新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延し、マスクしなくては外出もできないような、こんな状況下だからこそ読みたいのがナウシカだ。
言うまでもなく宮崎駿の『風の谷のナウシカ』。ただし、アニメ映画版ではなくマンガ版のほうだ。
アニメ版とマンガ版ではずいぶん違うという話を聞いていて、ではマンガ版を読んでみなくちゃな、ということで全7巻を購入したのが、いまからもう四半世紀も前の1995年のこと。表紙には「定価340円」とある。物価水準は現在の半分以下なのかな?
本格的に読み始めたのは、じつは連休に入る前のこの4月下旬からだ。誰かがネットで、「新型コロナウイルスのパンデミックの現在こそ読むべきだ」とか発言しているのを目にしたからだ。そうだな、いまこの時期を逃したらマンガ版を読まないまま終わってしまうかもしれないぞ、と。
(「腐海」のなかマスクを装着し王蟲(オーム)に乗るナウシカ)
途中で中断をはさみながらも、全7巻を読み終えた。読むだけでものすごく疲れた。
物語が複雑なだけでなく、扱っているテーマがあまりにも壮大だからだ。アニメ版のように単純化されたストーリーではないからだ。
ちなみにアニメ版は、マンガ版の第2巻までの内容。それに飽き足らない作者は、その後9年かけてマンガ版を第7巻まで書き継いで完成させた。だから、アニメ版とマンガ版は、ある意味では別物と考えるべきなのだ。
最後まで読み切って思うのは、光に満ちた静寂な世界は、生きている人間のものではない、生きとし生けるものすべてにとっての世界ではない、ということだ。それは、死者の世界である。魂の住まう空間である。
生命とは、「闇のなかに生まれる光」(第7巻)。そんな光であるからこそ、ありがたい。闇がなければ光はないし、「光しかない空間」は、人間を含めた生物の世界ではないのだ。それがたとえ汚濁にまみれたものであっても、人間は生き抜かなくてはならない。闇との共生が人間には求められるのだ。
言い換えれば「光しかない空間」は「向こう側の世界」であり、それが天上世界であるか地下世界であるかは関係ない。そしてそこは、あくまでも意識(あるいは魂)だけが存在する世界であり、肉体をともなわない世界である。
「光しかない空間」が「こちら側の世界」でないことだけは、確かなことなのであり、「こちら側の世界」でしか人間は生きることができないのである。そう気づいたとき、人間はふたたび「こちら側の世界」に戻ることができる。ただし、気づくのが遅すぎてはいけないのだ。還ってこれなくなってしまう危険がある。
もちろん、ここに書いたのは個人的な感想に過ぎない。だが、いまのような状態だからこそ、読むべきもの本なのだという主張には全面的に賛成だ。
『風の谷のナウシカ』のマンガ版の連載が始まったのは1982年、完結したのが13年後の1994年。単行本として出版されたのが1995年。その年に購入したわけだ。
1995年という年がどういう年だったのか、あえて書くまでもないだろう。オウムと王蟲(オーム)。偶然の一致とはいえ、なにか不思議な暗合を感じないわけにはいかなかった、ある意味では黙示録的な時代であったことを思い出した。ある種の「空気」があったのだ。
その時代の「空気」というものを感じないわけにはいかない。だが、そのこと自体は、作品の内容とは直接関係ないことだ。
というわけで、私もまたマンガ版の『風の谷のナウシカ』をいまこそぜひ読むべきだと言いたい。いくらでも深読みできる作品だが、どう読むかは読む人次第だ。ストーリーについては、ここで要約することはしない。
したがって、ここではそれ以上は書かないでおこう。最後まで読み抜くことだ。汚濁でまみれた世界であっても、そのなかで生き抜くことだ。
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