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2012年12月21日金曜日

書評『ユーロ破綻 ー そしてドイツだけが残った』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)ー ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている


単一共通通貨ユーロが破綻する可能性など、ユーロが導入された1999年にはいったい誰が考えただろうか? しかし約10年後の2008年のリーマショック以降、経済危機はアメリカから欧州に波及し、ユーロは小国ギリシアに翻弄されつづけてきた。

今週火曜日(2012年12月18日)のことだが、ギリシア国債の格付けが6段階(!)引き上げられたというニュースが流れていた。大手格付け会社S&P(=スタンダード・アンド・プアーズ)が、ギリシア政府が新たな債務削減策を実施し、ユーロ圏からの支援が継続されることになったためだという。

具体的にいうと、SD(Selective Default:選択的債務不履行)から、シングルBマイナス(Single-B-Minus)への格付け向上である。SDは、債務不履行を意味するデフォルト(D)より一つ上なので、つい最近まではギリシアはほとんどデフォルト状態すれすれであったということだ。

だが、Bの格付けは、「現時点では債務を履行する能力を有しているが、BBに格付けされた発行体よりも脆弱である。事業環境、財務状況、または経済状況が悪化した場合には債務を履行する能力や意思が損なわれやすい」(wikipediaの説明より)なので、けっして安定したわけではない。

じっさいにギリシア政府がどこまで緊縮財政をやりぬくか次第なのだが、はたしてそれが完遂できるかどうかは、当事者にもステークホールダーにも確信をもって断言することはできないだろう。

国債とは英語でいえばソブリン・ボンド(Sovereign Bond)のことだ。ソブリンとは主権国家の「主権」を意味する。だが、共通通貨ユーロの加盟国であるギリシアには、究極の国家主権である通貨発行権はいまやない国家として独自の通貨はもてないのである。

にもかかわらず、ギリシアだけでなくその他のユーロ加盟国も、財政主権など通貨発行権以外の主権を有したままの中途半端な状態になっている。これが、ユーロ設計の問題点なのだ。設計ミスといっていいだろう。統一ドイツが強大化することを抑制するために、知っていたうえで見切り発車したのか?

小国ギリシアに端を発した財政問題は、いまや欧州の大国スペインにも飛び火し「ユーロ破綻」危機は深刻化している。いわゆる PIGS と呼ばれるポルトガル、イタリア、ギリシア、スペインといった南欧諸国はいずれも財政危機状態にある。

その最大の原因は、本書のキーワードである「資本逃避」(capital flight)にある。カネは不安定なところから安定しているところに逃避する性格をもっている。

資本は不安定な PIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシア、スペイン)から、経済が安定しているドイツやオランダへと逃避が続いている。債権国の代表であるドイツにはカネが集まる一方、経済が弱体化している南欧諸国は債務国となっている。つまり、欧州は債権国と債務国に完全に二分化しているのである。

このような状態のなか、ドイツが獲るべき選択肢は限られている。しかし、弱小国救済に反対する国内世論はきわめてつよく、政治家がたとえ問題構造を理解していても、原発廃止に見られたように、まったく民意を無視することができない状態にある。ドイツ自身がジレンマ状態にあるのだ。

詳細は本文を読んでいただきたいが、この本は現在の「ユーロ破綻」危機がなぜ発生したかを、1929年の大恐慌との対比をつうじて、懇切丁寧に解説したものだ。

第2章のタイトルにあるように、危機は(1929年と同じく)今回もアメリカから欧州へと波及したのであり、第3章のタイトルにあるとうに危機は(欧州の)周辺から始まったのである。

噛んで含めるように、いま国際経済の現状がどうなっているのかを教えてくれる本である。素直に最初から読んでいくと理解できるとうに書かれている。目次を紹介しておこう。

プロローグ
第1章 大恐慌の神話
第2章 危機は今回もアメリカから欧州へ
第3章 危機は周辺から始まる
第4章 インフレに群がるマネー
第5章 ギリシャ債務不履行の政治経済学
第6章 苦悩するリーダー国ドイツ
第7章 危機拡大の構造
第8章 ユーロ分裂のシナリオ

いい意味でも悪い意味でも、いまやドイツは欧州の中核にある。ドイツがいかなる行動をとるかによってユーロの運命は決まるのである。破綻か、それとも・・・。そのドイツの苦悩と野望がいかなる意思決定につながっていくのか注視せざるをえない。

ただ単に欧州だけの問題ではなく、世界経済全体に波及する問題なのである。もし、一国でも政府債務不履行によってユーロを離脱するようなことが発生すると・・・・。

世界は金融だけでなく、サプライチェーンによって製造業も小売業もみな、きわめて複雑につながっているのである。影響がいかなるかたちでネットワーク全体に及ぶか、考えただけでも恐ろしい。いわゆるシステミック・リスクは金融だけではないのだ。

実体経済にまで及ぶその怖さについては、ぜひプロローグを熟読していただきたい。読めば背筋が凍るのを感じるはずだ。

願わくば大恐慌の到来しないことを!





著者プロフィール  

竹森俊平(たけもり・しゅんぺい)
慶応義塾大学経済学部教授。1956年東京生まれ。1981年慶應義塾大学経済学部卒業。1986年同大学院経済学研究科修了。同年同大学経済学部助手。1986年7月米国ロチェスター大学に留学、1989年同大学経済学博士号取得(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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