先週土曜日(2012年5月26日)に実行した「市川文学散歩」。その途上、市川市菅野でレトロな物件を発見しました。井戸水を汲みあげるための手押しポンプです、なつかしいですねえ。
現在は閉店している喫茶店兼スナック(?)の店前にあったのが、その前を通りかかったときに目に入ってきました。レトロな店舗の前に、レトロな物件。こういうものを目にするのは、いまやめずらしくなっただけに、たいへんうれしく思うものです。
というのも、そのむかし小学生の頃に住んでいた東京都練馬区でも井戸が使われていたから。昭和40年代はじめには、すでに上水道は普及していましたが、隣りの家に井戸があって、井戸水を汲むのにつかわれていました。
数軒に一つしかない井戸水は、野菜を洗ったり、洗濯用の水としてつかわれていました。さすがに飲み水としては、すでにつかわれていなかったようですが。
取っ手を押す際にでる「キ~コ、キ~コ」という、金属音がつくりだすリズムが好きで、子どもの頃、よく動かしてましたものです。
井戸端には、主婦が集まっていたものでした。コミュニケーションを発生させる場としての井戸端。むかしは文字通りの「井戸端会議」が行われていたわけですね。現在の職場でいえば、喫煙コーナーのようなものでしょう。
「3-11」後の現在、放射能汚染を避けるために、井戸を掘るのがブームになっているようです。
しかし水をくみ上げるのに電気でモーターを回しているので、むかしの井戸端の感覚はありません。しかも自宅の敷地内ですから、井戸端会議も発生のしようがないということでしょう。
井戸を掘る日本のローテク、これは現在は発展途上国で大いに役立っています。不衛生なたまり水ではなく、汚染のされたないキレイな井戸水がいかに貴重でかつ重要であることか。
すでに日本ではレトロな手動式井戸水汲みを見ることのなう若い人たちには、ぜひ発展途上国にいって、井戸で水を汲むことを体験してほしいと思います。
■電気をつかわない機械について
井戸汲みポンプは、テコの原理を利用したシンプルな機械です。電気で駆動するモーターをつかわない、ローテクのマシン。電子時代にはない、機械の強みを感じさせます。
昨年の東電管内の「計画停電」(=輪番停電)において痛感したのは、現代文明がいかに電気に依存した文明になっているかということでした。
高層建築物においては、水道水ですら電気でモーター回してくみ上げているので、電気が止まると水もでないのです! トイレで水を流すのも、電気がないとできないのです!
そんななか、唯一動いていたのが、水洗トイレのロータンクでした。きわめて単純な構造ですが、水に浮かんだタップによって弁を開閉し、水量を自動調整する仕組みです。駆動に電気を必要としない、きわめて合理的な設計です。
(出典: 水洗トイレロータンク構造 http://www.handsman.co.jp/myweb/D63-1-1.html)
20世紀後半の日本は、機械に電子電気を組み合わせることによって、工作機械などの分野でも、ドイツやスイスの機械の牙城を崩してきました。いわゆる「メカトロニクス」という和製英語に象徴される技術革新です。
しかし、機械そのものについては、いまだにドイツやスイスのほうが優れているという評価は、日本のものづくりの世界でも根強く残っています。やはり、機械そのものの歴史が違うのでしょう。
先日、佐倉の国立歴史民俗博物館にひさびさにいってみましたが、江戸時代後期に讃岐の国(・・現在の香川県)でつかわれていたという、サトウキビから砂糖を絞り切る機械(=砂糖しめ臼)の模型をみました。牛が引っ張っぱる動力を、歯車をつかって石臼を回す動力に変換する木製の機械です(下図)。
(国立歴史民俗博物館 近世のコーナー)
(同上)
風の強いオランダの海岸地帯では風車によって風力を動力に変換する機械が普及しました。同時代の日本では、水流を利用する水車や、家畜をつかった機械が利用されていました。
いざというときには電気がつかえないとなにもできない、それでは生き延びることはできません。
人間のチカラも含めて、いかに電気をつかわないで利便性を確保するか、真剣に考えるときがふたたびやってきているのではないかと思うのです。
もちろん電気文明の恩恵に要しているからこそ、いまこうやってブログの文章も書くことがdきるわけですが、いざという危機状況の際には、電気はつかえなきという覚悟をしておく必要があることは、けっして忘れることはないでしょう。
ひさびさに井戸水を汲む手動式ポンプをみて、その思いはさらにつよくなった次第です。
<ブログ内関連記事>
国立歴史民俗博物館は常設展示が面白い!-城下町佐倉を歩き回る ①
・・とくに「近世」」のコーナーは2008年に全面改装されたようで注目だ
書評 『ニシンが築いた国オランダ-海の技術史を読む-』(田口一夫、成山堂書店、2002)-風土と技術の観点から「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求
・・技術が生まれる風土に着目した技術史
本の紹介 『シブすぎ技術に男泣き!-ものづくり日本の技術者を追ったコミックエッセイ-』(見ル野栄司、中経出版、2010)
・・日本のものづくりの中心はメカトロニクス
書評 『ブルー・セーター-引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語-』(ジャクリーン・ノヴォグラッツ、北村陽子訳、英治出版、2010)
・・発展途上国で水を確保することの意味
このオレに温かいのは便座だけ (サラリーマン川柳より)
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書評 『まっくらな中での対話』(茂木健一郎 with ダイアログ・イン・ザ・ダーク、講談社文庫、2011)
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(2012年7月3日発売の拙著です)
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