本日(2月12日)のビッグニュースといえば、ローマ教皇ベネディクト16世が今月末の2月28日付で退位するというニュースでしょう。
つい先日には、@Pontifex というツイッターのアカウントを開設して英語のツイートをアップしたことが世界的なニュースになっていたばかりだったのですが。
正確にいうとローマ法王ではなくローマ教皇というべきですが、まさに「神の代理人」としての職務。しかし、85歳の高齢ではとても激務はつとまらないということで、まことにもって英断というべきでしょうか。
金融スキャンダルや性的虐待問題など、グローバルな巨大組織がかかえるさまざまなスキャンダルに対処してきた8年間でしたが、あまりにも複雑化した世の中のなか、カトリックのみならずキリスト教の将来性にも陰りが見えているなか、巨大組織をマネジメントする能力と資格はさらに高度化していると言わねばなりません。
在任中の退位は、600年前のグレゴリウス12世以来とのこと。グレゴリウス12世の場合は、シスマ(=教会大分裂)時代を収拾する役割を果たしての退位であったようですから、同じ退位といっても性格が異なります。
昨日(2月11日)が「建国記念の日」であった日本は、ことしが皇紀2673年(!?)ですが、ローマ教皇庁は歴史的に確定のできる世界最古の巨大組織ですね。すくなくとも1500年以上の歴史があります。
バチカンは、軍隊組織や企業組織のモデルとされてきた「官僚組織」ですから、後継者選びもまたシステム化されているわけです。いわゆるコンクラーベという選定会議です。通常3カ月以上かかるので「根比べ」とか日本人は言ってますが(笑) 長い間、後継者が決定されなくても大丈夫なのは、組織として盤石だからでしょう。
かつて西洋中世史学者の故木村尚三郎氏は、ローマ教皇庁は日本の総合商社のようなものだと言っておりました。その心は、世界中に張り巡らされたネットワーク。ただし組織論的にいえば、分散型組織ではなく中央集権型の組織ではあります。
現在のベネディクト16世はドイツ人ですが、その前のヨハネ・パウロ2世はポーランド人でした。つぎの教皇(法王)は、アフリカかアジアか南米からでしょうか? デモグラフィック(人口統計)の観点からいえば、カトリック信者はヨーロッパはすでに衰退、信者数が伸びているのは、アフリカやアジア、南米ですから、その地域からつぎの後継者を選出することは、信者のモラールアップの観点からいっても、大いに検討されてしかるべきことでしょう。あの米国ですら、すでに黒人の大統領を誕生させているのですから。
塩野七生というと、現在はローマ帝国という連想でしょうが、もともとは『ルネサンスの女たち』でデビューしたことを忘れるべきではありません。わたしは彼女のイタリア・ルネサンスものはほとんど読んでます。
つまらないビジネス書を読むヒマがあったら、はるかに有益な「人間学」である『神の代理人』本を読むことをお薦めします。
<関連サイト>
Papal resignation (教皇退位にかんする wikipedia 項目 日本語版なし)
新ローマ法王の候補者(ウォールストリートジャーナル 2013年2月12日)
ローマ法王(ローマ教皇 Pontif)のラテン語公式アカウント
Pope Benedict’s resignation: See you later - The papal resignation is an ecclesiastical earthquake. How the church interprets it will shape its future (The Economist Feb 16th 2013)
・・もともと問題発言の多いベネディクト16世であったが、たしかに最後の一発は過激なものであった。引退後の教皇(法王)の名称問題も現時点では未確定だ
P.S. 退位したベネディトス16世は、名誉教皇(名誉法王 Pope emeritus)という名称になったようだ。穏当な表現ではある(2013年3月1日 追記)
P.S. 2013年3月13日(日本時間14日)、意外なことにあっさりと二日目にして新教皇が選出された。フランシスコ1世となる。清貧を旨としたアッシジのフランチェスコ精神で改革に臨むということだろう。76歳とやや高齢だが、南米出身者ははじめて。アルゼンチンのブエノスアイレス出身。イエズス会出身者では初の教皇。いきなりアフリカの黒人が選出ということにはならなかった。新教皇はイタリア系移民なので、バランスのとれた人事といってよいだろう。(2013年3月14日 記す)。
(バチカン公式サイト Holy See より 2013年3月14日)
退位表明直前のローマ法王が神学生たちと共にした夕食会(Foresight 2013年3月12日)
・・「「バチカンでは改革派と保守派の確執が続いてきたが、最近は保守派の巻き返しが激しくなっていた。改革派であるベネディクト16世は身動きがとれなくなる前に身を引き、次の法王選びに影響力を保持しようとしたと私は見ている。コンクラーベに参加する枢機卿の多くはベネディクト16世が任命していて、その人が目を光らせていることは暗黙の圧力になる」と出席した日本人司祭が語っている。教皇は退位して、日本語でいう「法王」となったわけだ。つまり「院政」である。
<ブログ内関連記事>
書評 『想いの軌跡 1975-2012』(塩野七生、新潮社、2012)-塩野七生ファンなら必読の単行本未収録エッセイ集
・・ヨハネ・パウロ一世とヨハネ・パウロ二世という二人のローマ法王(教皇)の選出にかんして書かれたエッセイ二編が収録されている
書評 『バチカン株式会社-金融市場を動かす神の汚れた手-』(ジャンルイージ・ヌッツィ、竹下・ルッジェリ アンナ監訳、花本知子/鈴木真由美訳、柏書房、2010)
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書評 『経営管理』(野中郁次郎、日経文庫、1985)
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(2012年7月3日発売の拙著です)
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