■「企画術」とは「人を動かす方法論」のことである■
たしかに昔にくらべるとモノを売りにくい時代になっている。そういわれ始めてからすでに20年近くたっているような気もする。経済的な先行き不安があって財布のヒモが固いというわけでもない。モノがあふれ、特にほしいものもないからだ。しかも、消費者自身も何がほしいのか本当のところよくわかっていない。
そんな状況に、消費者が無意識に思っていたこと、意識はしていてもコトバにして表現できなかったことを満たす商品やサービスがでてくると、「そうそうこういうのが欲しかったんだ」ということになる。
つまり、消費者自身がなんとなく思っていても、コトバにはしていなかった無意識の領域にさぐりを入れて、そこから解決策を見いだす企画を打ち出すことができれば、突破口が開けないわけではないのだ。
しかしこの企画をどうたてるか、これはそう簡単なことではない。
そんな企画案を考えなければならなくなったビジネスパーソンに対して、これ一冊でわかる企画術の入門本がないかと聞かれれば、本書を推薦したいと思う。R+(レビュープラス)からの献本をいただいて存在を知った本である。
しかも、もちろん仕掛けを考えるのはビジネスパーソンだけではない。ある意味ではすべての人にとって企画力の有無が大きな違いを生み出す時代になってきている。
世の中にはすでに企画術の本はあふれかえっているのだが、一般消費者向けの新商品やサービスの企画を業務としていないフツーのビジネスパーソンには、必ずしも読んですぐに理解できて、しかも実践に移せるという内容の本は必ずしも多くないからだ。
本書は、誰でも読んで納得できる、非常にわかりやすい本である。
「空気読み」というタイトルは賛否両論を引き起こしやすい(・・しかも著者は自分が経営する会社の社名にまでしている!)。私も最初このタイトルをみて、ちょっとした違和感を感じたが、内容はしごくまっとうな手法で、企画術のトレーニング方法とフレームワークの使い方について無理なくロジカルに解説を行っている。「空気読み」というタイトルで読者を関心を喚起するというタイトルづけも、本書の企画自体がすぐれた企画となっていることの証拠であろう。
本書の特徴は、企画から商品化までの期間(リードタイム)に応じて、ユーザーのニーズを表層から深層まで階層化し、「隠れたニーズ」を発見するための思考の整理方法と具体的なアイデア出しのための手法、そして企画案をつくってプレゼンするまでの一連のプロセスをわかりやすく説明していることにある。
本書は奇をてらった内容の本ではない。誰にでもマネのできる手法であるから安心してよい。
目次を紹介しておこう。
第1章 なぜ、「空気読み」でいい企画が作れるのか?
第2章 空気が読める「発見体質」に変わるトレーニング
第3章 誰でもヒットメーカーになれる「空気読み」の技術
第4章 関係者のメリットを描き企画に落とし込むフレームワーク
第5章 企画をみんなに理解させ人を巻き込むプレゼン術
まずは、著者のいうことにしたがって素直に受け止めて、自分でも再現することから始めてみればいいだろう。フレームワークというのはそのために存在するものだ。
その後、慣れてきたら、自分なりの方法論を確立していけばよいだろう。それが仕事ができる人になるための近道である。
企画術とは、広い意味で、人を動かす術のことである。
<著者紹介>
跡部徹(あとべ・とおる)
1974年生まれ。宮城県出身。株式会社空気読み代表。東北大学卒業後、株式会社リクルートで、メディアプロデュースを担当。自動車領域(「カーセンサー」)、通販領域(赤すぐシリーズ「赤すぐ」「妊すぐ」「赤すぐキッズ」)で編集長を歴任。現在は独立し、「消費者の気持ちやトレンドの背景をとらえたアイデア・企画により、儲かる場を運営する」をモットーに、中小企業から大手企業までを対象に、メディアの企画立案・新規事業の立ち上げ支援を行なっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)