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2012年12月11日火曜日

書評『京成電鉄 - 昭和の記憶』(三好好三、彩流社、2012)-かつて京成には行商専用列車があった!


副題に「昭和の記憶」とあるが、もちろん京成電鉄は平成の現在も走り続けている。

だが、写真アルバムとしては「昭和の記憶」というがいい。なぜなら、京成電鉄のイメージは昭和時代にふさわしいからだ。

戦前から、戦後にかけて東京と千葉県の成田を結んで走り続けてきた京成電車。京成とは東京の「京」と成田の「成」から一字づつとったものだ。

そもそもは、江戸時代に盛んになった成田詣でのための成田街道を鉄道で置き換えたものが京成電車なのだ。

関西もそうだが、関東もまた私鉄の起源は寺社詣でにあったわけだ。

もちろん、京成電鉄は東京の人間が成田に往復するためだけのものではない。

最近はもうほとんどなくなってしまっただろうが、かつては千葉県の農家のおばちゃんたちがものすごい大きくて重い荷物をかついで東京下町に行商するための路線でもあったのだ。

わたしが京成電鉄をもっとも乗っていたのは、高校の登下校のためにつかていた頃だが、その当時は朝早い時間帯には行商列車というものがあった。その後、行商専用車輌が最後尾に連結される形に変わっていったが、行商のおばちゃんたちの姿はよく目にしていたものだ。

関東でいえば、西武鉄道もまた練馬大根を東京に運ぶためだとよく言われていたが、京成もまた東京近郊から東京への物資の輸送にも大いに貢献していたわけだ。

表紙にあるのは、なつかしい青電と赤電。中高校生の頃、われわれは青電のことを「草餅」と呼んでいた。いまでも現役である(下の写真)。この電車は、京成大和田駅始発の各駅停車に多かったと思う。



(京成電鉄津田沼駅にて2009年撮影 車輌は1972年製造)


都市の発展は、時計回りに西から東に向けて進んでいくと経験的に観察されているが、東京もまた西郊のほうが東郊よりも発展のスピードと成熟度は高いのは否定できない。

だから話題になるのはいつも東急や小田急、そして京王や西武鉄道ばかりだ。沿線住民が多いのだからそれは仕方がない。

だが、昭和時代に京成電鉄を利用してきた人も少なくはない。沿線の発展によってさらに増えているはずだ。

そんな垢抜けない京成電鉄にはお世話になってきた人、そしてひろく鉄道ファンにはすすめたい写真集である。

中身とはぜんぜん関係ないが、著者の三好(みよし)好三(よしぞう)という名前が左右対称、あるいは上下対称なのが面白い。
 





著者プロフィール  

三好好三(みよし・よしぞう)
昭和12年東京生まれ。国学院大学文学部卒業後、高校教諭を経て乗り物エッセイスト・コラムニスト。著書に『中央線 街と駅の120年』、『武蔵野線まるごと探検』(以上、JTBパブリッシング)、『よみがえる東京 都電が走った昭和の街角』(学研パブリッシング)、『西武鉄道 昭和の記憶』(彩流社)、『京王線・井の頭線 昭和の記憶』他多数。

<関連サイト>

ぐんぐん京成 (むかしなつかし京成電鉄のCMソング YouTube)


<ブログ内関連記事>

『新京成電鉄-駅と電車の半世紀-』(白土貞夫=編著、彩流社、2012)で、「戦後史」を振り返る

「成田山新勝寺 断食参籠(さんろう)修行(三泊四日)体験記 」全7回

書評 『「鉄学」概論-車窓から眺める日本近現代史-』(原 武史、新潮文庫、2011)

「企画展 成田へ-江戸の旅・近代の旅-(鉄道歴史展示室 東京・汐留 )にいってみた

書評 『鉄道王たちの近現代史』(小川裕夫、イースト新書、2014)-「社会インフラ」としての鉄道は日本近代化」の主導役を担ってきた

(2014年5月11日、2016年7月23日 情報追加)



 
 (2020年12月18日発売の拙著です)


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