■「南アフリカには世界がある」-グロ-バリゼーションの光と影-■
2010年6月に開催されるFIFAワールドカップ南アフリカ大会にあわせての出版であるが、アパルトへイト廃止後の南アフリカについて、新書版200ページで過不足なく解説した非常にすぐれた本である。
私にとっては、マンデラ元大統領を主人公にした映画『インビクタス』を除けば、アパルトヘイト廃止後の南アフリカについて読んだ、初めての本となった。
「南アフリカには世界がある」とは、著者の友人が語ったコトバであるそうだが、この表現がすべてを物語っているといえるだろう。
アパルトヘイト時代の1980年代から、すでに新自由主義(ネオリベラリズム)の経済政策を実行してきた南アフリカは、アフリカ大陸の経済の中心であり、アパルトヘイト廃止後に経済制裁が解除されてから後は、グローバル世界の経済プレーヤーとしての位置を確保している。アフリカ大陸の製造業の中心でもある。また、物流の観点からいえば、アジアと南米のハブでもある。
しかし、その反面、グローバリゼーションの負の側面も大いにもっている。殺人で年間2万人が殺害され、経済破綻国である隣国ジンバブエから低賃金労働者を移民を無制限に受け入れ、世界最大の所得格差国にもなっている。
グローバリゼーションの光と影をともに体現しているのが、南アフリカなのである。
本書は、JETROの駐在員として、アパルトヘイト時代もアパルトヘイト廃止後も南アフリカを観察してきた著者ならではの鋭く、かつ暖かいまなざしで描かれた南アフリカである。何よりも、ビジネスを中心とした経済についての記述が詳しく、日本とのかかわりの中心であるビジネスマンの存在に焦点をあてていることは本書の特色でもある。
さらに政治や社会についても過不足のない解説がなされているのがありがたい。アパルトヘイトによる人種差別を否定し、基本的人権の保障という政治的理念が、経済的自由主義の根本にあるという指摘は貴重である。
しかしながら、部族対立につながりやすい民族主義を中心に据えず、普遍的な基本的人権を重視したことから、産業社会の重要なモチベーターであるナショナリズムは不成立のままに今日にいたっている。
ワールドカップを機会に南アフリカに興味を抱いた人にぜひすすめたい一冊である。本書を読むことで、アフリカが必ずしも遠い存在ではないという思いを抱くことになるだろう。
<初出情報>
■bk1書評「「南アフリカには世界がある」-グロ-バリゼーションの光と影-」投稿掲載(2010年6月10日)
■amazon書評「「南アフリカには世界がある」-グロ-バリゼーションの光と影-」投稿掲載(2010年6月10日)
PS 読みやすくするために改行を増やした。 (2014年8月30日 記す)
<関連サイト>
南アフリカ 企業が挑むもう1つの W杯(日経ビジネスオンライン 2010年6月に連載)
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(2014年8月30日 情報追加)
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