すごく気になっていた本を読んだ。『爆弾犯の娘』(梶原阿貴、ブックマン社、2026)という本だ。ことし7月にでた新刊。 女優から脚本家に転身した著者が書いた半生記である。
半世紀を生きてきた著者による半生記のライフヒストリーであり、自分史といってもいいかもしれない。
いつもそこにいるけど、いないことになっている男。名前も知らないが父である男。それは、潜伏生活を送っていた「爆弾犯」であった。そんな父をまじえた母子を中心にした親子3人暮らし。
そんな特異な14年間の記録が、この本の前半である。
「爆弾犯の娘」はどんな暮らしを送っていたのか、そんな好奇心から読み始めたのだが、半世紀を生きてきた著者の内省の記録を読んでいるうち、違う感想をもち始めることになる。
後半は、親からの自立をはたしていく著者自身の人生との格闘、そして父親に対する愛憎まじえた確執の記録である。
1973年生まれの著者は、わたしとは11歳違うが、共通する話題もあって具体的なイメージを描くことができる。 著者がそのときどきに読んだマンガ、映画、音楽が具体的なタイトルとともに記されるからだ。ただし、決定的な違いは著者がそのど真ん中である尾崎豊世代かどうかくらいだろうか。
著者は、映画『「桐島です」』の脚本を書いた人だ。
桐島とは桐島聡のこと。「指名手配書」に長きにわたって顔写真が載っていた超有名人である。黒めがねをかけた、やさしそうな顔をした若者として。
半世紀にわたって偽名による潜伏生活を送っていたが、突然世の中に現れて本名の「桐島です」と名乗ったのち、あっという間にこの世を去っていった。2024年1月のことだ。
そんな桐島聡を主人公にした映画の脚本は、潜伏生活を送っていた父をもつ著者でなければ書けないだろう。
正義感が強く、社会の不正に怒る熱い気持ちをもち、まじめで純粋であるがゆえに影響を受けやすく信じやすい若者たち。どんな時代にもいるが、とりわけ1960年代後半から1970年代初頭に存在した時代の空気に過剰なまでに反応し、道を誤り人生を棒に振ってしまった若者たち。
そんな若者の一人を父にもったために、特異な人生を送ることを余儀なくされた著者。
子どもは親を選ぶことができない。人間は20歳までの経験で自己形成するといわれる。あくまでも親きょうだいや祖父母、友人や先生など、自分を取り巻く人間関係のなかで自己形成を行うのである。
演劇人で活動家になった父親に対する複雑な思いをつづった文章は、その一語一語に感情のひだが記されていて読み捨てできない。人生とはなにか、家族とはなにかという問いが、なんども形を変えながら内面の声としてていねいにつづられる。
「おわりに」に記された、「どんな環境に生まれても、努力次第で人生は切り拓けるというものではありません」というメッセージが響く。そう、努力だけでは道は拓けない。運とコネも必要だ。いずれにせよ、どんな形であれ人は生きていかなくてはならないのだ。
インパクトのあるタイトルに惹かれて手に取った本だが、読み終えたいまもなお、静かで深い余韻を感じている。
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目 次はじめに逃亡生活 1973 ― 1985逃亡~服役 1986 ― 1991父出所~家族解散 1991 ― 1993脚本家になろうとする 2023 ―おわりに
著者プロフィール梶原阿貴(かじわら・あき)1973年東京都出身。1990年、『櫻の園』(監督/中原俊)で俳優デビュー。2007年「名探偵コナン」で脚本家デビュー。その後、アニメ、テレビドラマを経て、2022年『夜明けまでバス停で』(監督/高橋伴明)でキネマ旬報ベスト・テン、日本映画脚本賞など多数の脚本賞を獲得。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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