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2010年12月8日水曜日

書評 『ネット・バカ-インターネットがわたしたちの脳にしていること-』(ニコラス・カー、篠儀直子訳、青土社、2010)




インターネット世界の「浅瀬」化は必然の流れ。だからこそときには「浅瀬」からでて「情報遮断」することが必要だと気づかせてくれる好著

 インターネットによってわれわれの生活は、それ以前とは比べようのないほどまったく異なるものとなっている。
 インターネット以前と以後とでは、生活だけでなく思考そのものまで激変してしまったのだが、そう指摘されてもわからないほど、現在のわれわれはどっぷりとインターネットの流れに身を任せている。

 現代人のこの状況をさして著者は「浅瀬」(shallows)と名付けた。英語版のタイトルはスバリ「浅瀬」である。深みのない、浅い思考の流れに身を任せて生きているのが現実だと気づかせてくれる本だ。

 本書を通読して思うのは、この流れは不可逆的なものだろう、よほど意識しないかぎり、この目まぐるしいが、あまりにも便利で快適な流れが保証された「浅瀬」からは出ることはできないだろうということだ。

 なぜなら、インターネットという新しいテクノロジーにあわせて、われわれの脳が適応してしまっているからなのだ。
 これは脳のもつきわめて重要な特性、すなわち「神経可塑性」(plasticity)によってもたらされたものである。
 次から次へと刺激の連続するマルチタスク状態では、脳の働きが浅く広くなってしまうのは当然だ。だから、深く掘り下げた思考が困難になるのは当然といえば当然なのだ。
 
 ジャーナリストである著者は、最新の脳科学の成果を幅広くトレースしているが、なかでも特筆すべきなのは、「短期記憶」(working memory)と「長期記憶」(long-term memory)にかんする考察である。コンピュータは脳のアナロジーであるが、その記憶(メモリー)の性質については絶対的な違いがある。

 コンピュータにおいては、記憶(メモリー)は無限に複製可能な情報(ビット)として貯蔵され再生されるが、脳においては、いったん「長期記憶」に貯蔵された記憶が「短期記憶」として再生された際、まったく同じ情報としてではなく、あらたな情報として「長期記憶」に貯蔵されることになるのだという。つまり、コンピュータとは根本的に異なり、脳においては、二つと同じ記憶情報はないということなのだ。

 これが脳とコンピュータが似て非なる点、絶対的な違いなのである。思考のすべてをコンピュータとインターネットに任せてしまうわけにはいかない理由がここにある。
 われわれの思考は、コンピュータの思考とは本来は異なるものなのだ。なのに、われわれの思考はコンピュータの情報処理のような方向に進んでいるのではないか、というのが著者の大きな懸念なのだ。


 だからこそ、こういう状況においては、圧倒的多数となりつつあるネット依存者と大きな差をつける方法が「逆転の発想」としてありうるのではだろうか。深読みかもしれないが、この事実に早く気づくに越したことはない。

 ふだんはインターネット世界の「浅瀬」にどっぷりと浸かっていても、ときには、この浅瀬から出て日光浴することを定期的に行えばいい。つまり、意識的で意図的な「情報遮断」を行うことだ。何も読まず、電話にもでず、ウェブもメールもツイッターもSNSも見ない「情報遮断」。これは「情報断食」といってもいいかもしれない。

 この「情報遮断」によって、脳の働き方にメリハリをもたらせばいいのだ。

 著者自身、本書の執筆にあたってはコロラド山中に山ごもりしたと告白している。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツや、韓国のサムソン会長イ・ゴンヒなどの傑出した経営者が、ときどき山ごもりして思考を深く集中させる機会を意図的にもっているのはそのためであろう。

 本書は、現代という時代を「西洋文明史」というコンテクストのなかだけでたどっているが、100%西洋化しているわけではない日本人は、直観力など自らの長所をうまく活かしながら現代という時代を生き抜いたらいいのではないだろうか? 私は、本書を読んで、逆に楽観的な感想をもつに至っている。

 このようにいう私も、飛行機で海外へ移動中の「情報遮断」状態でなければ、こういう長くて深い本を一気読みはできないものだと、ため息をつくところではあるのだが・・・。だからこそ意識的な「情報遮断」が必要なわけなのだ。

 皆さんもぜひ一度は目を通して、インターネットにどっぷりと浸かった生活を送っているのであれば、日々の生活を再考する機会としてほしい。
 本書は、一般人向けのわかりやすい「西洋文明史」と「脳科学」の本として読むことも可能である。


<初出情報>

■bk1書評「インターネット世界の「浅瀬」化は必然の流れ。だからこそときには「浅瀬」からでて「情報遮断」することが必要だと気づかせてくれる好著」投稿掲載(2010年11月12日)
■amazon書評「「浅瀬」からでて「情報遮断」することも必要だという「気づき」を与えてくれる好著」投稿掲載(2010年11月12日)

* 再録にあたって一部の字句の修正を行った。




<原著タイトル名>

Nicholas Carr, The Shallows: What the Internet Is Doing to Our Brains, W W Norton & Co Inc, 2010
・・英語版原著(ハードカバー版)に対するレビュー(英語)が、amazon.com では読むことができる。原著の英語はクセのないロジカルな文体なので読みやすい。




目 次

プロローグ-番犬と泥棒
第1章 HAL とわたし
第2章 生命の水路
 脱線-脳について考えるときに脳が考えることについて
第3章 精神の道具
第4章 深まるページ
 脱線-リー・ド・フォレストと驚異のオーディオン
第5章 最も一般的な性質を持つメディア
第6章 本そのもののイメージ
第7章 ジャグラーの脳
 脱線-IQスコアの浮力について
第8章 グーグルという教会
第9章 サーチ、メモリー
 脱線-この本を書くことについて
第10章 わたしに似た物
エピローグ-人間的要素

もっと知りたい人のための文献一覧
訳者あとがき
索引


著者プロフィール

ニコラス・カー(Nicholas G. Carr)

1959年生まれ。テクノロージとビジネス関連の著述家。『ガーディアン』紙などでコラムを連載するほか、多くの有力紙誌に論考を発表。テクノロジーを中心とした社会的、文化的、経済的問題を論じる。『エンサイクロペディア・ブリタニカ』の編集諮問委員会、ならびに世界経済フォーラムのクラウド・コンピューティング・プロジェクト運営委員会のメンバーである(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものを増補)。




<関連サイト>

著者ニコラス・カーのウェブサイト nicholas g. carr


<ブログ内関連記事>

書評 『脳を知りたい!』(野村 進、講談社文庫、2010 単行本初版 2000)
・・脳科学についてまず読むべき、バランスのとれた入門書

書評 『知的複眼思考法-誰でも持っている創造力のスイッチ-』(苅谷剛彦、講談社+α文庫、2002 単行本初版 1996)
・・インターネット時代にモノを言うのは知識よりも知恵

成田山新勝寺「断食参籠(さんろう)修行」(三泊四日)体験記 (総目次)
・・「情報遮断」あるいは「情報断食」としても意味のある、ほんとうのほんまもんの断食体験記

「庄内平野と出羽三山への旅」 全12回+α - 「山伏修行体験塾」(二泊三日)を中心に (総目次)
・・「山伏体験」は電話もネットも遮断された「情報断食」状態。街中で難しければ、山のなかに入ってしまうのも一つの手だ

むかし富士山八号目の山小屋で働いていた 総目次
・・社会人になる前の大学時代の経験を思い出してつづってみたもの。山のなかに長期間滞在するということについて




(2012年7月3日発売の拙著です)








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