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2012年5月15日火曜日

書評『脳を創る読書 ー なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』(酒井邦嘉、実業之日本社、2011)ー「紙の本」と「電子書籍」については、うまい使い分けを考えたい

「紙の本」vs.「電子書籍」といった皮相な見方ではなく、うまい使い分けを考えたい


『脳を創る読書 ー なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』(酒井邦嘉、実業之日本社、2011)は、言語脳科学と脳機能イメージングを専門にする研究者が書いた本。

限定された入力情報によって想像力を鍛えることが「脳を創る」ことになるというのが基本的主張だ。

著者は自然科学者であり、いわゆる「理系」であるが、「紙の本」も「電子書籍」もともにメリット・デメリットがあると冷静に分析している。

「電子書籍」が優位だといっているわけでもないし、「紙の本」でなければダメだなどと主張する守旧主義ではない。検索目的であれば電子書籍のほうに優位性があるのは当然だし、本にチェックや線引きしたり書き込みすることでカスタマイズできる点においては紙の本に優位性があるというのは、経験的にみて十分理解できるところだ。冷静な議論を行うためには、著者のような整理が必要だろう。

重要なことは、「紙の本」であれ「電子書籍」であれ、活字を読む際には想像力を必要とするということだ。想像力を鍛えることで、文脈(コンテクスト)を読むチカラが鍛えられるのである。

著者は、「空気を読む」という表現は使用していないが、「行間を読む」とは文脈を読むチカラのことであり、これまでの知識や経験の蓄積をつかって「想像力で補う」ことを意味している。活字を読むことの効用はきわめて大きい。

やや「教養主義的」な発言がみられるが、そういった趣味の世界の発言は脇に置いておいても、「紙の本」と「電子書籍」との使い分けが重要という著者の主張はきわめて穏当なものだといえるだろう。

「電子書籍」時代に入ったいま、とくに若者を教育する立場にある人には読んでもらいたい本である。




<書評への付記>

脳への入出力にかんして活字と音声と映像を比較すると以下のようになると著者は述べている。

入力(インプット)にかんしては、情報量は映像が圧倒的に多い。活字<音声<映像 という不等式になる。映像が圧倒的に情報量が多く活字の情報量は限定されているのである。

出力(アウトプット)にかんしては反対に、活字>音声>映像 となる。

入力に際して情報量の少ない活字であるが、活字を読む際には想像力を必要とするということを考えれば、活字に託すことのできる情報量が多いことがわかる。

人間は活字を読む際に、目で活字を追いながら無言で音声に変換しているようだ。このプロセスを経ないと脳に受容されないらしい。

音声はシークエンシャルであるのに対し、活字は行きつ戻りつができる。この点において、活字の優位性があるといってもいいのかもしれない。

とくに言語能力に絞って脳機能をみることで明らかになるものも多い。わたしが著者の主張で面白いと思ったのは、つぎのものだ。

日本語には同音異義語が多いから漢字を使わなくてはならないという主張を一刀両断にしているのは小気味よい。ローマ字で書くときは前後の文脈から読み取る際に行使する想像力が、漢字まじりで書かれているよりも多いだけであると。梅棹忠夫さんに聞かせてあげたかった説明である。梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (2) - 『日本語の将来-ローマ字表記で国際化を-』(NHKブックス、2004) を参照。

ただ、本書では脳の可塑性についての議論があまり取り上げられていないので、ローマ字日本語を読むには、「慣れ」という要素がじつは大きいことも知っておくべきだろう。可塑性は変容性といいかえていいかもしれない。脳の可塑性については、書評 『脳の可塑性と記憶』(塚原仲晃、岩波現代文庫、2010 単行本初版 1985)を参照。

脳機能の観点から活字について考えてみるのも意義のあることだ。



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電子書籍

拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』が、"電子書籍の本命" アマゾンの Kindle(キンドル)版としてリリースされました!(2013年11月15日)

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