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2020年9月24日木曜日

書評 『戦国大名の経済学』(川戸貴史、講談社現代新書、2020)-戦国時代になにがどう変わったのか? 数字で考えると「見える化」されてくるのが面白い



面白いといっても、戦争を中心にした国盗り合戦という内容ではなく、戦国時代の大名(=領主)が、その領国でいかなる領地経営を行っていたか、そして戦争にいくらかかったのかを、数字で、しかも現在価値に換算して考える歴史書だ。    
     
たとえば、戦争1回あたりのコストは、著者の試算によればザックリ約1億円(!)となる。まあ、そんなもんだろうなあという気にさせられるが、いまも昔も、戦争するにカネがかかるわけだ。 

著者による試算の一例をあげておこう。兵士の装備や糧食などの要素にかかわるコスト計算である。
    
兵士の装備は一式70万円で、しかも刀も鎧も基本的に自前で準備する。さらに、鉄砲は1挺50~60万円するので、すべて含めると120~130万円となる。商売道具とはいえ、けっこうかかるわけだなあ。 
    
「腹が減っては戦ができぬ」というように、動員中の兵糧は絶対不可欠だ。本来は基本的にこれも自弁だったが、大規模な戦争ともなると領主が用意することもあったようで、30日の動員なら1600人で米300石で、現在なら約1,000万円という計算になる。 
     
戦争するにはカネがかかるわけだが、これを単に費用と考えるのでは、とても割りに合わない。ある意味では、投資と考えていたのではないかと思う。戦争で勝って領地を増やし、領地から上がる収入でもって、さらに戦争を行うという拡大再生産の循環だ。 そんな感想をもつ次第だ。
     
このように、本書では戦国時代の経済について、多面的に検討されている。 
      
戦国大名の財政については、戦時以外の平時の支出(・・道路維持は有事の際の軍にとっても重要だった)年貢以外の収入源として開発された各種の鉱山(・・とくに銀山が中心)、九州の諸大名が中心だが活発化していた海外貿易などについて取り上げられている。
       
とくにこのプロセスで積極的に開発された「日本銀」が、日本を世界史のメージャー・プレイヤーに仕立て上げたことは、世界史の常識といっていいだろう。なんと16世紀初頭には世界全体の銀産出量の1/3は日本銀だったのだ。 
   
さらに、当時の貨幣経済が抱えていた問題の解決として、秀吉の時代に米経済である「石高制」が導入され、江戸時代初期に定着していったことが、説得力をもって語られるという内容だ。なぜ江戸時代がコメ中心の経済を基本としたのか、その理由は価格変動をいかに回避するかという点にあった(・・価格が変動するからこそ、そこに商機を見いだす商機を見いだすビジネス発想とは真逆である)。
   
全編をとおして淡々とした記述が続くので、血湧き肉躍るという戦国絵巻からはほど遠いが、数字で考えると見えてくるものは多い。数字で捉えるとイメージが湧きやすくなることも多い。 
  
日本は「応仁の乱」(1467~1478)で根本的に変わったと言われることが多いが、戦国時代後半の16世紀に、なにがどう変わったのか、それを経済という観点から知るための好著であるといえよう。


 


 目 次
 
序章 戦国時代の経済と戦国大名の経営 
第1章 戦争の収支 
第2章 戦国大名の収入 
第3章 戦国大名の平時の支出 
第4章 戦国大名の鉱山開発 
第5章 地方都市の時代-戦国大名と城下町
第6章 大航海時代と戦国大名の貿易利潤 
第7章 混乱する銭の経済-織田信長上洛以前の貨幣 
第8章 銭から米へ-金・銀・米の「貨幣化」と税制改革 
終章 戦国大名の経営と日本経済 
参考文献 
あとがき
 
著者プロフィール
川戸貴史(かわと・たかし)
1974年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位修得退学。博士(経済学)。現在、千葉経済大学経済学部准教授。専門は、貨幣経済史。 著書に『戦国期の貨幣と経済』(吉川弘文館)、『中近世日本の貨幣流通秩序』(勉誠出版)がある。


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