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『取締役 島耕作』(講談社、2002~2005)全8巻を一気読みした。マンガ週刊誌を読む習慣をやめて久しいので、現在は単行本になったマンガをときどき読むだけとなっている。
2002年に、私がとある中小企業の取締役となったと同時期、"部長"島耕作は"取締役"島耕作になった。
そして、私は単行本をリアルタイムで購入し第2巻まで読んだのだが、それ以降そのままとなっていた。
その頃、たまたま社内の有志で上海にプライベート旅行にいったので、それが読むキッカケの一つになったのかもしれない。記憶は定かではない。
島耕作は"常務"となり、いまは押しも押されぬ"社長"である。
作者の弘兼憲司はいったいどこまで描き続けるのか。会長までは描くかもしれないが、まさか"相談役"島耕作はありえないだろう。読者が望むとも思われない。
私は取締役を7年つとめた後に退職したが、そもそも大企業の役員になった島耕作とは大違いである。なぞらえること自体、僭越ではあった。
あらためて第1巻から8巻まで全巻とおしで読んでみて、すでに読んだはずの第2巻までの内容をほとんど覚えていないことにがくぜんとした。
人間の記憶力のあてのなさに呆然とする思いである。
上海担当の取締役として中国ビジネスに従事した島耕作は、2002年から2005年までの中国をリアルタイムで経験することになる。
セットメーカーである初芝電器(・・モデルは松下電器)とは直接の取引はなかったので知らないが、部品メーカーにいた私にはここらへんの状況は手に取るように理解できる。
とはいえ、上海はおろか、中国駐在を経験したことがない私は、中国各地の工場を視察したのみであり、中国ビジネスの、ごくごく一部を知るに過ぎない。
2009年現在では、すでに昔話になっていることも多いと思うが、中国ビジネスに関わる人が、少なくとも最低限の常識として知っておくべき事はすべて描き込まれている。
これから中国ビジネスにかかわる人は目を通しておくといいだろう。もちろん、日進月歩の上海経済である。4年前といえば、感覚的に言えば一昔も二昔も前の事になっているはずだ。
この間に私は上海には二回しか行ってないので、上海はねーなどと語る資格はない。
そしてオモテの世界とウラ世界の関係、これは中国に限らず海外ビジネスでは避けて通れない問題だ。
マンガとはいえ、島耕作も危ないことに首を突っ込みすぎだ。ウラの世界は知識としてのみ知っておけばよい。あえて自ら関わるべきではないのだ。
また、島耕作も中国人女性と関係を持つ設定になっているが、これも実にきわどいものだ。この手の話で、表沙汰にならずに内々で処分されている話は、私の伝聞においても腐るほどある。
身辺はキレイにしておくに越したことはない。昼のビジネスそのものがハードで、しかも夜は欲望渦巻く中国においてはきわめて困難なことではあるのだが。
なんだか久々に"ビジネス書"を読んだなあ、というかんじがする。
ビジネスものは小説でも、マンガでもすぐにアウト・オブ・デイトになりがちだが、島耕作の物語は、ある意味では戦後日本経済史を生きるビジネスマンのライフ・ヒストリーそのものだから、今後も生きのびていくことだろう。ある時代の記録、として。そして特に団塊世代のビジネスマンが自らの人生を振り返るときに。
しかし、"常務"島耕作にはもはや関心はない。したがって"社長"島耕作にも関心はない。私はそもそも大企業組織のなかで出世の階段を上り詰めたいなどと考えたことは一度もない。そしていまやもう組織のなかで生きるのはうんざりだ。
おそらく、取締役になった時点で、島耕作は自分が思い入れ出来る対象ではもはやなくなった、と思ったビジネスマンも多いはずだ。
でも、いいだろう。せめてマンガの世界の中だけでも、島耕作にはカッコいい男でいてほしいものだ。
だが本当のことをいうと、弘兼憲司の作品はあまり好きではない。私がポスト団塊世代の人間だからかもしれない。思い入れを感じないのだ。
弘兼憲司の配偶者でもあるマンガ家・柴門ふみを私は長く愛読してきた。機会があれば柴門ふみについて書いてみたいと思う。
(2012年7月3日発売の拙著です)
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