(表紙カバ-は、宣教師フルベッキと若き武士たち)
明治時代はキリスト教の時代といわれるほど、じつに多くの青年や若い女性がキリスト教に触れ、キリスト教の洗礼を受けたのであった。
それはキリスト教を伝道する側の熱情だけではなく、キリスト教を受け入れる側にも生まれていた熱情からきたものなのであった。第二次グローバリゼーションの大波のなか、近代化を西洋化として開始した日本にとって、キリスト教はそのバックボーンとして、受け入れるにせよ排除するにせよ、けっして無視できない存在であった。
本書『聖書を読んだサムライたち ー もうひとつの幕末維新史』は、オランダ人宣教師フルベッキからはじまる流れを、人物中心のエピソード集として一冊にまとめたものである。基本的にキリスト教宣教の立場から書かれているので、やや主張の展開に強引ではないかと思う個所がなくもないが、幕末維新から明治時代前半にかけての流れを知るには手ごろな一冊といえるだろう。
『武士道』(Bushido)の新渡戸稲造や、『余は如何にして基督信徒となりし乎』の内村鑑三がその典型であるが、明治時代以降キリスト教徒になった初期の日本人には旧武士階級出身者が多い。
第一次グローバリゼーションの戦国時代末期に伝来したカトリックとは異なり、聖書を読むことに重きをおいていたプロテスタント諸派にとって、儒教を中心として漢学を修めていたことで武士階級は基礎学力があった点で伝道相手としては格好の存在であったことだろう。
旧武士階級、なかでも精神のよりどころを求めていた没落士族にとっては「干天の慈雨」というべきものだったのだろう。渇きを求めた精神は水を吸うようにキリスト教を吸収したのであった。
終章で福澤諭吉を取り上げているのは、著者が慶應義塾大学卒業というだけではない。キリスト教排撃論者として知られていた福澤諭吉は、じつはキリスト教には理解があり、のちには自分の考えを改め、それを新聞論説で公表している。
おそらくかの有名なフレーズ「天は人の上に・・・」にでてくる「天」は、キリスト教の「天」(Heaven)も念頭にあったのかもしれない。
著者は言及していないが、西郷隆盛の有名な「敬天愛人」もキリスト教と関係があるという説もあるくらいだ。『自助論』の翻訳者・中村正直をつうじて知ったものらしい。中村正直は儒者でキリスト教徒となった人だ。
個々の人物についての深掘りはないのがやや物足りないが、一般にはあまり知られていないエピソードを多くとりあげている点はよい。
NHK大河ドラマ『八重の桜』の後半を見て、明治時代とキリスト教の関係について気になった人には、読んで損はない一冊として薦めておきたい。
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目 次
はじめに
プロローグ
第1章 洋上に浮かんでいた聖書
第2章 坂本竜馬を斬った男-今井信郎
第3章 自由民権運動の嵐の中で-坂本直寛
第4章 梅子、八歳のアメリカ体験-津田梅子
第5章 欧米使節団と密航青年-新島襄1
第6章 小刀で漢訳聖書を求める-新島襄2
第7章 会津のジャンヌダルク-新島八重
第8章 十字屋を開いた元・与力の商才-原胤昭
第9章 少年よ大志を抱け-クラーク博士の教え子たち
第10章 イエスを愛し日本を愛す-内村鑑三
第11章 われ太平洋の架け橋とならん-新渡戸稲造
第12章 一万円のあの人の話-福沢諭吉
エピローグ
著者プロフィール
守部喜雅(もりべ・よしまさ)
1940年、中国上海市生まれ。慶応義塾大学卒業。1977年から97年まで、クリスチャン新聞・編集部長、99年から2004年まで月刊『百万人の福音』編集長。ジャーナリストとして、四半世紀にわたり、中国大陸のキリスト教事情を取材(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
敬天愛人の原拠(田村貞雄 日本近代史)
・・西郷隆盛といえば「敬天愛人」。この「敬天愛人」の根拠は漢訳聖書にあるらしい。直接の典拠は儒者でキリスト教徒であった中村正直にあるようだ。さらにさかのぼれば康煕帝の「敬天愛人」に
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(2014年7月18日 情報追加)
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