現在ロシアのソチで開催2014年冬季オリンピックで、19歳の羽生結弦(はにゅう・ゆづる)選手が男子フィギュアスケートで日本初の金メダル! すばらしいですね!
19歳の若さで「心技体」が三位一体となった演技。じつにすばらしい。カタカナでいえばメンタル、スキル、そしてフィジカル。
解説者のコメントによれば今季の羽生選手は体力増強につとめたということすが、技術力はあるし、演技力もある。しかも脳科学の知見をもとにしたメンタルのコントロールも自覚しているところが知的な印象を受ける好青年。
ショートではパーフェクト以上の100点越えがすごかったのはもちろん、フリーでは前半の失敗にもめげずにセルフコントロールして後半で大技を決めたことが・・・になったようです。
(羽生結弦選手 wikipediaより)
わたし的には、さらに選曲もベストだったと思いますよ。
フリーで使用した曲は映画 『ロミオとジュリエット』の主題曲。それも、オリビア・ハッセー主演の1968年版です。甘い調べですが、なにか悲劇的な予感も感じさせる曲です。
若い人ならディカプリオ主演の現代版ともいうべき1996年リメイク版(・・といっても『ロミオとジュリエット』は何度も映画化されてますが)を思い浮かべることでしょうが、あえて1968年版のテーマ曲を選曲したというのがすばらしいと思うのです。
もちろんチームとしての選択でしょうが、本人も了解してのことですから、そこに羽生選手のすぐれた感性を感じます。
■1968年版の『ロミオとジュリエット』はフランコ・ゼフィレッリ監督の作品
1968年版の『ロミオとジュリエット』監督はイタリアのオペラ演出家フランコ・ゼフィレッリ。主演のロミオとジュリエットは、それぞれ16歳と15歳の無名の新人を起用しています。
(1968年版 ゼフィレッリ監督の『ロミオとジュリエット』)
ジュリエットを演じた15歳のオリビア・ハッセーがじつにういういしいですが、その後はあまりパッとしなかったのが残念ですね。歌手の布施明と結婚していたことくらいしか思い出しませんが・・・。
フランコ・ゼフィレッリといえば、アッシジのフランチェスコの前半生を描いた青春映画の名作 『ブラザーサン・シスタームーン』(1972年)。『ロミオとジュリエット』(1968年)もそうですが、中世イタリアを舞台にしたゼフィレッリの映画作品はじつにすばらしい! 時代の空気というものを感じさせるものがあります。しかも商業的成功を視野に入れてセリフが英語(!)ということもまた。
挿入曲として使用されているテーマ曲は、映画音楽の巨匠ニーノ・ロータの作曲、歌詞はシェイクスピアの原文にはないので、あらたに書きおろされたのでしょう。
What is a youth ?
Impetuous fire.
What is a maid ?
Ice and desire.
The world wags on.
A rose will bloom
It then will fade
So does a youth.
So do-o-o-oes the fairest maid.
Comes a time when one sweet smile
Has its season for a while...Then love's in love with me.
Some they think only to marry, Others will tease and tarry,
Mine is the very best parry. Cupid he rules us all.
Caper the cape, but sing me the song,
Death will come soon to hush us along.
Sweeter than honey and bitter as gall.
Love is a task and it never will pall.
Sweeter than honey...and bitter as gall
Cupid he rules us all
(出所: WHAT IS A YOUTH LYRICS)
■シェイクスピア作品は演劇でも映画でも原文そのままをセリフとして使用
シェイクスピア作品は、演劇はもちろん映画でも、英語を現代風に書きなおしたりいっさいせず、原文そのままのセリフをしゃべることになっています。シェイクスピアは、英語にとって聖書とならんで源泉となる存在なのです。
日本人にはなかなかでは聞くだけだけでは難しいかもしれませんね。日本の歌舞伎や能狂言もセリフを現代風に直さないのと同じです。
ウェブ上にある The Complete Works of William Shakespeare から Romeo and Juliet の Act 1, Scene 5: A hall in Capulet's house.(第一幕第5場 キャピュレット家のホールにて)のシーンから原文を見ておきましょう。挿入曲の What is youth ? につづくロミオとジュリエットのやりとりです。
日本語訳はつけませんので、お好きな文庫本で「第一幕第5場」をご確認ください。といっても、『ロミオとジュリエット』にかんしてはあまりいい翻訳がないので、書店の店頭で各種の文庫本を比較検討し、自分の好みの翻訳を選ぶことをお薦めします。
ROMEO
[To JULIET] If I profane with my unworthiest hand
This holy shrine, the gentle fine is this:
My lips, two blushing pilgrims, ready stand
To smooth that rough touch with a tender kiss.
JULIET
Good pilgrim, you do wrong your hand too much,
Which mannerly devotion shows in this;
For saints have hands that pilgrims' hands do touch,
And palm to palm is holy palmers' kiss.
ROMEO
Have not saints lips, and holy palmers too ?
JULIET
Ay, pilgrim, lips that they must use in prayer.
ROMEO
O, then, dear saint, let lips do what hands do;
They pray, grant thou, lest faith turn to despair.
JULIET
Saints do not move, though grant for prayers' sake.
ROMEO
Then move not, while my prayer's effect I take.
Thus from my lips, by yours, my sin is purged.
JULIET
Then have my lips the sin that they have took.
ROMEO
Sin from thy lips ? O trespass sweetly urged !
Give me my sin again.
JULIET
You kiss by the book.
Nurse
Madam, your mother craves a word with you.
ROMEO
What is her mother ?
Nurse
Marry, bachelor,
Her mother is the lady of the house,
And a good lady, and a wise and virtuous
I nursed her daughter, that you talk'd withal;
I tell you, he that can lay hold of her
Shall have the chinks.
ROMEO
Is she a Capulet ?
O dear account! my life is my foe's debt.
BENVOLIO
Away, begone; the sport is at the best.
ROMEO
Ay, so I fear; the more is my unrest.
CAPULET
Nay, gentlemen, prepare not to be gone;
We have a trifling foolish banquet towards.
Is it e'en so? why, then, I thank you all
I thank you, honest gentlemen; good night.
More torches here! Come on then, let's to bed.
Ah, sirrah, by my fay, it waxes late:
I'll to my rest.
Exeunt all but JULIET and Nurse
どうでしたか?
おそらく面倒くさいので英文を最初から最後まで目を通した人はあまりいないと思いますが、部分部分で単語を拾って理解することはできるでしょうし、ウェブ辞書で意味も確かめることもできるので、まったく取り付く島がないということはないと思います。
これを耳で聴いただけですぐに意味がわかるのは、なかなか大変なことでしょう。
とはいえ、「英会話にシェイクスピアは不要」などと、間違ってもバカなセリフをクチにはしたくないものですね。それとわからなくても、日常会話レベルでも聖書やシェイクスピアからきた表現がみられるのが英語という言語です。
そのためには、丸暗記してしまうのも一つの方法です。舞台俳優も映画俳優もセリフは丸暗記するのですよ! 丸暗記してしまえば、耳で聞いても単語を拾えるし、フレーズ単位で把握できるようになるはずです。
1968年版の映画『ロミオとジュリエット』の甘い調べに乗りながら、英語の勉強をしてみるのもいいかもしれません。
Romeo and Juliet 1968 Trailer Franco Zeffirelli (Dailymotion)
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