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2024年11月26日火曜日

書評『ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版』(上野庸平、ちくま文庫、2024)ー この本はじつに面白い!

 

時間の余裕がすこしできたので、自分の専門とは直接は関係のない本を読むことができるのはありがたい。 

さっそく読んだのが、『ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版』(上野庸平、ちくま文庫、2024)。  先日でたばかりの本。X(旧 twitter)の投稿で出版されることを知った。入手してすぐに読みたかったのだが、2週間ほどは禁欲(>_<) 

「アフリカ」と「日本の新宗教」という、およそ想像外にある異種組み合わせ。読み始めたら、一気読みしたくなる面白さ。好奇心が完全に充たされて、満足感はマックス120%強! 

アフリカというと、どうしても中国が積極的に進出という話とか、自称イスラーム国が拡大しているとか、そんな話ばかり耳にすることが多いが、なんと日本の、それも「新宗教」が知らないうちに、じわじわと進出していたという。教団によっては、すでに定着している国もあるというのだから、驚きだ。 ​ 

目次を紹介しておこう。 

第1章 ラエリアン・ムーブメント 
第2章 幸福の科学 
第3章 真如苑 
第4章 崇教真光 
第5章 統一教会 
第6章 創価学会 
文庫版新章 日本に進出するアフリカの新宗教 

ラエリアン・ムーブメントはフランス生まれだが、日本人の信者が多いので取り上げられいる。その点は、韓国生まれの統一教会もおなじ。それだけでなく、「文庫版あとがき」によれば、天理教も進出しているという。 

著者は、「在外公館派遣員」として、フランス語圏のブルキナファソに長期滞在していたが、好奇心に駆られるように、主にフランス語圏のアフリカ諸国を回っている。その記録が、このノンフィクションである。 

新宗教の教団関係者多数に面会しているが、その大半は現地のアフリカ人だ。きっかけや動機はさまざまで、コミットの度合いもさまざまだが、アフリカ人が主体的に取り組んだ結果なのだ。 

自分が今後アフリカにいくことはないとは思うが、知らないうちにアフリカのほうから、どんどん日本に近づいているのである。

そんなアフリカについての認識があらたにされるとともに、この本を読んで、自分自身の認識の地平が水平線のかなたまで拡がったような気持ちを抱いている。 

とにかく、驚きの内容の一冊。関心をもった人は、読むことを薦めたい。 


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2022年3月19日土曜日

「独裁者」の末路とは? ー「プーチン後」を考えるために『墜ちた英雄 ー「独裁者」ムガベの37年』(石原孝、集英社新書、2019)をケーススタディーとして読んでみた

(クーデターで辞任を余儀なくされた後の94歳のムガベ) 


大義なき「ウクライナ戦争」を仕掛けたロシアの「独裁者」プーチン大統領誤算を重ねた69歳のプーチンには「独裁者の末路」が見え始めてきている。 

「独裁者」は。権力の座についている時は、ほしいままに振る舞っているが、その末路が悲惨なものとなるケースが多い。 

戦争で敗れて自殺したヒトラー、内乱で捕らえられて処刑されたムッソリーニ、米軍に捕縛されて処刑されたイラクのサッダーム・フセイン、側近に暗殺された朴正熙(パク・チョンヒ)、革命で引きずり下ろされたエジプトのムバラクなどなど。

強権でもって支配する独裁制は、あっけなく崩壊する。独裁者は、じつは脆弱な存在なのだ。 

そんな「独裁者の末路」のケーススタディーとして、『墜ちた英雄-「独裁者」ムガベの37年』(石原孝、集英社新書、2019)を読んでみた。 こんな機会でもないと、あまり自分の人生にはかかわりのないアフリカ関連の本を読むこともないだろう、と。著者は、南アフリカ駐在経験をもつ朝日新聞記者。 

ジンバブエ(旧ローデシア)独立の「英雄」でありながら、権力にしがみついたあげくクーデターで失脚したのが「独裁者」ロバート・ムガベ(1924~2019)であった。

第1次大戦後のドイツを上回るようなハイパーインフレ-ションで、とんでもない状況になっているというニュースで有名になったジンバブエだが、1979年の独立当時のムガベ氏が「英雄」であったとはよく知らなかった。 

この本に全文が翻訳されて引用されている、ムガベ大統領の「独立記念式典スピーチ」を読むと、国内の融和を語るムガベ氏に、南アフリカのネルソン・マンデラ氏とあまり変わらない理想肌の人物を感じてしまうのである。若き日のムガベ氏は、ガンディーにも感銘を受けていた。 

独立後のジンバブエにおいてムガベ氏は、もともと勉強熱心な教師であったこともあずかって、初等教育の充実に注力し、国民の支持を受けていたという。そのおかげでジンバブエの識字率は95%以上ときわめて高いらしい。 善政を敷いていたわけである。

古代ローマの独裁者・皇帝ネロもそうであったが、独裁者は最初は理想肌の人物であったことが多い。ヒトラーもムッソリーニも、その他もろもろの独裁者も、多かれ少なかれそうである。 だが、たいていの権力者は、いったん権力を握ると、権力のうまみを味わうことで、そこから抜け出せなくなる。ムガベ氏もまたそうだった。 

白人との融和を語り白人に受け入れられたマンデラに対し、当初の理想的な姿勢から一変し、白人入植者の土地を接収し、結果として欧米白人社会を敵に回すことになったムガベは、国内では強権体制を敷き、対外的には反欧米姿勢を強調して旧ソ連や中国に接近することになる。現在、反欧米主義を主張する独裁者は、どの国にあってもみなおなじだな、と。 

不倫の末に後妻とした若い女性に振り回されることになる、70歳を過ぎてからの老独裁者。妻とその一族による贅沢三昧の浪費と権力志向、大義なきコンゴ内戦への参戦、ハイパーインフレに苦しむ国民の国外脱出。「独立の英雄」は、国家を私物化した「独裁者」に墜ちてしまったのである。

最終的に国軍主導のクーデタで権力の座から降りることになったムガベ氏は、すでに92歳であった。その2年後にシンガポールの病院で亡くなったムガベ氏だが、権力を奪われたとはいえ、ベッドの上で天寿を全うすることができたわけだから、かならずしも悲惨な終わり方ではなかったといっていいかもしれない。 

とはいえ、「独裁者の末路」は、独裁者であるゆえに免れないものといえようか。 


だが、1999年に大統領に就任してから約23年目にあたる今年2022年に始めた「ウクライナへの軍事侵攻」が命取りとなる可能性が濃厚になってきた。欧米を中心とする国際的な経済制裁にいる通貨ルーブリの価値下落、大義なき戦争におけるロシア軍将兵の戦死者の増大・・。

はたして、「独裁者」プーチンはいかなる「末路」をたどることになるのか、いろいとシミュレーションしてみる必要があろう。「独裁者」ムガベのケースは、その1つの材料になりうる。 

しかしながら、「プーチン後」のロシアについても、けっして楽観が期待できないこともまた、「ムガベ後」のジンバブエの苦境が続いていることから考えれば容易に想像がつくというものだ。 

あるいは、「アラブの春」でいったん民主化が実現したかに見えたが、国軍によるクーデター後に強権体制が戻ってきたエジプトの状況を考えてみるのも参考になるかもしれない。 


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目次
序章 あっけない幕切れ─37年に及ぶ支配
第1章 差別と独立─ムガベとの接触
第2章 アフリカの優等生ー融和と略奪
第3章 経済崩壊ー15年続く就職氷河期
第4章 土地は誰のものかー白人との対立
第5章 妻への愛が身を滅ぼすー軍との対立
第6章 期待と失望ームガベなき選挙
第7章 ムガベ待望論ー根強い人気
終章 マンデラとムガベー英雄と独裁者


著者プロフィール
石原孝(いしはら・たかし) 
1981年生まれ。朝日新聞ヨハネスブルク支局長。ロンドン大学東洋・アフリカ研究学院修士課程修了。 長く所属していた大阪社会部では、学校法人「森友学園」の小学校建設を巡る問題などを取材した。 共著に『子どもと貧困』『チャイナスタンダード 世界を席巻する中国式』など。 趣味は国内外問わず、旅行。「広い世界を見たい」と思い、記者を志した。


<関連サイト>

・・「権力者に対しても、権力者の敵対者に対しても常に中立を保とうとするというところにロシアは政軍関係上のカルチャーの大きな特徴がある」(小泉)
⇒ ロシア国軍がクーデターを主導する可能性は低いと見るべきだろう。したがって、ジンバブエのムガベ大統領のケースとは違って、国軍主導によるクーデターでプーチン大統領が辞任に追い込まれることはなさそうだ。


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2021年9月23日木曜日

書評『岸惠子自伝 卵を割らなければオムレツは食べられない』(岸惠子、岩波書店、2021)― 読みたかった本を読んで大きな満足を得る

 
 


現在88歳の女優の著者が語る自伝エッセイ集。フランス人と結婚し、パリに移り住んだ日本人女性の走りともいうべき存在か。 帯には、社会学者・上野千鶴子氏による評が掲載されている。
 

「自伝でありながら、上質なエッセイを読んだような読後感に満たされる」


まさにその通りであり、それ以外のコメントはしようがないというのが、正直なところだ。このコメント力もまたすごい。 

岸惠子氏のように、ここまで明晰に自分を表現できる知性には、めったにいないだろう。心の底から驚嘆し、賞賛を惜しまない。 

単身ヨーロッパに渡って生き抜いてきた日本女性は、ほんとうに精神が強靱に鍛え上げられている。戦前に生まれ、戦争をくぐりぬけ、戦後の日本を駆け抜けて、さっさとフランスにいってしまった直情径行ともいうべき人。現在は、拠点を日本に移している。 

もちろん、88歳まで明晰な頭脳を維持するためには、旺盛な好奇心だけでなく、体力も気力も不可欠であるが、岸惠子氏のように華奢な女性に、そんな強靱な生命力があるとは! 

アフリカへの思いということで想起するのは、ドイツ人女優で映画監督だったレーニ・リーフェンシュタールである。この人は100歳まで現役を貫いた。岸惠子氏も、まだまだやりたいことがあるのだという。 それが生きる原動力になっているのであろう。

自分のように50歳台後半の男は、「まだまだやることあるでしょ、できるでしょ」と叱咤されているような気になってくる。まだまだ、ですね。 

「卵を割らなければ、オムレツは食べられない」とは、フランスの格言だそうだ。フランス人の元夫からくどかれたときに初めて耳にしたらしい。 

まさにそのとおりの人生だな、と。いくつになっても、必要な人生の心構えではないか! 



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目 次 
第Ⅰ部 横浜育ち
第Ⅱ部 映画女優として
第Ⅲ部 イヴ・シァンピとともに
第Ⅳ部 離婚、そして国際ジャーナリストとして
第Ⅴ部 孤独を生きる
エピローグ
おわりに
岸惠子略年譜

著者プロフィール
岸惠子(きし・けいこ)
1932年横浜生まれ。1951年女優デビュー。1957年医師・映画監督であるイヴ・シァンピとの結婚のため渡仏。1963年デルフィーヌ誕生。1976年離婚。1987年NHK衛星放送『ウィークエンド・パリ』のキャスターに就任。女優として映画・TV作品に出演し、主演女優賞のほか数多くの賞を受賞。作家、国際ジャーナリストとしても活躍を続ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

 


PS 岸惠子さんがお亡くなりになった

2026年8月19日付けで訃報が飛び込んできた。享年93歳、老衰のため死去だという。この場を借りてご冥福をお祈りします。合掌 (2026年8月20日 記す)



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(2026年8月20日 情報追加)


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2016年3月20日日曜日

書評『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(高野秀行 × 清水克行、集英社インターナショナル、2015)ー いまから500年前の室町時代は2010年代のソマリアのようなものだ


 『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(高野秀行×清水克行、集英社インターナショナル、2015)を読んだ。この本は面白い!

高野秀行氏は、「辺境もの」のノンフィクション作家。
清水克行氏は、室町時代を専門とする日本史研究者。

清水克行氏の本はいままで読んでなかったが、早稲田の探検部出身の高野秀行氏の「辺境ものノンフィクション」はじつに面白い

たとえば『ミャンマーの柳生一族』(集英社文庫、2006)『アヘン王国潜入記』 (集英社文庫、2007)などのミャンマーものや、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫、2009)などがそれだ。だが、2013年に出版された、『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)が面白いと評判だが、残念ながらまだ読んでない。

そんな二人が意気投合して行った対談がこの本だ。語りおろしを編集して一冊にしたものだ。

(カバーの袖から)

いまから500年以上前の室町時代がなぜ現代の日本人からみて理解しにくいのか、その理由がソマリアをはじめとするアジア・アフリカの発展途上国の現在と重ね合わせると、じつによく理解できるのだ。 この対談を読んでみると、この両者がじつによく似ていることには驚くばかりだ。

わたしも東南アジアを中心に、バックパック背負っていろいろ歩き回った人間だが、何度もウンウン、そうだそうだ、とうなずくばかり。逆にいうと、現代の「辺境」は室町時代のようなものなのだ、と。

室町時代の崩壊が始まり、価値観が完全に崩壊したのが「戦国時代」という約一世紀つづいた過酷な内戦時代である。

生存のための自衛組織として戦国時代に形成された「村」(ムラ)という共同体は、「高度成長期」を経てすでに融解擬似共同体であった「カイシャ」もまた、すでに生活共同体として意味合いが薄れ、失われた20年(?)のなか、バラバラの個人となった日本人は漂流している。

日本から「村」(ムラ)という共同体はほんとうに消えてしまったのだ。戦国時代以来の大転換期にあることはひていできまい。では日本人は、いったい何にたよって生きていけばいいのか?

そんな時代に生きる現代日本人が、これからどうやって生きていくのかを考えるうえで、同時代に存在するソマリアなどの「辺境」や、自分たちの歴史である「室町時代」というのは、なんらかの参考になるかもしれない。

歴史が役に立つとは、そういうことなのだろう。ほんとに面白い本である。




目 次

はじめに(高野秀行)
第1章 かぶりすぎている室町社会とソマリ社会
第2章 未来に向かってバックせよ!
第3章 伊達政宗のイタい恋
第4章 独裁者は平和がお好き
第5章 異端のふたりにできること
第6章 むしろ特殊な現代日本
おわりに(清水克行)


著者プロフィール

高野秀行(たかの・ひでゆき)
ノンフィクション作家。1966年東京生まれ。『ワセダ三畳青春記』で第一回酒飲み書店員大賞、『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。著書は他に『移民の宴』『イスラム飲酒紀行』『ミャンマーの柳生一族』『未来国家ブータン』『恋するソマリア』など多数。  

清水克行(しみず・かつゆき)
明治大学商学部教授。専門は日本中世史。1971年東京生まれ。大学の授業は毎年大講義室が400人超の受講生で満杯になる人気。NHK「タイムスクープハンター」など歴史番組の時代考証も担当。著書に『喧嘩両成敗の誕生』『大飢饉、室町社会を襲う! 』『日本神判史』『足利尊氏と関東』『耳鼻削ぎの日本史』などがある。


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書評 『アジア新聞屋台村』(高野秀行、集英社文庫、2009)-日本在住アジア人たちの、きわめて個性にみちた、しなやかで、したたかな生き方


500年前の時代を考える

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む
・・戦国時代の末期、ちょうど大航海時代にあったヨーロッパと日本が出会うことになる

書評 『武士とはなにか-中世の王権を読み解く-』(本郷和人、角川ソフィア文庫、2013)-日本史の枠を超えた知的刺激の一冊

「ジャック・カロ-リアリズムと奇想の劇場-」(国立西洋美術館)にいってきた(2014年4月15日)-銅版画の革新者で時代の記録者の作品で17世紀という激動の初期近代を読む
・・この本では言及はないが、日本の戦国時代と同時代の「初期近代」の西欧もまた、現代のソマリアのような時代であったというべきだろう

ミャンマーではいまだに「馬車」が現役だ!-ミャンマーは農村部が面白い


「村」(ムラ)と「世間」はイコールではない
 
書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)-日本人を無意識のうちに支配する「見えざる2つのチカラ」。日本人は 「空気」 と 「世間」 にどう対応して生きるべきか?
・・顕在化する「空気」、依然として消滅しない見えない「世間」が日本人の行動を縛っている


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