2008年のリーマンショックか4年以上たったが、世界経済はいっこうに回復する兆しもない。
そんななか、 『世紀の空売り ー 世界経済の破綻に賭けた男たち』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文芸春秋社)を読んだ。原著も日本語版も2010年に出版されている。
アメリカ金融破綻を、逆張りで空売りに賭けた少数のアウトサイダーたちから描いた作品だが、読んでいて思ったのはアメリカ資本主義の行き詰まりにほかならない。
フロンティアを失っていたアメリカ資本主義が、ついには国内の低所得者層を巨大なフロンティアとみなして収奪の限りを尽くしたものの、壮大な「虚構」がついに崩壊してしまったという印象だ。
低所得者向けの住宅ローンを小口にして債券化したサブ・プライムローン証券の詳細については本書を読めば理解できるように書かれているが、その仕組みと意味について、金融業界内部のインサイダーたちもほとんど理解していなかったという事実がまた恐ろしいことなのだ。
その虚構に気付いたごく少数のトレーダーたちのアウトサイダーが賭けたのが「空売り」(ショート)であった。逆張りである。そしてその賭けに勝利するまでのドラマが、このノンフィクションの内容だ。
その反対側にいる投資銀行は「買い」(ロング)に賭けていた結果、無残にも惨敗。ベア・スターンズは破綻し買収され、名門投資銀行のリーマン・ブラザーズはこの世から姿を消した。
金融商品の仕組みを理解していない投資銀行、格付け機関のいい加減な格付け、規制し監督する立場にいながらなにも理解していなかった連邦準備制度理事会や財務省。まさに「財務省・ウォールストリート複合体」というインサイダーモラルハザードとしかいいようがない。
金融世界のインサイダーとアウトローの対比は、買い(ロング)と売り(ショート)という対比で、コントラストが鮮やかに描かれている。
1985年に名門投資銀行であるソロモン・ブラザーズが、会社形態を合資会社から株式会社に変換したことから金融世界の暴走が始まったのである。
1985年、これもまたメルクマールとなる年であったのだ。
わたしが金融系コンサルティング会社に入社して社会人となったこの年、著者のマイケル・ルイスは名門投資銀行ソロモン・ブラザーズの社員となっている。そしてその経験をもとに処女作『ライアーズ・ポーカー』を書き上げて世界的ベストセラーとなった。
オリバー・ストーン監督のハリウッド映画 『ウォール街』が製作公開されたのが1987年のことである。
原書のカバーは、釣針がドル札を巻き上げているイラストが描かれている。原書の副題にある Inside the Doomsday Machine は直訳すれば「世界の終わりの日をつくるマシーン内部」ということになる。
「世界の終わり」というドゥームズデイをつくってしまったアメリカの金融世界は、はたして正常化するのであろうか。またあらたなフロンティアをでっちあげるしか生きる道はないのだろうか?
それにしても、よくここまで詳細な取材を行ったうえで、迫真の人間ドラマに仕立て上げることができるものだと、著者マイケル・ルイスのストーリーテラーとしての手腕には驚くばかりだ。
読んでどうなるということもないのだが、読むとじつに面白い物語である。
(画像をクリック!)
<ブログ内関連記事>
書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓
・・『世紀の空売り』のあと。金融危機はアメリカから欧州へ、そしてアメリカに逆流
書評 『マネー資本主義-暴走から崩壊への真相-』(NHKスペシャル取材班、新潮文庫、2012 単行本初版 2009)-金融危機後に存在した「内省的な雰囲気」を伝える貴重なドキュメントの活字版
CAPITALISM: A LOVE STORY ・・映画 『キャピタリズム マネーは踊る』
マイケル・ムーアの最新作 『キャピタリズム』をみて、資本主義に対するカトリック教会の態度について考える
映画 『ウォール・ストリート』(Wall Street : Money Never Sleeps) を見て、23年ぶりの続編に思うこと
『資本主義崩壊の首謀者たち』(広瀬 隆、集英社新書、2009)という本の活用法について
「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む
書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている
Bloomberg BusinessWeek-知らないうちに BusinessWeek は Bloomberg の傘下に入っていた・・・
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!)
end