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2010年4月22日木曜日

書評『知的生産な生き方 ー 京大・鎌田流 ロールモデルを求めて』(鎌田浩毅、東洋経済新報社、2009)ー 京都の知的風土のなかから生まれてきた、ワンランク上の「知的生産な生き方」




東京出身の「キャラ立ち」教授による、京都の知的風土のなかから生まれてきた、ワンランク上の「知的生産な生き方」について語ったエッセイ集

 「知的生産」にかんする本はむかしから読んできたが、最近のものでは火山学者の鎌田浩毅・京大教授のものが面白い。
 ド派手でオシャレなファッションで、テレビでも十二分に「キャラ立ち」している鎌田教授の一般向けの一連の著作は、理系の思考法を豊かな教養で裏付けた、プラクティカルで、しかも平易な語り口によるものだ。
 この意味においては、梅棹忠夫の『知的生産の方法』(岩波新書、1969)にも連なる、京都の知的風土が生み出してきた、きわめて良質な部分を継承しているといってもいいだろう。

 この本は、『一生モノの勉強法-戦略とノウハウ-』(東洋経済新報社、2009)が生まれてきた背景を探った、ビジュアル・エッセイ集のような趣の本である。前者が、大学生からビジネスパーソンまで、知的生産にかかわる者であれば、すぐにでも使えるスキルやノウハウを紹介した内容の本であるとすれば、後者は、むしろライフワークともなるべき長期的なテーマを探して、じっくり取り組むためには何が本質的に必要であるのかについて語った内容の本になっている。
 いっけん軽く読み流せるような体裁の本だが、中身はけっこう本質的なことに触れている。それは「京都」のもつ意味について語っているからだ。個と自由を尊び、人間関係においては適度な距離を保つ風土の京都は、いつの時代も外部の才能を受け入れ、自らを活性化してきた歴史をもつ。東京生まれで東京育ちの著者もまた、ヨソからきて厳しい京都の風土で鍛えられ、京都で自己実現した一人である。

 京都の風土で培われた、精神的に豊かな「知的生産な生き方」をつづった本書は、豊かな教養があってこそ知識が生きたものとなり、また自分のペースを守ってこそ創造的な良い仕事ができることを自ら実証している。
 氾濫する情報に日々追いまくられる効率一辺倒の東京から、物理的に身を離していることで可能になる「知的生産な生き方」。たとえどこに住んでいようと、自分のなかに「心の京都」をもつことをすすめる著者のアドバイスは傾聴に値する。
 なによりも、副題になっている「ロールモデルを求めて」いる著者自身が、読者にとってはロールモデルとなるわけだ。

 この本は、必ずしも即効性はないが、より深いレベルでの知的生活を志向するする人にとっての、またとない「自己啓発本」となっているといえよう。


<初出情報>

■bk1書評「東京出身の「キャラ立ち」教授による、京都の知的風土のなかから生まれてきた、ワンランク上の「知的生産な生き方」について語ったエッセイ集」投稿掲載(2010年2月24日) 
■amazon書評「東京出身の「キャラ立ち」教授による、京都の知的風土のなかから生まれてきた、ワンランク上の「知的生産な生き方」について語ったエッセイ集」投稿掲載(2010年2月24日) 


<書評への付記>

 
 目次を紹介しておこう。

『京大・鎌田流 知的生産な生き方-ロールモデルを求めて-』(鎌田浩毅、東洋経済新報社、2009)

第1章 知的生産の現場で
第2章 本は手元に置きたい
第3章 知的な生き方には教養が不可欠だ
第4章 京都に暮らす
第5章 食と豊かな人生
第6章 旅行―非日常という楽しみ
第7章 瞑想的な生活とオフタイムの効用
第8章 人と人とのかかわりから生まれる「活きた時間」




京都は観光都市だけではない!

 京都は、外部からさまざまな才能を惹きつけ、ふるいにかけた上で受けいれて自らを活性化してきた歴史をもつ。本書の著者である鎌田浩毅氏も、受け入れられた一人であるといっていいだろう。
 明治維新以後の首都東京のように、官僚と大企業(・・ある意味では大企業も官僚そのものだ)の都市というよりも、「知的センター」として学問の中心であり、かつきわめてプラグマティックな精神風土をもっている。古都でありながら、あたらしもの好きという、京都人はきわめつけのベンチャー体質をもっているといってよい。

 学問の世界でいわゆる「京都学派」といわれるものとしては東洋史学が一番有名だが、これも内藤湖南という秋田出身のジャーナリストを外部からの招聘して、教授に据えたことから出発している。
 これは哲学でも同様で、創始者となった西田幾多郎は金沢出身であり、純粋の京都出身者がきわめて少ないことは、『物語 京都学派』(竹田篤司、中公叢書、2001)にも詳述されている。
 また京大には東南アジア研究センターもあり、日本での研究の中心になっている。
 これは、ハーバード大学など米国の有力大学にも共通する特徴であるようだ。人材はつねに外部から求め、厳しい競争のなかで切磋琢磨させる。こういう環境のなかかからしか、本当の才能は生まれてこない。独創性とは、人と違うことをやることからしか生まれてこない。

 ビジネス界でも、京セラの稲盛会長(現在 JAL会長)は鹿児島出身。鹿児島といえばノーベル賞受賞者の田中氏の在籍する島津製作所も京都の老舗ハイテク企業、このほか京都近郊の出身者も含めて「京都モデル」といわれる徹底した合理主義に基づいたハイテク企業は、半導体のローム、村田製作所、小型モーターの日本電産、計測器の堀場製作所など枚挙にいとまない。
 日本型経営というよりもむしろ米国型にも近い京都の合理主義経営は、グローバルに勝負できる経営モデルでもある。すべてを内部に取り込んで抱えこむことはせず、必要なものは必要なときにヨソから買ってくればいいという合理性。ネットワーク型である。
 ある意味で数ある大学を知的センターとして、ハイテクベンチャーが数多く生まれてくる京都は、米国カリフォルニア州のシリコンバレーに似ている。スタンフォード大学が日本センターを京都に置いているのは、その意味ではきわめて正しい選択である。

 また、お笑いの世界でも大阪の吉本興業を代表する島田紳助が、京都出身だということは、関西以外ではあまり知られていないようだ。
 政治の世界でも、いわゆる「革新派」が長く居座っていたため、産学協同が長い間にわたって阻害されたという歴史もあるが、革新志向がきわめて強い土地柄であることもまた事実である。『突破者』の宮崎学もまた京都出身である。
 しかし、それにしても、本書には天一(てんいち:天下一品)餃子の王将も登場しないこの本は、やはり東京人が書いた京都本なのだなあ、とは思う。飲食の分野におけるこれらの企業もまた革新的な存在である。コテコテというと大阪の代名詞のように思っている人が多いが、天一も王将も京都発の飲食ビジネスである。京都人が、湯豆腐や湯葉ばかり食べているわけがないではないか。
 サービスの点では天下一品のタクシー会社 MK も京都である。任天堂も、ワコールもまた京都企業である。

 京都は、観光都市という側面だけで語ってほしくないのである。生きた人間が住んでいる都市であるから当然といえば当然だ。しかも歴史の集積度は、東京の比ではない。
 この話題はキリがないので、ここらへんでやめておこう。
 


鎌田氏が一番好きな映画『愛のイエントル』

 本書では、バーブラ・ストライサンド製作・監督・主演の『愛のイエントル』が一番好きな映画だとして、講義中に映画の内容について語り出したら、涙が止まらなくなったと吐露している。
 私もこの映画が大好きだ。この映画については、以前このブログでも紹介したので参照していただけると幸いである。
 本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)


『一生モノの勉強法―京大理系人気教授の戦略とノウハウ』(鎌田浩毅、東洋経済新報社、2009)

 この本もおすすめである。ど派手で奇抜なファッションがイヤだ、という人もいるだろうが、中身はきわめてプラティカルでかつ内容がある。


第1章 面白くてためになる「戦略的」な勉強法とは
第2章 勉強の時間を作り出すテクニック
第3章 効率的に勉強するための情報整理術
第4章 すべての基本「読む力」をつける方法
第5章 理系的試験突破の技術
第6章 人から上手に教わると学びが加速する