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2009年11月30日月曜日

書評 『怪奇映画天国アジア』(四方田犬彦、白水社、2009)-タイのあれこれ 番外編-



■怪奇映画をつうじてみた東南アジア文化論-とくにタイとインドネシアを中心に■

 アジアは怪奇映画の天国である。

 東アジアの日本と韓国を中心に製作されたホラー映画は、もともとその土壌のある東南アジア、とくにインドネシアとタイでは、従来から中心的存在であった怪奇映画にも大きく影響し、アジアをしてハリウッドに対抗可能な一大怪奇映画世界の中心としているのである。

 「なぜ幽霊は女性であり、弱者であり、犠牲者なのか」という問いが本書を一貫している。これは、ハリウッドの怪奇映画と対比したときに明確になる、アジア怪奇映画のきわだった特徴である。

  「他者」とは何か、他者はつねに外部から侵入してくる存在であるのが米国であるのに対し、アジア世界では他者は内側に存在する。この意味において、米国とアジアは根本的に異なる世界なのだ。

 また、中国という共産主義社会、インドネシアとマレーシアを除いたイスラーム世界では怪奇映画は製作されない、という指摘も重要だ。一元的な世界秩序に支配される世界では、怪異現象は秩序転覆的な存在となるから断固排除されなければならないからだ。

 こう捉えることにより、インドネシアやマレーシアといった、イスラーム世界でありながら多神教的なバックグラウンドをもつ世界の意味も浮き彫りになる。

 本書は、きわめてすぐれた「東南アジア文化論」になっている。 個別には、インドネシア現代文化論であり、タイ現代文化論である。とりわけタイにかんしては、怪奇映画を切り口にしたタイ現代社会論として、きわめて秀逸なものであるといってよい。

 なぜなら、映画とは大衆の無意識の欲望を、商業ベースにおいて映像化したものだからだ。映画は社会の変化を写す鏡になっている。

 タイは、「気候は思いきり暑く、料理は思いきり辛く」、ここまでは常識だ。「そして映画は思いきり怖く」(p.81)と続くと、読者のタイ理解にあらたな地平が開かれるのを覚えるはずだ。

 私も タイの怪奇映画 『ナンナーク』 はDVDで見たが、著者の分析は大いに目を開かされた。1997年の「アジア金融危機」以後の政治経済社会状況の変化とパラレルに、タイでは映画界のニューウェイブが登場したという指摘には、大いに納得させられた。

 怪奇映画をつうじて、タイ文化そのもの、タイ人の心性、タイ人の思考パターンを知ることができるだけでなく、1997年以降の社会の変化についても、文化の側面から跡づけることができるからだ。 

 すでに中進国となったタイは、すでにノスタルジーが映画にも現れているという。タイ社会は文化的には、すでにポストモダン状況にあるわけだ。

 何よりも本書は、日本では紹介されたことのないようなローカルな怪奇映画の要約が大半を占めるので、たんねんに読むとかなり骨が折れる。あくまでも個々の映画作品の内容を踏まえた上での論考を目指したものだからだ。もちろん、興味深い映画の要約を読むと、何とか入手して見てみたい、という欲望もかき立てられる。

 しかし、よくもまあ、ここまで東南アジアの怪奇映画を収集し、実際に見て、内容まで突っ込んで論じているものだと感心する次第である。

 東南アジアのホラー映画ガイドとしても、映画史のエリア・スタディとしても、東南アジア大衆社会論としても、いろんな読み方の可能な、内容充実した一冊になっている。

 索引も、映画タイトルを原語つきで完備されているので、レファレンスとして一冊もっていてもいいかもしれない。
  




■bk1書評「怪奇映画をつうじてみた東南アジア文化論-とくにタイとインドネシアを中心に-」(2009年11月23日投稿掲載)

■amazon書評「怪奇映画をつうじてみた東南アジア文化論-とくにタイとインドネシアを中心に-」(2009年11月23日投稿掲載)



<書評への追記: タイのあれこれ番外編>

 「気候は思いきり暑く、料理は思いきり辛く、そして映画は思いきり怖く」(p.81)というフレーズがいいですね。さすが韓国通の四方田犬彦、このフレーズから「気候は思いきり暑く」を除けば、そっくりそのまま韓国にあてはまります。いただきます(笑)。

 英語だと気候が暑いのも、料理が辛いのもともにホット(hot)、映画が怖いのは cool とはいわないと思いますが、日本だと花火と怪談は夏の定番ですね。一年中暑いタイやインドネシアでは、怖い映画は一年中、納涼効果があるのでしょうか?

 暑い気候には怖い映画、これはもしかしたら仮説の域を超えた公式となりうるかも・・・てなことはないか。

 この本は、とくにインドネシアとタイの怪奇映画を扱っていますが、私はさほどインドネシアに精通しているわけではないので、タイについてのみ背景知識について触れておきましょう。

 怪奇映画の背景にあるのは、何といってもタイ人のピー(phii)信仰です。

 ピーは、精霊、霊、ゴースト、妖怪、死霊、悪霊・・とさまざまな形態をもつが、いずれにせよ、いたるところに遍在していると、ほぼすべてのタイ人は思っている。この世とあの世は連続してつながっているので、日本人が使う"草葉の陰から"見ているという表現より、まさに英語でいう anytime, anywhere なんですね。

 ピーについて知らないと、タイ人の心性(メンタリティ)を知るのは不可能といってよいでしょう。

 タイ人は、大多数が上座仏教徒ですが、タイ人にとっては仏教以前の存在であるピー(霊)の世界は、より基層的なレベルの信仰といってよいでしょう。これをさして、アニミズム(animism)という人もいますが、これはキリスト教の立場からみた差別的表現なので、私は使用しません。

 華人世界でも、悪霊退治は重要なテーマで、シンガポールには職業的なゴースト・バスターがいますが、タイでは、伝統的にお坊さんがこの役目を果たしてきました。

 ただし、バンコクのような近代的大都市では、どうなのでしょうか。タイではいたるところにあるピーの祠も、バンコクでは少ないような気がします。バンコクでは土着のピーの祠よりも、外来の神である四面体のブラフマーの祠のほうが多いようです。しかも最近は中国系の大乗仏教の観音が人気のようで、あちこちで目にするようになっています。

 以下、代表的なタイの怪奇映画(ホラー映画)について、YouTube で trailer 視聴可能なもののみリストアップしておきましょう。

 この予告編を見るだけでも怖くなってきますねー。タイ人は、スプラッター映画のような血がドバドバでるのが好きだから。日本人とは遺体に対する感覚が大幅に違います。いまでも、タイ字紙の一面には、血だらけの遺体写真がデカデカとでることがあります。ひとことでいってしまえば、見慣れているのですね。

 いずれも、1997年のアジア金融危機以後にでてきた、タイのニューウェイブ映画監督の作品です。同じくIMF管理下におかれた韓国と同じ状況だというのが興味深いですね。それだけ、1997年は政治経済だけではなく、文化面でも一線を画したメルクマールとなっているのです。


■タイの主要な「怪奇映画」の紹介

『ナン・ナーク』(Nang Nak)1999年製作公開 製作・監督:ノンスィー・ニミブット 

 19世紀の実話に基づいた、タイの定番の怪奇映画。この作品は、欧米社会でも受け入れられるように製作されている、と四方田犬彦は解説している。一夫一妻という設定に、ノスタルジックな美しい映像。怪奇現象ぬきでも、色彩感覚にすぐれた美しい映画になっています。

◆『フェート(双生児)』(英語タイトル:Alone) 2007年製作 監督:パンジョン・ピサヤタナクーン&パークプム・ウォンプム 主演:マーシャー・ワッタニパット 

 四方田犬彦は、本書のなかでマルシャと表記しているが、マーシャーの誤り。固有名詞の発音はたしかに難しい。ここらへんは片目をつぶりましょう。マーシャーについては、「タイのあれこれ(11)歌でつづるタイ」を参照。

 さすが、シャム双生児はシャム(タイ)なわけですね。夫の転勤先が日本ではなく韓国という設定もおもしろい。この映画は未見なので、ぜひDVD化してほしいもの。調べてみたところ、タイを除いたらまだスペイン語圏でしか発売されていないようです。


◆『心霊写真』(英語タイトル:Shutter) 2004年製作 監督:パンジョン・ピサヤタナクーン&パークプム・ウォンプム 

 日本でムエタイ映画の『マッハ』(オリジナル・タイトル:オンバク)が公開されたとき、劇場でこの『心霊写真』の予告編をやってましたが、えらく怖そうで見に行きませんでしたが・・・

 四方田犬彦はネットでも、ほら吹きだとかいろいろ叩かれていますが、たしかにこの本でも少なくともタイにかんする記述には間違いも散見されます。

 とはいえ、日本語では類書がまったくないし(・・英語には研究書やガイドブックがあります)、先駆者としての役割は十分に果たしたといえるでしょう。

 出版社も、あまり売れそうにもない本の出版をよく決断したなあ、とおも思います。間違いは第2刷で訂正すればよいといっても、果たして増刷はだいぶ先の話ではないでしょうか。


PS 読みやすくするために改行を増やし、小見出しを加えた。写真も大判に変更した。 (2014年1月31日 記す) 




<ブログ内関連記事>

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・・タイ人のスプラッター^好きについて

「タイのあれこれ」 全26回+番外編 (随時増補中)

(2014年1月31日 情報追加)



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