英国といえば情報機関、そんな印象を形づくっているのは、なんといっても 007ジェームズ・ボンドの存在だろう。
ジェームズボンドは架空の存在だが、本書にも登場するイアン・フレミングの創作だ。本書にも、第8章で 『007』ジェームズ・ボンドの生みの親イアン・フレミングとして取り上げられている。そのイアン・フレミングの生涯じたい、いかにも英国的だなと感じさせるものだ。
また、かつてはよく読まれた作家サマセット・モームには『秘密諜報員』という日本語訳になっていた『アシェンデン』という作品があるので、本人にもスパイ経験があることは知っていたが、本書の記述を読むと、その人間性までわかって、なんともいえない気分になったりもする。
祖国に尽くしたスパイがいれば、その反対に祖国を裏切ったスパイもいる。
映画 『アナザー・カントリー』は、戦前のパブリックスクールにおける、将来のエリートである美少年たちのゲイライフに焦点があてられているので、その面では女性にも好まれている作品であるが、かれらの人生もまた、一人一人についてその末路までふくめて語られている。
こんな感じで、気になった人物から読み始めると、結局のところ全部読んでしまうことになる。
英国は、歴史の重要なプレイヤーとして登場した16世紀以来、いわゆるヒューミント、つまりヒューマン・インテリジェンスをフルに活用した歴史をもっているのである。国家組織としてスパイ情報を活用した政治家が英国の歴史をつくってきたことが、本書であらてめて納得することになる。
大英帝国を成立させたのもまた、この人的ネットワークによって張り巡らされた諜報網の存在ぬきにはありえなかったわけだ。
情報、諜報、スパイ・・・ 響きはあまりよくないとはいえ、情報活動は外交活動の基礎である。それが合法か非合法かだけの違いでしかない。
こういう側面から近代英国史を振り返ってみるのも面白いことだ。
目 次
第Ⅰ部 祖国に尽くしたスパイ
-第1章 エリザベス朝イングランドを支えた「イギリス秘密情報部の父」フランシス・ウォルシンガム(1530?~1590)
-第2章 秘密を握ったとみなされた天才劇作家の顛末クリストファー・マーロー(1564~1593)
-第3章 「グレート・ブリテン王国」誕生の陰の立役者ダニエル・デフォー(1660~1731)
-第4章 「ボーア戦争の英雄」と謳われた偽装作戦の名手ロバート・ベーデン=パウエル(1857~1941)
-第5章 貴族に叙せられた変装と語学の天才ポール・デュークス(1889~1967)
コラム ① 20世紀イギリスのスパイ組織の歴史-MI5とMI6の誕生
-第6章 世界的な有名作家をカバー(偽装)に利用したスパイサマセット・モーム(1874~1965)
-第7章 不朽の名画『第三の男』の原作者グレアム・グリーン(1904~1991)
-第8章 『007』ジェームズ・ボンドの生みの親イアン・フレミング(1908~1964)
コラム ② 対独レジスタンスに輝いた二つの綺羅星-特殊任務機関の女性スパイ
第Ⅱ部 祖国を裏切ったスパイ
-第9章 イギリス犯罪史上最長の懲役42年に処せられた男ジョージ・ブレイク(1922~?)
-第10章 人も羨むような「文武両道」の才に恵まれた男ガイ・バージェス(1911~1963)
-第11章 未来の「外務次官」の席を棒に振った男ドナルド・マクリーン(1913~1983)
-第12章 歴史にその名を残した20世紀最大のスパイ キム・フィルビー(1912~1988)
-第13章 「エリザベス女王のご親友」と謳われた美術史学界の重鎮アンソニー・ブラント(1907~1983)
-第14章 「私は雑魚にすぎない」とうそぶいた「第五の男」ジョン・ケアンクロス(1913~1995)
あとがき
参考文献
著者プロフィール
川成 洋(かわなり・よう)
1942年、北海道生まれ。1966年、北海道大学文学部卒業、1969年、東京都立大学大学院修了。ロンドン大学・ケンブリッジ大学客員研究員を経て、1977年より法政大学教授。社会学博士(一橋大学)。専攻はイギリス文学、スペイン史。書評家としても活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
インテリジェンス・ナウ 「お好きなトイレの使用を」-スパイの世界を変える「LGBT」 (春名幹男、フォーサイト、2016年6月23日)
・・ホモセクシュアルであることは隠しているが故に、脅迫の対象となるという弱みがあったが、公式に認めてしまえば弱みにはなり得ないというロジック
(2016年6月29日 項目新設)
<ブログ内関連記事>インテリジェンス・ナウ 「お好きなトイレの使用を」-スパイの世界を変える「LGBT」 (春名幹男、フォーサイト、2016年6月23日)
・・ホモセクシュアルであることは隠しているが故に、脅迫の対象となるという弱みがあったが、公式に認めてしまえば弱みにはなり得ないというロジック
(2016年6月29日 項目新設)
書評 『ジェームズ・ボンド 仕事の流儀』(田窪寿保、講談社+α新書、2011)-英国流の "渋い" 中年ビジネスマンを目指してみる
本の紹介 『交渉術』(佐藤 優、文藝春秋、2009)
「サンダーバード博」(東京・科学未来館)にいってきた(2013年7月17日)
・・登場人物の紅一点であるレディ・ペネロペは「ロンドン・エージェント」
(2014年9月11日 情報追加)
(2020年12月18日発売の拙著です)
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