインドにおける英国の東インド会社(East India Company)でも、インドネシアにおけるオランダの東インド会社も同様である。エネルギーのロイヤル・ダッチ・シェル(Royal Dutch Shell)や、食品のユニリバー(Unilever)のような英蘭系グローバル企業はその最たるものだ。
 卑近な例でいえば、敗戦後進駐してきたアメリカ占領軍が、日本の官僚制を温存して現地の行政を行わせ、肝心要のところはガッチリ軍政当局が押さえていた、という二重支配体制も同様である。マッカーサーはこの支配体制をすでに当時の植民地フィリピンで実体験済みであった。

 第二次大戦後は、とくに中南米では現地駐在員が、誘拐やテロの被害に遭遇することが激増し、この対策として現地経営は現地人にリプレースしていった、という歴史的背景もある。このことは、M.B.A.の授業で「国際ビジネス」を受講したとき、元米国海軍士官のエンジニアで、ブラジル駐在体験もある国際ビジネスマン経験をもつ教授が教えてくれたが、なるほどと思ったものだ。彼は、朝鮮戦争には海軍士官として出征し、佐世保基地に駐在したという経験もあり、日本人の私には親しく接していただいた。アナポリスの米海軍兵学校(US Naval Academy)出身のエリートであった。

 進出先の現地での企業経営は、できるだけ現地人にリプレースしていくというのがスジというものである。これは個々の企業によって対応は異なるだろうが、必ず進めていかねばならない課題である。
 
 人材マネジメントというものは、ほんとうに難しい。未来永遠にわたって解決されることのない課題であるが、やはりキーワードは、「暗黙知」の「形式知」化、そのために求められるのは、日本人の「言語力」強化である。





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