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2012年12月29日土曜日

書評 『終わりなき危機-君はグローバリゼーションの真実を見たか-』(水野和夫、日本経済新聞出版社、2011)-西欧主導の近代資本主義500年の歴史は終わり、「長い21世紀」を生き抜かねばならない


もはや資本主義にフロンティアはない! いま日本でミャンマーが最後のフロンティアとして喧伝(けんでん)されてるのはそのためだ。

もはやアメリカも自国内にフロンティアは存在しない! アメリカは自国の低所得者層を収奪したあげく金融破綻を引き起こしている。2008年のリーマンショックとは、低所得者向けの不動産ローン債券にむかったマネー暴走がもたらしたものであった。

そう、つまり近代資本主義がすでに行き詰まっているのだ。

これが利子率が低下したままになっている真の原因だ。著者はこの資本主義にとってのフロンティア状態をさして「世界史の終わり」が近付いているという。政治思想家のカール・シュミットに従った表現である。

この状態をさして経済史では「利子率革命」というが、日本でこの1998年続いているこの低金利という事態は、じつにヴェネツィアとライバル関係にあったイタリアの都市国家ジェノヴァ共和国以来の出来事なのだ。

ジェノヴァ共和国では、11年間(1611-1621)にわたった「利子率革命」が進行していた。そして同時期には西欧では「価格革命」が進行していた。つまるところ、その当時、もはやこれといった投資先がなくなっていたため、低金利状態が長く続いていたのである。つまり400年前もデフレ状態だったのである。

同様の状態にある日本も低金利状態はすでに14年以上続いており、著者の水野和夫氏は「21世紀の利子率革命」と名づけるべきだという。さらには金融危機後のアメリカも欧州も低金利政策を採用し、この政策が短期間に終わる見込みはまったくたっていない。この意味からいっても、いま世界経済は大転換期にあることは間違いない。

著者はこの状態をさいて近代初期の「長い16世紀」と、近代終焉後の「長い21世紀」として対比させて、「危機の予兆」「反転攻勢」「旧体制の危機」というダイナミズムを論じているが、問題は500年前とはちがって、21世紀の資本主義にはもはやフロンティアは存在しないことにある。存在しているとしても、開発されつくすのもそう遠い先ではない。

著者は、まえがきでこう書いている。

書名を『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』としたのは、ブルクハルトのいう「歴史における危機」は未だ中間点を過ぎたあたりで、これからも続く可能性が高いからである。危機が終わるのは数十年先であろう。(* 太字ゴチックは引用者=わたし)

本書は、現在の未曾有の世界的危機がなにを意味しているのか、16世紀以降の「500年単位の歴史」を近代欧米資本主義の歴史として徹底的に分析し、資本主義が主導したグローバリゼーションの興亡を詳細にみていくことによって、日本の立ち位置がどこにあるのかを考える500ページを超える大著である。

では、グローバリゼーションについて、近代西洋資本主義の流れにそって歴史的に振り返っておこう。


グローバリゼーションは与件ではない。資本主義が必要としたのだ

16世紀からはじまったポルトガルとスペインが主導した「大航海時代」は、実はイタリアのジェノヴァ商人とユダヤ商人が背景では主導権を握っていた大規模な投機経済である。これが大航海時代という「第一次グローバリゼーション」の波であり、その波は日本にまで押し寄せた。ちょうど戦国時代末期の頃である。

大航海時代の覇者ポルトガルが衰退し、覇権を握ったのはスペインであるが、その後オランダ、そして英国が勝利を収め、海洋帝国としてのグローバル・ネットワーク(=大英帝国)を築き上げていく。そのプロセスのなかで「産業革命」という「第二次グローバリゼーション」が始まる。

ここにあげたポルトガル、スペイン、オランダ、英国はみな植民地収奪によって富を蓄積したのである。一度も覇権国となったことはないものの、フランスもまたそのなかに含めるべきであろう。

米国の文明史家エマニュエル・ウォーラスティンのいう「近代世界システム」はこのプロセスのなかでを形成されていった。中心国が周辺国を従属化し、収奪することによって資本主義が進展するというプロセスである。中心国の資本主義にとっては周辺国が広大なフロンティアとして広がっていたわけだ。

その最後尾として、明治維新以降の近代日本がその流れに参加することになる。日本は第一次グローバリゼーションに巻き込まれたものの、その後はみずから離脱して西洋とは異なる歴史を歩んで三世紀に及ぶ空前絶後の平和時代を享受する。しかし、第二次グローバリゼーションの波には抗しきれず、積極的に巻き込まれることによってプレイヤーとして、植民地化されずに生き残る道を選択した。

世界の覇権国となった海洋帝国である大英帝国を受け継いだのが米国であるが、「海の時代」の覇者であった米国のパワーが衰退に転じたのは 1974年である。この年に粗鋼生産はピークを打っていることが著者によって示されている。前年の1973年に米国はベトナムに敗れ、膨張主義はストップをかけられた。いわゆるニクソン・ショックによって金とドルの交換が停止されたことは、覇権国としてのアメリカの衰退化を象徴した出来事であった。

そして、「第三次グローバリゼーション」は、ベルリンの壁が崩壊した1989年からはじまった。1992年にはソ連が崩壊し、旧東欧諸国が資本主義のとってのフロンティアとして登場したことも大きい。その前から暴走がはじまったマネー資本主義が2008年にはクラッシュしたものの、いまだにストップがかかることなく続いている。

つまり、グローバリゼーションは自然発生したものではない近代西洋資本主義が生き残るためのフロンティアを求めての運動であったということなのだ。


「海の時代」からふたたび「陸の時代」へ転換?

資本主義は、空間差と時間差を利用してその差異を縮小していく運動であるというのは名著 『ヴェニスの商人の資本論』(筑摩書房、1985 現在はちくま文庫)における岩井克人教授の説明だが、空間差を利用した資本主義は、もはや地理的な意味でのフロンティアがほぼ消滅したことで終わりに近付いているのである。

時間差にかんしても、インターネットの普及でリアルタイムでのビジネスが可能となった結果、いちじるしく差異が縮小してしまっている。パワーの中心は中国やインドなどいわゆる古い「新興国」に移転する流れは止めようがない。これが現在の状態である。

資本主義にとっての最後のフロンティアは内陸部にしかない。残されたフロンティアはアフリカ大陸とユーラシア大陸奥地。さすがに宇宙への拡大は、まだまだ技術レベルがそこまで達していないので、かなり将来的なものとなるだろう。あるいは想定には入れるべきではないかもしれない。

いま進行しているのが「海の時代」からふたたび「陸の時代」へ転換しているというのが著者の見立てである。陸海空を制した米国も、「9-11」以降はもはや空の安全だけでなく海の安全も完全に確保できないことが、2001年9月11日に明らかになってしまった。

「海の時代」のプレイヤーである日本もまたピークアウトしているだけでなく、安全保障を米国に依存してきただけに苦しい局面に立たされているのである。

ものづくり日本は製品の高度化で、金融立国にシフトした米国はレバレッジをつかうという「高さ」をつかった立体(=三次元)勝負を行ったが、日本のものづくりも米国の金融もともに敗退を喫したのである。


日本と日本人は「長い21世紀」をどう生きていくか

ビジネスパーソンにとってもっとも関心が高いのは、この苦境からいつどのようにして脱出できるのか、今後の世界経済はどういう方向に向かっていくのか、そのなかで日本と日本人はどう生きていけばいいのかということだろう。

著者は、この500年の歴史については、手を変え品を変え何度も何度も語っているのだが、ではこれからどうなるのかについてはほとんど語っていない。ビジョナリーではないエコノミストの著者にそれを期待するのは無理があるかもしれない。その点については、 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)を参照するべきだろう。

少なくとも本書から読み取れるのは、ユーラシア内陸国家のフロンティアも、21世紀で開拓されつくされる可能性が高いということだ。そう考えると、ほんとうに「陸の時代」といえるのか疑問を感じざるを得ない。そうだとしても長期的な話ではないというべきではないか。

地政学的なポジションからいって日本がユーラシア大陸に深入りすることがいかに危険な企てであるかは、第二次大戦での敗退によって痛いほど味わっているはずだ。日本という国家そのものが衰退する潮流にあるとはいえ「海洋国家」である以上、取り得る選択肢はおのずから限定されることを認識しなくてはなるまい。

同じ内容が何度も何度もでてくるのは、正直いって冗長であるという感は免れない。注をほぼすべてカットして本文を2/3程度に圧縮したら、もっと読みやすい本になったであろう。学術書ではないがぜひ索引をつけてほしかった。

そのような欠点はあるものの、エコノミストとして証券会社という資本主義の最前線にいた著者が書いた本書はじつに読み応えのある本である。膨大なページ数にめげず、時間をつくってぜひガップリと四つに取り組んでほしいと思う。



 

目 次

まえがき
第1章 陸と海のたたかい-地理的・物的空間と電子・金融空間
 1. 9・11、9・15、そして3・11の意味するもの-近代の終焉
 2. 何のための、誰のための景気回復か
 3. 21世紀は海の国に対する陸の国のたたかいの世紀
第2章 成長神話と米国幻想-「成長」自身が「収縮」をもたらす
 1. 1974年になにが起きたのか
 2. 「過剰」な近代
 3. 日本が手本にしたのは、日本に10年遅れの米国
 4. 米「資本の帝国」 VS. EU「理念の帝国」
第3章 ヨーロッパ史と世界史の融合は可能か-「長い16世紀」を超える21世紀の衝撃
 1. 21世紀のグローバリゼーションは過去とどこが違うのか
 2. 賃金下落をもたらす「利潤革命」
 3. 今、世界は「長い21世紀」のどのあたりにいるのか
 4. 普遍化のヨーロッパ史 VS. 多様性の世界史
第4章 「技術進歩教」神話の崩壊とヨーロッパ史の終わり-「膨張」のヨーロッパ史と「定常」の日本史
 1. 新興国インフレと先進国デフレ
 2. 欧米近代資本主義の「全地球化」の矛盾と限界
 3. 「永久革命」の終わりと止まらない蒐集
 4. 3・11原発事故の衝撃-「近代の自己敗北」と「歴史における危機」
あとがき
注記
参考文献

著者プロフィール

水野和夫(みずの・かずお)
埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授。1953年生まれ。1977年早稲田大学政治経済学部卒業。1980年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。八千代証券(国際証券、三菱証券、三菱UFJ証券を経て、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社。1998年金融市場調査部長、2000年執行役員、2002年理事・チーフエコノミスト、2005年参与・チーフエコノミスト。2010年9月三菱UFJモルガン・スタンレー証券退社。著書に、『100年デフレ』(日本経済新聞社、2003)、『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(日本経済新聞社、2007)、『金融大崩壊』(日本放送出版協会、2008)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<ブログ内関連記事>

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む 
・・水野和夫氏の著書について触れている

書評 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)-12世紀からはじまった資本主義の歴史は終わるのか? 歴史を踏まえ未来から洞察する

政治学者カール・シュミットが書いた 『陸と海と』 は日本の運命を考える上でも必読書だ!

書評 『歴史入門』 (フェルナン・ブローデル、金塚貞文訳、中公文庫、2009)-「知の巨人」ブローデルが示した世界の読み方

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む
・・水野和夫氏の著書について触れている

書評 『新・国富論-グローバル経済の教科書-』(浜 矩子、文春新書、2012)-「第二次グローバリゼーション時代」の論客アダム・スミスで「第三次グローバル時代」の経済を解読

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために

(2016年1月16日 情報追加)



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