(マイコレクションよりアルメニア・ブランデー)
日本選手の活躍も目覚ましく、海外で開催された冬季オリンピックでは最多の8つのメダルを獲得しています(2月21日現在)。
メダルがもっとも期待されていた選手が残念ながら涙をのんだのも、またオリンピックという特別の存在でありますが、そのなかの一人がフィギュアスケートの浅田真央選手。
フリーの演技では自己ベストを出したものの、前日のショートでのミス連続がたたって最終的に6位と、入賞はしたものの残念ながらメダルは逃しました。
その浅田選手が個人戦前の調整のため、アルメニアに移動して合宿しているというニュースが報道されていました。2月10日から15日までアルメニアの首都エレエヴァンのスケートリンクで調整していたようです。
テレビの報道では、ただアルメニアとしか言ってないので、もしかするとソチと同様にロシア国内と思って聞き流していた人が少なくないかもしれません。
■アルメニアはカフカース(=コーカサス)の内陸国
たしかにソ連時代にはアルメニアはソ連邦を構成する共和国の一つとしてソ連内にありました。
ソ連崩壊後はアルメニア共和国として独立し、れっきとした主権国家として、ロシア共和国とはまったく別の国として存在しています。
首都モスクワからソチにいくよりも、ソチからアルメニアの首都エレヴァンにいくほうがはるかに近いのですよ! 日本スケート連盟が、アルメニアに合宿所を確保したのはさすがというべきですね。
ここに Google Map からアルメニアが中央にくるように地図を切り取ってみましたのでご覧ください。アルメニアの地政学が手に取るようにわかるでしょう。
(地図の左上にソチ 隣国のグルジア以外はみなイスラーム国)
この地図をみると、アルメニアが「文明の十字路」と呼ばれるカフカースの、そのまさに中心にあることがわかります。
この地図にはアルメニアと北で接しているグルジアだけでなく、冬季オリンピックの開催地ロシア共和国のソチ(地図の左上)とイランの首都テヘラン(地図の右下)、イラクの首都バグダッド(地図の中央下)がすっぽり収まってしまいまいます。
この一帯はカフカースと呼ばれている山岳地帯です。一般には英語風にコーカサスと呼ばれています。この山岳地帯はロシアにとっては南端にあたり、東端の極東シベリアとならんでロシアにとっての辺境地帯です。
アルメニアの真北にグルジアをはさんでウラジカフカスという地名がロシアにありますが、これはウラジ・カフカース、すなわちカフカースを制服せよ、という意味。東端のウラジオストクがウラジ・ヴォストーク、すなわちヴォストーク(=東方)を征服せよという意味であるように、対(つい)をないているわけです。
■アルメニアといえばブランデー
旧ソ連では、赤ワインといえばグルジア、白ワインといえばモルドヴァ、ブランデーといえばアルメニアと相場が決まっていました。いずれも辺境の小国です。
ロシアといえばウォッカですが、ロシア料理にこれといった独自性がなく、民族料理の寄せ集めであることと似ています。チョウザメの卵のキャビアはカスピ海、羊の串焼きのシャシリクはトルコ、餃子のペリメニはシベリアからきています。よくいえばロシアは多民族国家である、ということになります。
(外箱の下部にロシア語で「エレヴァン・コニャック工場」と書いてある)
ほんとうは、コニャックはフランスのコニャック地方のものしか名称としては認められていないのですが、ロシア語では普通名詞になってしまっているので黙認されているのでしょうか。
アルメニア・ブランデーは、英国の首相チャーチルが「気に行ったので一生分買い込みたい」といったいうことで有名になりました。芳醇でまろやかな味わいは、ブランデーに蒸留する前の葡萄酒(ワイン)のレベルの高さが背景にあるのでしょう。
隣国のグルジアは「ワイン発祥の地」といわれています。ワインはこの地から黒海をつうじてギリシアに伝わっていったのであって、その逆ではありません。また、長寿の国としても有名で、ヨーグルトが長寿食として有名になったのも、ブルガリアもさることながらグルジアの存在が大きいのです。
アルメニアは、旧約聖書に登場するノアの箱舟が到着したアララット山を民族のシンボルとしています。ブランデーの銘柄名として先にも出てきたアララットですね。ただし現在はトルコ領内に
あります。
隣国のグルジアもまたキリスト教国です。グルジアもアルメニアも、きわめて古い時代のキリスト教。グルジアは正教会、アルメニアはアルメニア正教会。アルメニア正教会はエルサレムにも教会をもっています。この二カ国は、イスラームの大海に浮かぶキリスト教の小島のような存在であるわけです。
アルメニアといえば、ソ連時代に製作されたアーティスティックな映画『ざくろの色』で有名なアルメニア出身の映画監督セルゲイ・パラジャーノフについて触れないわけにはいかないでしょう。
また、間もなく発生から100年を迎えるトルコによるアルメニア人ジェノサイド(1915年)についても触れないわけにはいかないのですが、それについてまた別の機会にしたいと思います。
とりあえずは、アルメニアという国がカフカース(=コーカサス)に存在するgということだけでも、アタマのなかに入れておきたいものですね。そしてアルメニア・ブランデーも!
浅田真央選手も、日本へのお土産にアルメニア・ブランデー買って帰るのかな?
アルメニアとグルジアに行くというのは、わたしにとってはいまだ実現していない夢。いつの日かかならず実現したいと思いつづけています。思えばかなう、かな!?
アルメニア関係でこれまでわたしが読んできたものに限る。かなり以前から関心があって読んできたのだが、いまだ訪問が実現していないのが残念。
●『アルメニア(文庫クセジュ)』(ジャン=ピエール・アレム、藤野幸雄訳、白水社、1986)
●『悲劇のアルメニア』(藤野幸雄、新潮選書、1991)
●『アルメニア史-人類の再生と滅亡の地-』(佐藤信夫、泰流社、1986)
●『アルメニアを知るための65章(エリア・スタディーズ)』(中島偉晴、メラニア・バグダサリヤン編著、明石書店、2009)
<ブログ内関連記事>
■アルメニア民族関連
映画 『消えた声が、その名を呼ぶ』(2014年、独仏伊露・カナダ・ポーランド・トルコ)をみてきた(2015年12月27日)-トルコ人監督が100年前のアルメニア人虐殺をテーマに描いたこの映画は、形を変えていまなお発生し続ける悲劇へと目を向けさせる
・・世界中に離散したアルメニア民族の運命
書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)
・・中東においては、イスラームよりも、おなじ一神教のキリスト教のほうが歴史がはるかに長い!
書評 『ろくでなしのロシア-プーチンとロシア正教-』(中村逸郎、講談社、2013)-「聖なるロシア」と「ろくでなしのロシア」は表裏一体の存在である
・・「ムスリム人口がマジョリティとなり、スラブ系がマイノリティとなったとき、ロシア正教もまたマイノリティの宗教となるのである。イスラームの大海に浮かぶ小島のような存在になるのかもしれない。スラブ人にとってはかなり暗い(?)未来図ではあるが、想定外とは言い切れないものがある」 周囲をイスラーム諸国に囲まれたアルメニアはすでにキリスト教の孤島のような存在である。2050年には世界人口の1/4がムスリムになると予測されているが、あらかじめイメジネーションを駆使して想定内にしておくことが必要。アルメニアの存在は、そのいい事例となるかもしれない?
書評 『インド人大富豪 19の教え』(山椒堂出版、2009)
・・「その次は、『アルメニア人大富豪20の教え』かい? しかしまあこのタイトルじゃ売れそうもないな。アルメニア人商人がユダヤ商人顔負けにしたたかだ、という事実はふつうの日本人は知らないだろうしね」 架空のビジネス書の書評(笑) アルメニア商人はユダヤ商人よりもしたたかというのが世界の常識
はじけるザクロ-イラン原産のザクロは東に西に
・・ザクロは、アルメニアにもまたがあるザクロス山脈から!?
■料理と酒
in vino veritas (酒に真理あり)-酒にまつわるブログ記事 <総集編>
ユダヤ教の「コーシャー」について-イスラームの「ハラール」最大の問題はアルコールが禁止であることだ
幻の芋焼酎・青酎(あおちゅう)を飲んで青ヶ島の苦難の歴史に思いをはせ、福島の苦難について考える
『ベルギービール大全』(三輪一記 / 石黒謙吾、アートン、2006) を眺めて知る、ベルギービールの多様で豊穣な世界
映画 『大統領の料理人』(フランス、2012)をみてきた-ミッテラン大統領のプライベート・シェフになったのは女性料理人
西川恵の「饗宴外交」三部作を読む-国際政治と飲食の密接な関係。「ワインと料理で世界はまわる」!
タイのあれこれ (13) タイのワイン
「泥酔文化圏」日本!-ルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』で知る、昔から変わらぬ日本人
『izakaya: The Japanese Pub Cookbook』(=『英文版 居酒屋料理帖』)は、英語で見て・読んで・楽しむ「居酒屋写真集」+「居酒屋レシピ集」
味噌を肴に酒を飲む
(2014年9月1日、11月3日、2016年5月7日 情報追加)
(2022年12月23日発売の拙著です)
(2022年6月24日発売の拙著です)
(2021年11月19日発売の拙著です)
(2021年10月22日発売の拙著です)
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(2019年4月27日発売の拙著です)
(2017年5月18日発売の拙著です)
(2020年5月28日発売の拙著です)
(2019年4月27日発売の拙著です)
(2017年5月18日発売の拙著です)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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