英国に Blackwell という1879年開業の老舗書店があってメルマガを購読しています。だいぶ以前に Blackwell のオンライン書店で本を注文したことがあるためです。
Blackwell はオックスフォード大学に本店があり、アカデミックやプロフェッショナル向けの品ぞろえを中心にしているので日本でいえば丸善のような書店だと思います(・・と書くのは、訪問したことがないからです)。店舗網は英国が中心で英国で出版された本が中心になるので、米国とは違った傾向が見れるのではないかという関心があり、メルマガは解約せずにそのままとしているわけです。
先週のことですが、10月に大学の新学期が始まる前のこの時期に、こんな案内がきていました(上掲の写真)。Study Skills(学習スキル)特集です。
日本では大学の秋入学が話題になっていましたが、英国でも米国でも、その他の欧州各国でも秋入学が常識です。長い夏休みをはさんで学期がつづくのは非合理的ですから当然といえば当然でしょう。日本では高校以下を秋入学にそろえることが実質的に困難なので、議論じたいがしりすぼみになってしましましたが・・・
英国の大学の新学期に話を戻しまが、Blackwell のメルマガで特集されていた「新学期特集」にリストアップされている書籍は、いずれも大学学部での勉強に最低限必要なアウトプット能力を高めるものばかりです。日本語にすると以下のようなものです。
●よりよい論文(essay)の書き方
●学習スキル(study slkills)
●クリティカル・シンキング(critical thinking)
●ただしい引用(citation)の仕方
●議論(argument)の仕方 などなど
オックス・ブリッジなどのエリート大学ではなく、ふつうの大学のふつうの大学生に最低限もとめられていることです。思考能力とコトバの運用能力にかかわるものですね。そしてそのただしい作法について。
社会で生きてくためには、なによりもアウトプット能力を高めること、口頭であろうが文書であろうが、コミュニケーションの基礎はアウトプット能力にあるというのが、英国や米国に限らず西洋文明諸国では社会的な了解事項ですね。
あくまでもアウトプットのためのインプット。成果をだすとはアウトプットである、と。これがわかっていないビジネスパーソンがどうも日本には少なくないような気がします。
わたしも、日本の大学学部ではこんなことは教えられた記憶はありません。文書作成テクニックやプレゼンを含めたアウトプットの方法は、仕事をつうじて、そしてアメリカの大学院に留学して、はじめて徹底的にトレーニングされました。
すくなくともわたしの高校時代も大学時代も、このような基礎教育はいっさいなされていませんでした。大学の卒論を書く際にも指導はなかたので、見よう見まねで論文の書き方を習得したというのがいつわらざるところです。
社会人になってから、『薔薇の名前』という小説が世界的大ヒットになった記号学者ウンベルト・エーコの『論文作法-調査・研究・執筆の技術と手順-』(而立書房、1991)という「教養実用書」を読みましたが、もっとはやく出版してほしかったと思ったものです。
ちなみにクラブ活動をつうじて親しい関係にあった女子大では、その当時から英文科では卒論は英語でタイプして提出することが求められてると聞きました。ですから論文の書き方は、以前からきちんと指導されていいたようです。ワープロもパソコンも普及していなかった時代ですから、タイプライターを使用してタイプするわけですね。
論文指導だけでなく、資料の調べ方や論文の引用の仕方、ただしい議論の仕方などは、大学はもちろん、高校の段階でやるべきことではないでしょうか?
高校段階であれ、大学段階であれ、こういう基礎的な教育がなされていれば、社会人になってからロジカル・シンキングなんかあらためて勉強することなど必要ないはずだと思います。
書評 『ことばを鍛えるイギリスの学校-国語教育で何ができるか-』(山本麻子、岩波書店、2003)-アウトプット重視の英国の教育観とは?
日本語の本で知る英国の名門大学 "オックス・ブリッジ" (Ox-bridge)
書評 『イギリスの大学・ニッポンの大学-カレッジ、チュートリアル、エリート教育-(グローバル化時代の大学論 ②)』(苅谷剛彦、中公新書ラクレ、2012)-東大の "ベストティーチャー" がオックスフォード大学で体験し、思考した大学改革のゆくえ
書評 『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(ウンベルト・エーコ、ジャン=クロード・カリエール、工藤妙子訳、阪急コミュニケーションズ2010)-活版印刷発明以来、駄本は無数に出版されてきたのだ
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