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2012年5月19日土曜日

「近代洋画の開拓者 高橋由一」(東京藝術大学大学美術館 上野)にいってきた-アナログ写真よりも長い生命力をもつ明治の洋画を見るべきだ!



近代洋画の開拓者 高橋由一(東京藝術大学大学美術館 上野)にいってきた。

同じ上野の森で開催されている「特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝」(東京国立博物館 平成館)にいったついでに、東京芸大まで足を伸ばしてみた。東京芸大の場所はしっているが、キャンパスのなかに入ったのは今回が初めてである。

明治の世に日本に洋画を確立しようという高い志を抱きながら、苦い人生を送らざるを得なかった高橋由一(たかはし・ゆいち)。明治の世に日本美術を再発見し、世界に向けて発信を行ったフェノロサや岡倉天心。

あまりにも対照的な人生行路が、そのまたゆかりの地である上野で、道を挟んではす向かいの場において対面(・・いやすれ違い?)しようとは、まさか当人たちも思いもしなかったことであろう。

高橋由一(1828~1894年)は、文政11年に生まれ 明治27年に亡くなった武士出身の洋画家。7歳違いで同じく武士であった福澤諭吉(1835年~1901年)と同様、まさに「一身にして二生を経た」人である。ゆいち と ゆきち、なんだか似たような名前である。


油絵で描かれたチョンマゲ姿の自画像が、まさにその「一身にして二生」を象徴している(上図のまんなか)。この自画像を描いたのち、高橋由一はチョンマゲを切って、上海に向かったようだ。チョンマゲとザンギリで二生がわかたれるのである。

しかし、高橋由一は、海外で洋画を勉強したことはなかったのである。日本にきていたワーグマンという英国人画家(・・というよりも政治マンガで著名)に師事したのち、イタリア人のお雇い外国人の美術教師フォンタネージに師事したのみである。

ボストン美術館の日本美術部門の基礎をつくったフェノロサとは高橋由一は同時代人であるだけでなく、直接の面識もあったらしい。最初は好意的な関係だったのが、のちには相反する立場となるのは、人生の苦さを感じさせるエピソードである。

美術展の概要は以下のとおり。

「近代洋画の開拓者 高橋由一」 <開催日>2012年4月28日~6月24日
<会場>東京都台東区・東京藝術大学大学美術館(山手線上野駅下車)
http://yuichi2012.jp/


洋画といっても映画のことではない。西洋画の略である。油絵である。

ポスターにもつかわれている「鮭」(さけ 1877年頃)は、やはりホンモノはすごい。この絵を実物を見るためにだけでも、ぜひ足を運ぶべきである。

ネットでみるデジタル画像はおろか、ポスターに印刷されたアナログ画像ともまったく違う。実物の質感、光の反射具合は、まさに新巻鮭そのものだ。



高橋由一は、洋画普及のプロモーションのため、写真よりも洋画のほうが保存性もあると主張していたそうだ。それは鮭の絵を見れば、だれもが納得せざるを得なくなるだろう。この「鮭」は、描かれてからずでに140年近く、古さをまったく感じさせない。

鮭の絵のリアルさは、まさに油絵の特性が活かされたものだ。鱗が光っているのだ。正面からだけではなく、さまざまな角度から見てみよう。鱗(うろこ)に反射する光の燦爛(さんらん)具合が、まさに実物の鮭としか言いようがない。

高橋由一は、新巻鮭を描くために、鮭の大きさにあわせて紙や板を用意している。

わたしは、展示されていた三点の鮭の絵のうち、板に油絵の具で描いたのがいちばん好きだ。板のうえに新巻鮭が載せてあるとしか見えない。

それに劣らず、鯛(たい)の絵もいい。鱗だけではない。目がホンモノの鯛である。



高橋由一は、武士出身で、きわめて志の高い人であったらしい。

西洋の石版画(リトグラフ)作品を見て以来、洋画を勉強したいという気持ちを固めたものの、家業である武術修行のため時間はとれず、洋画を学ぶことができたのは、なんと35歳になってから。本格的に学ぶことができたのは39歳。あまりの遅咲きであるが、意志の強さには驚かされる

しかし、高橋由一の努力も甲斐もなく、フェノロサや岡倉天心による日本画の革新運動によって洋画が隅に追いやられただけでなく、フランス帰りの黒田清輝の出現によって、高橋由一の存在は以後65年間も消されてしまったのだ、と。

今回の大規模な回顧展は、40年ぶりのものであるという。「近代洋画の開拓者」としての高橋由一の全貌を知るよい機会である。

日本に洋画を普及させるという使命をもち、道なき道を開いた先駆者は、生きている時代に礼賛されることがなかった。高橋由一を顕彰するのは、後の世に生きる者にとっての務めであろう。

それとともに、高橋由一という「一身にして二生を経た」日本人の志を振り返る機会にもしたい。まさに激動期を生きぬいた一人の日本人であったのだ。





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