映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』(ZERO DARK THIRTY) をみてきた。TOHOシネマズで上映中。
タイトルの「ゼロ・ダーク・サーティ」とは、軍事用語で午前0時30分を指すらしい。ドキュメンタリータッチのアクション・スリラーエンターテインメント作品というべきか。同じリベンジものとしては、イスラエルによるテロリスト暗殺作戦を描いたスピールバーグ監督の『ミュンヘン』を超えたといっていいのではないかと思う。
アカデミー賞受賞作品の『ハート・ロッカー』の監督キャスリン・ビグローにとっては、今回は主人公は女性CIA分析官である。前回はイラク、今回はパキスタンとアフガニスタンが舞台の中心だ。いずれも最前線の人間ドラマであるが、後方支援的な任務の遂行といっても、つねに死の危険にあることには変わりない。
2001年の「9-11」は、まさに世界を激変させた出来事であった。その首謀者と目されていたアルカーイダのリーダーであるウサーマ・ビン・ラディン(・・CIA内部では UBL という略称)を最終的に追い詰め、2012年5月2日、海軍特殊部隊のネイビー・シールズによる強襲作戦で殺害に成功するまでを描いたリアリティあふれるハードファクトを描いた作品である。
まさにこのビンラディン殺害作戦の成功によって、CIAは組織として完全に復活したといえるであろう。作戦の一部始終をオバマ大統領以下の関係閣僚がモニターうをつうじてウォッチしていたことが報道されていたが、まさにいまという時代のアメリカを象徴しているシーンであった。
過酷な拷問、スパイ活動、賄賂による買収などさまざま方法と最先端の情報技術を活用した情報収集と分析活動によって、ついにビンラディンの居場所を確定し、最終的な作戦発動が意思決定されていく緊張感。まさに、その決定的瞬間のために費やされた、紆余曲折に満ち満ちた11年間であったのだ。
主人公の女性CIA情報分析官は感情移入しにくい人物であるが、映画の設定ではハイスクール卒業後18歳でリクルートされ(・・CIAは大卒だけではないのか!)、ビンラディン追跡に7年間をささげたことになっている。最終作戦の発動時には30歳ということになる。
組織人であれば、同じ年頃の女性でなくても、いろいろ思うこともあるだろう。自分の意思を貫き、猪突猛進とも見える正義感(?)で突き進む主人公。執念にも似た追求は、組織人としてのあり方を逸脱しがちでもあり、煙たく思う上司や同僚も存在する。しかし、主人公を理解する上司や同僚を巻き込みながら、最終成果にたどりつくのである。
全員一致でないから意思決定するという、CIA長官のトップの意思決定プロセスとそのスタイルも面白い。またCIAの上司のなかには、ムスリムのアメリカ人がいることもさりげなくシーンとして挿入されている。過激派のアルカイダと穏健なイスラーム教徒をいっしょくたにしてはいけないのである。
特殊部隊といえば陸軍のリーンベレーやデルタフォースが思い浮かぶが、なぜ陸上の作戦に海軍特殊部隊のネイビー・シールズが投入されたのか? その点にかんする解答がないのだが、敵のレーダー網をかいくぐってのステルス強襲作戦、超低空飛行でアフガンから無断で国境を超えてパキスタンに潜入はじつにスリリングである。
ヘリコプターが一機墜落するというアクシデントに遭遇しても、つぎの手順が決まっているという米軍の危機管理システムにも感心する。
映画は、スピルバーグの『ミュンヘン』のような感傷に流されることなく終わる。余計な説明を排した余韻のある終り方をしているが、このCIA女性分析官のその後はどうなったのだろうかと見ていて思ってしまう。
目的を喪失してバーンアウトしてしまったのだろうか、それとも現在でもあらたなミッションを遂行しているのか? いずれにせよ、もはや二度とパキスタンに入国することはできまい。女性監督が、「組織人である女性」の主人公を描いた作品である。過剰な感情移入は排した描き方だが、男性とは違う視点も感じないわけではない。
2001年の「9-11」は、まさに世界を激変させた出来事であった。その首謀者と目されていたアルカーイダのリーダーであるウサーマ・ビン・ラディン(・・CIA内部では UBL という略称)を最終的に追い詰め、2012年5月2日、海軍特殊部隊のネイビー・シールズによる強襲作戦で殺害に成功するまでを描いたリアリティあふれるハードファクトを描いた作品である。
まさにこのビンラディン殺害作戦の成功によって、CIAは組織として完全に復活したといえるであろう。作戦の一部始終をオバマ大統領以下の関係閣僚がモニターうをつうじてウォッチしていたことが報道されていたが、まさにいまという時代のアメリカを象徴しているシーンであった。
過酷な拷問、スパイ活動、賄賂による買収などさまざま方法と最先端の情報技術を活用した情報収集と分析活動によって、ついにビンラディンの居場所を確定し、最終的な作戦発動が意思決定されていく緊張感。まさに、その決定的瞬間のために費やされた、紆余曲折に満ち満ちた11年間であったのだ。
主人公の女性CIA情報分析官は感情移入しにくい人物であるが、映画の設定ではハイスクール卒業後18歳でリクルートされ(・・CIAは大卒だけではないのか!)、ビンラディン追跡に7年間をささげたことになっている。最終作戦の発動時には30歳ということになる。
組織人であれば、同じ年頃の女性でなくても、いろいろ思うこともあるだろう。自分の意思を貫き、猪突猛進とも見える正義感(?)で突き進む主人公。執念にも似た追求は、組織人としてのあり方を逸脱しがちでもあり、煙たく思う上司や同僚も存在する。しかし、主人公を理解する上司や同僚を巻き込みながら、最終成果にたどりつくのである。
全員一致でないから意思決定するという、CIA長官のトップの意思決定プロセスとそのスタイルも面白い。またCIAの上司のなかには、ムスリムのアメリカ人がいることもさりげなくシーンとして挿入されている。過激派のアルカイダと穏健なイスラーム教徒をいっしょくたにしてはいけないのである。
特殊部隊といえば陸軍のリーンベレーやデルタフォースが思い浮かぶが、なぜ陸上の作戦に海軍特殊部隊のネイビー・シールズが投入されたのか? その点にかんする解答がないのだが、敵のレーダー網をかいくぐってのステルス強襲作戦、超低空飛行でアフガンから無断で国境を超えてパキスタンに潜入はじつにスリリングである。
ヘリコプターが一機墜落するというアクシデントに遭遇しても、つぎの手順が決まっているという米軍の危機管理システムにも感心する。
映画は、スピルバーグの『ミュンヘン』のような感傷に流されることなく終わる。余計な説明を排した余韻のある終り方をしているが、このCIA女性分析官のその後はどうなったのだろうかと見ていて思ってしまう。
目的を喪失してバーンアウトしてしまったのだろうか、それとも現在でもあらたなミッションを遂行しているのか? いずれにせよ、もはや二度とパキスタンに入国することはできまい。女性監督が、「組織人である女性」の主人公を描いた作品である。過剰な感情移入は排した描き方だが、男性とは違う視点も感じないわけではない。
実際のロケ地はインド北部。パキスタンでの撮影はもとより不可能である。かつてインド北部のラダック地方を旅したことを思い出しながら見ていたが、映画を見終わったあと無性にカレーが食べたくなって本格インドカレーの店でセットメニューを食べた
映画そのものとは直接は関係ないが、2010年にチュニジアではじまった「アラブの春」と呼ばれた民主化運動のあと、すでにビン・ラーディン流のテロの時代は終わっていたという論評がなされたのだが、先日のアルジェリアのテロ事件もふくめ、その時代認識が間違っていたのである。いったいなんであったのかという感じにとらわれてしまう。
アカデミー賞主要5部門ノミネートされているが、『ゼロ・ダーク・サーティ』がアカデミー賞の受賞を逃したのは残念であった。おなじくCIAがらみの『アルゴ』であったが、『ゼロ・ダーク・サーティ』は見るべき映画である。
『秘密戦争の司令官オバマ』(菅原 出、並木書房、2013)
「無人機を使った暗殺作戦、特殊部隊を使った対テロ作戦、そしてサイバー攻撃など、秘密の戦争をエスカレートさせたのである。ノーベル平和賞を受賞した黒人初の大統領は、いかにして米国史上もっとも過激な「秘密戦争の司令官」に変わっていったのか? オバマ政権の軍事戦略や秘密諜報活動を詳細に追いながら、オバマの戦争の実像を描く」(書籍紹介から)。
CIAの指揮のもとで海軍特殊部隊が実行にあたったのがビンラディン殺害作戦。かつて犬猿の仲であったラングレー7(=CIA)とペンタゴン(=国防総省)はオバマ政権における戦略転換のもと、対テロ戦争において共同作戦を行うようになっていった。
コストパフォーマンスの観点からいって、大規模展開よりも効果的であることが、特殊作戦を推進させる要因となっている。
映画のなかで CIA関係者が tradecraft というコトバをひんぱんにつかっている。経験をつうじて獲得したスキルのこと。とくにスパイ技術をさしているようだ。
tradecraft (n)
skill acquired through experience in a trade; often used to discuss skill in espionage; "instructional designers are trained in something that might be called tradecraft"; "the CIA chief of station accepted responsibility for his agents' failures of tradecraft"
WordNet® 3.0, © 2006 by Princeton University.
映画のなかで CIA関係者が tradecraft というコトバをひんぱんにつかっている。経験をつうじて獲得したスキルのこと。とくにスパイ技術をさしているようだ。
tradecraft (n)
skill acquired through experience in a trade; often used to discuss skill in espionage; "instructional designers are trained in something that might be called tradecraft"; "the CIA chief of station accepted responsibility for his agents' failures of tradecraft"
WordNet® 3.0, © 2006 by Princeton University.
<関連サイト>
国際政治のプロたちは必見といわれるビン・ラディン暗殺映画『ゼロ・ダーク・サーティー』 CIAが異常なまでに映画制作に協力 (菅原 出、日経ビジネスオンライン、2013年1月10日)
ノーベル平和賞の大統領が仕掛けた戦争 『秘密戦争の司令官オバマ』の著者・菅原出氏に聞く(上) (瀬川 明秀、日経ビジネスオンライン、2013年1月17日)
「アルジェリア・テロ」で見えてきた“新しいリスク”『秘密戦争の司令官オバマ』の著者・菅原出氏に聞く(下) (瀬川 明秀、日経ビジネスオンライン、2013年2月8日)
ウサーマ・ビン・ラーディンの死(wikipedia日本版)
Death of Osama bin Laden (wikipedia英語版 はるかに詳細)
ZERO DARK THIRTY - Official Trailer - In Theaters 12/19 (英語 字幕なし)
Zero Dark Thirty Official Site (公式サイト 米国版)
ゼロ・ダーク・サーティ 公式サイト
Navy Seals (ネイビー・シールズ 1990公開 主演:チャーリー・シーン)
ビンラディン暗殺を遂行した特殊部隊「ネイビーシールズ」 現役隊員“ローク少佐”にインタビュー(「ガジェット通信 2012年6月12日)
Act Of Valor (2012) Official Trailer (日本公開タイトル『ネイビー・シールズ』 2012)
<ブログ内関連記事>
本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争
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映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②
・・舞台はイラク
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・・アフガンを舞台にネイビー・シールズの偵察作戦とその失敗を描いた映画
(2014年3月26日 情報追加)
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